2
忘れられてたルーアンの居場所を捜すのに手間取り出発が遅れた。
誰もがルーアンの顔を忘れており、山賊に気づかれないように変装して隠密行動をしていたことも仇となった。
「あのぉまだ山賊を壊滅出来ていないんですが」
「安心して向こうに行ったら別の山賊を用意するから」
「はぃ」
心細げに返事をしたが山賊は用意するものではないという主張は飲み込んだ。
第三特務部隊が異動になり連れて行って貰えるから入隊できたかと言えば、まだだ。
元いた第六特務部隊では異動届けを出した瞬間に二度と隊に戻ることは許さないと言われたので、第三特務部隊に入れなければ軍を辞めるか、格下げされるかしか道は残っていない。
「レオニエール隊長」
「ちっ、何だ」
「どうして少年の姿なんですか?」
一見、ひ弱そうに見えるが精神は図太いらしい。
機嫌が悪いことを隠しもしていない隊長に話しかけられるのだから。
「俺からは二つだけ言うことがある」
「はい」
「俺のことは隊長とだけ、あとはヴィヴィに聞け」
短く答えるとルーアンのことを意識から外した。
居心地は最悪としか言えないが物見遊山気分で異動届けを出したし、隊長が大人の姿であることを期待していたのは間違いない。
動機が不純なのは重々承知の上だった。
「ヴィヴィさん」
「隊長に言われたのですね」
「はい、よく分かりますね」
「副隊長ですからね」
隊長のことを理解しており、それでいて隊長から信頼されている隊員たちのことを羨ましく思っていた。
長年かけた信頼関係は付け入る隙を見せなかった。
「レオニエール隊長にどうして少年の姿なのか聞いたんです」
「ここに居たいのなら隊長の名前は絶対に口にしてはなりません」
「それ隊長にも言われたんです。どうしてですか?」
ヴィヴィはため息をついて入隊試験に落ちた人たちにもした説明を繰り返した。
「隊長は貴女も知っているように四神帝です。軍では四神帝の名は絶対的な効力を持っています」
言葉を区切りヴィヴィはゆっくりと続けた。
「四神帝だと知り異動届けを出すくらいには」
「っ」
棘がある言葉が続いたが否定は出来なかった。
その通りだったからだ。
「だから隊長の名前は口にしてはいけないんです。それが出来ないなら今すぐに別の隊に移りなさい。元の隊に戻ることは出来ませんが推薦状くらいは書いて差し上げます」
「分かりました。隊長の名前は口にしません。だからここに置いてください」
ルーアンはしっかりと頭を下げて覚悟を決めた。
推薦状を貰えば特務部隊クラスには異動できたが何故そうなったのかは詮索される。
そして居辛くなり、また異動する。
それを繰り返していてはまともに任務もできない。
第三特務部隊に異動したいと望んだからには覚悟が必要だった。
「まぁまだ仮入隊ですから役割というのは無いですけど、その心意気だけは汲んで差し上げましょう」
「はい」
このまますんなりとはいかなかった。
ユーリーンと組んで慣れることから始まった。
だが、ウィッティントン港町は試練の街だった。
「さて、まずは食堂を探しましょう」
「へっ?」
「何、驚いてんの?まずご飯は大事でしょう」
「いや、でも先にですか?」
「街の食堂は常連客が使うからいろんな情報が手に入るのと食堂の女将は街の番長的存在だから挨拶も兼ねてね」
前の町では隊長が毎日のように食べ歩きをしていたから怪しい人物の情報や何かをしでかそうと考える人もいなかった。
ユーリーンたちも最初は余所者で警戒されたが根気よく食堂に通って信用を得た。
「見回りを先にした方がいいと思うんですけど」
「その根拠は?」
「まず街の地理とか把握しないと犯罪者がいても追いかけられませんし」
「何言ってんの?街の地理なんて地図貰ったでしょ?」
「はい、昨日貰いました」
「なら十分でしょう」
「いや、地図と実際の道を見比べて」
「見比べる必要ないでしょ?地理なんて地図を覚えたら自分がいる場所くらい分かるし、昨日貰ったなら十分でしょ?」
隊によって方針の違いというのはある。
第三特務部隊は地図で必要な道はあらかじめ覚えておくのを前提としている。
全員が街ひとつ分の地図は一日で覚えられる。
「無理ですよ。昨日貰ってすぐ覚えるなんて」
「ルーアンは方向音痴?」
「いや普通ですけど」
「そうなの?方向音痴だから地図を覚えられないと思ったよ」
地図を一日で覚えるのが普通だと思っているユーリーンにはルーアンの言っていることが理解できなかった。
だが覚えていないからと言って仕事の仕方の決定権はユーリーンにある。
「まぁ仮入隊の隊員に決定権はないから付いて来てもらうけど、いやなら隊長に異動届出したらいいよ。私は困らないから」
「分かりました。付いて行きます」
「確かこの辺りに『猫根子亭』という食堂があったはず」
「店も覚えてるんですか?」
「当然でしょ?いったい地図を貰ってから何をしていたの?」




