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結婚式の準備は着々と整い、そしてヴィヴィのためのドレスも最終調整に入っていた。
機嫌だけが日に日に下がり、それを宥めるのが隊長の役目だった。
馬車を飛ばして駆け付けたユーリーンとフィアットは、いつもと逆転した様子に驚いていた。
「あっ!ユーリーン、フィアットお疲れ様」
「お疲れ様です、隊長」
「ヴィヴィはどうしたのです?」
「相手の顔も知らずに結婚させられることに拗ねてるだけだよ」
「それだけではありません!わたくしは、わたくしは隊長、いえ、レオニエール様に嫁ぐことだけを考えて来たんです。それを顔も知らない名前も知らない何処の誰とも分からない男に嫁ぐなどあり得ません」
憤慨しているヴィヴィの頭を優しく撫でて宥めている。
ヴィヴィがレオニエールに恋をしているのは誰の目にも明らかだった。
そうでなければ子ども姿の隊長のお守りを王女の身で引き受けるはずがないからだ。
「それをあの男は・・・わたくしをどれだけ政策の駒として使えば気が済むのか」
「よしよし」
「いっそ殺してしまおうかしら?」
「わぁヴィヴィ落ち着いて!」
「そうだよ。早まるのは駄目だよ」
笑顔ではあるが目は本気であることが分かるユーリーンとフィアットは本気で止めにかかる。
王が娘に殺されるなど洒落にもならない。
「わたくしは落ち着いているわよ」
「目が据わってる人に言われても安心できない」
「隊長からも止めてください」
「ヴィヴィがしたいなら止める必要はないと思うよ」
「だぁ駄目だ」
笑いながらナイフの手入れを始めるヴィヴィと微笑ましく見守る隊長に諦めて何もしないことにした。
ナイフの手入れをすることがヴィヴィの精神を保つことに役立っているのなら見ないふりをするのも必要なことだった。
「忘れそうになるけど隊長は四神帝だったね」
「うん、昨日仲間だった人でも今日敵になったら迷わず殺せる人だもんね」
「それが隊長なんだけどね」
「邪魔したら殺されると思う?」
「情け容赦なく殺されると思うよ。隊長はヴィヴィのために第三特務部隊の隊長であり続けてるからね」
恋をしているのはヴィヴィだけではない、隊長もヴィヴィに恋をしている。
そのために仲間を切り捨てることができるくらいには隔たりがあった。
「私たち、どうして隊長のもとにいるんだろうね?」
「でもさ、他の隊にいたこともあるけど、ここほど良いところないよ」
「確かにね。だから離れられないんだろうね」
目の前でナイフの手入れをしていても人知れず殺すために毒を調整しているのを見ても仕方ないと思えるくらいには慣れていた。
隊長の“魅了”にかかっていないとは言い切れないが子ども姿の隊長では“スペル”は発動しない。
定期的にフィアットの“解除”と“鑑定”を受けているから本心から隊長のもとにいたいと思っていた。
「セルライン、間に合うと思う?」
「間に合うんじゃない?」
新婚旅行に出て帰って来ないセルラインだが、普通の隊なら免職ものだが隊長とヴィヴィの邪魔をしなければ許される。
ユーリーンやフィアットも他の隊では問題児として疎まれている。
「だよね」
「ヴィヴィと張り合うのが生きがいみたいな感じだったし」
「持ってる全てを使ってヴィヴィから旦那を奪うんじゃない?」
「そんな男なら初めから願い下げだけどね」
セルラインも第三特務部隊に来るまでは大変だった。
本人は最初から希望していたが、セルラインの美貌に目が眩んだ男たちが職権乱用してセルラインを配属させていた。
自覚はないが婚約者のいる男とも関係して破綻させたこともある。
「暗殺とか物騒なこと言わずにセルラインに国王を誘惑してもらったら早いんじゃない?」
「・・・そうですね。その手がありましたね」
「いや、冗談なんだけど、新婚妻に美人局させたらますます洒落にならないし、今回は国際問題になると思うけど」
「大丈夫です。国王は人妻がお好きですから」
娘にここまで暗殺を企てられている国王は探してもなかなかいない。
何度か次代に王座を譲ることを打診されているが、王子たちに譲りたくないのか頑なに拒んでいる。
「まっいい人だと良いね」
「お父様が選ぶ方が良い方であったことはありませんわ」
「そうだね。ヴィヴィの過去の婚約者は武器商人だったり三人目の後妻の軍幹部だったり隣国の放蕩息子だったりと散々だったもんね」
思い付きで婚約をさせて利益がなくなれば破棄するということを国王命令のもとでするから自国の名だたる貴族はいつ国王の気分で破棄されるか分からない婚約には消極的だった。
上手く婚姻までできても簡単に離縁されることは目に見えていた。
「いくら王族であり国のために結婚するとあっても、こうも簡単に翻されては望みというものも持ちようがありませんわね」
軍人であるのも戦争が終わったことから辞めるように再三国王から連絡が来ていた。
それを拒み続けていても限界がくるのは初めから分かっている。
王族であることを放棄することすらヴィヴィには自由にできなかった。




