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「アルベンスが」


「釈放」


「された?」


昼下がりにヴィヴィからもたらされた情報は第三特務部隊を凍り付かせるには十分だった。


山を燃やして、英雄に牙を剥いてそれでも命があるだけ有り難いと思えることをしておいて釈放となれば誰でも驚く。


それもヴィヴィの父親が退位してから即位したヴィヴィの兄の恩赦となれば不可解なことこのうえない。


「お兄さまも困ったことですわね」


「いやいや困ってるようには見えないよ」


「そのお兄さまはアルベンスのしてきたことを一から十まで知っているはずなのにどうして?」


心底どうでもいいという態度を崩さない隊長は棒付き飴を転がす。


「これは王家の男子のみに受け継がれる“愚王(グオウ)”という“スペル”のせいですわ」


「“愚王(グオウ)”?」


聞き慣れない響きの言葉と遺伝する"スペル"があるということに疑問を抱いた。


“スペル”は星の数ほどあると言われるほど多種多様で中には何の効果を齎すのか分からないままというのも少なくない。


知られていないだけで密かに血脈によって受け継がれる"スペル"があるのかも知れないが、それでも男子のみというのも 不思議なことだった。


「これは王家にとって恥とも呼べることですので秘匿されていたのですが」


ヴィヴィが言うのは国にが転覆するくらいの重要なことだった。


「我が王家には賢王と呼べる者が少なく何かしらの問題ばかり起こす者が多かったのです」


どれだけ王太子のときに教育をしても、どれだけ優秀な貴族を迎え入れても改善されることなく王はもれなく愚王となった。


「ただ暴君ではないことでクーデターなどは起きず、さらに言えば王という立場さえ放棄すれば“スペル”は発動しません」


「それなら女王制度にすれば良かったのでは?」


「何度も女王を君主とする動きはありましたが、いつの時代も王は王という立場に固執して上手くいきませんでした」


「それがアルベンスの釈放に繋がった」


「えぇ、恩赦ということで怪我も治し平民なら遊んで暮らせるほどの恩給も与えられました」


おそらく家臣たちはものすごく王を止めたのだろう。


それでも王の御璽があれば覆すことは難しい。


「また大変なことにしかならない気がする」


「大人しくモラドリア女侯爵のところに居てくれたらいいのに」


「恩赦のせいで犯罪者でもないから囲い込めないし」


「いっそのこと新王を暗殺でもする?」


「それも良いかもしれませんね」


「ヴィヴィ?」


笑顔で報告していたが一番怒っているのはヴィヴィだった。


その原因はアルベンスを釈放しただけではなく、新たな任命地への辞令も影響していた。


「新たな任命地はウィッティントン港町」


「うそ」


「そこって」


「はい、四神帝ひいては四天王を毛嫌いしているソーウェル隊長率いる第六海上隊の駐屯地です」


陸には陸のルールがあるように海には海のルールがある。


普段は互いに干渉しないという暗黙の了解のうえで問題は起きていないが、良くも悪くも町の人の思考は駐屯している隊の思想に引きずられる。


戦争が起きる前から長きに渡り第六海上隊はウィッティントン港町の治安を守ってきた。


戦争が始まっても敵を上陸させることなく守り切って見せた。


そんなところに四神帝が隊長の第三特務部隊が向かえば歓迎はされない。


「研修で海上戦は経験しているけど実際は船ひとつ動かせないし」


「何でまた港町に?」


「慣れ親しんだ町では緩慢な治安維持になりかねない。気を引き締める上で必要なことだ」


「新王の発案なのね」


「えぇ」


内陸の町と違い、港町の治安維持は一年の半分以上を海上で過ごすところにある。


事前に申請された商船か、海賊船かを見極めて必要なら迎撃しなければならない。


素人では太刀打ちできないのが海での戦い方だ。


「とにかく引っ越ししないといけないか」


「そう言えば入隊試験で第六特務部隊から来たルーアン=モシェットはどうします?」


「連れて行くしかないだろう。後任の部隊がどこか知らないが特務部隊クラスの隊員を置いて行かれても困るだろう」


心底面倒だという態度を隠さない隊長は新しい棒付き飴を口にした。


「隊長」


「何だ?」


「どうして五歳児から十五歳児に成長しているんです?」


「ちっ」


五歳児の姿だった隊長からは想像ができないほどの柄の悪さだが十五歳なら反抗期という言葉で片付けられる。


だが、中身は成人している。


「ヴィヴィ」


「軍備の予算が縮小されてしまい専用の冷凍庫を置くことができなくなってしまいアイスクリームの備蓄が不可能になり、隊長の子ども姿を見たさに観光客がアイスクリーム屋に押し掛ける騒動になり、買いに行けなくなってしまいましたので、成人の姿に近づけてエネルギー消費量を少しでも減らそうとされたのですよ」


「それで飴に変わったわけか」


「てことは手を繋いで買い食いとかもうしないということですか?」


「誰がするか。黙れ」


「あの癒しの隊長がすっかりいなくなって生意気な少年になってる」


「仕方ねぇだろうが、口調や思考は姿に影響を受けやすい。嫌なら辞表を出せ。即日ハンコを押してやる」


意識をすれば変えられるが神経を使うから素のままで通している。


五歳児の隊長を見慣れていると、どうしても違和感を感じるが今更他の隊に行く気もなく慣れることを選んだ。



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