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ヴィヴィの結婚相手が誰であるか分からないまま当日を迎えてドレスに着替えさせられた。
嬉しいはずの結婚式であるのにヴィヴィの機嫌だけは最悪で人形のように眉一つ動かさない。
その物々しい空気に侍女たちは顔を引き攣らせながら準備を進める。
用意ができれば新郎が迎えに来るのだが式中に発表するという国王の思い付きからヴィヴィは一人で会場へ向かった。
介助としてユーリーンとフィアットは付き合うことにした。
相手が誰か分からなくても一国の王女の結婚となれば出席しないわけにはいかない。
失礼にならない程度の王族たちが出席していた。
厳かな楽団の演奏とともに絨毯の上を歩いた。
新婦の手を新郎が持って二人並んで歩くのが通例だが、ヴィヴィ一人で歩くことになった。
その異様さに出席者たちからはざわめきが起きたが国王がいるため表立って発言することはできなかった。
「今宵は我が娘のヴィーネリアの結婚式を執り行えたことを神に深く感謝する!ここで娘の結婚相手を宣言しよう」
婚約発表なら相手が後で合流することもあるが、結婚式となるとあり得なかった。
それを押し通してしまうだけの権力があったことが不運の始まりだった。
「ヴィーネリアは国と婚姻を結ぶものとする!」
「なにを、いって」
相手として宣言されたのは人ではなく国そのものだった。
歪曲すれば国王と結婚となり父と娘で婚姻すると捉えられそうだが今回は違うようだった。
こんな報告を受けるために遠路はるばる他国にまで来たのだと思うと出席者からは不満の声が上がった。
「まさか神の娘にすることのために招待状を送られたということですの?」
「他の王子や王女は定まった婚約者と婚姻を結んでいたが第三王女だけはまだだったな」
「そうだったかしら?」
「確か褒美代わりに王女を差し出したことはなかったか?」
「あれで国王様の王女の扱いが批判されましたもの」
「そうよ。婚約でもなく領地を与えるように宣言されていましたもの」
ざわめきが大きくなるにつれて王への批判する声が上がりだす。
戦争のときの旗頭であり、立役者のヴィヴィが他国に嫁ぐことなく自国に留まることを喜び祝福されると信じていた王は予想と違う反応に戸惑った。
「なぜ喜ばない?ヴィヴィが自国に留まるのだぞ?」
「そのようなこと結婚式で報告されても誰も喜びませんわ」
「なぜだ?目出度い慶事ではないか」
「そう思っているのは国王陛下だけですわ。招待状に従って式に参列してくださった方々は皆わたくしの伴侶が誰なのかを確かめるため。自国の貴族子息なのか、他国の王族なのか、それを生涯独身を貫く神の娘となることを宣言されても誰も祝福などしませんわ」
招待されはしたが国力において上位の国の者たちは早々に帰る準備を始めた。
帰ることのできない者は、それでも批判の籠った目で国王を見ていた。
「わっわしはお前が好きな軍人を続けても後ろ指をさされないようにだな」
「いつ、わたくしがそのようなお願いをしましたの!?あのときもそうでしたわ」
「あのとき?いつのことだ?」
「戦争が終結し、功労者への褒賞の授与のときですわ」
事前に神の娘になれと言われていれば、きっとそれを受けただろう。
生涯独身だからと言って神に仕える修道女になるわけではないから恋をすることは自由だ。
だが、他国の王族まで招いておきながら結婚式とは名ばかりの報告では示しがつかない。
「あの日も今日のように、国王陛下はまるで犬猫の子を差し出すように、わたくしをある方のもとへ差し出しましたわ。お忘れになりましたの?」
「そんなこともあったな。たしか四神帝に与えたのだったな。なら返してもらえば良いだろう。招待状は送っているから来ているな。おい」
「わたくしを何だと思っていらっしゃるのです!婚約しては破棄をして、これまでに婚約をした男性の数を覚えておいでですか?」
「いちいち覚えているわけないだろう。だいたい王族と婚約できたことを誉と思うべきであろう」
顔色が蒼くなっているヴィヴィの傍にずっといる隊長が探している四神帝だと思っていない王は参列者の中に視線を巡らす。
王が引き起こす突拍子もないことをいつも陰ながらフォローしてきたが、今回のことは誰もが見限るに値するものだった。
「・・・・・・わたくしを国と結婚させるのは、なぜですの?」
「さっきも言っただろう。独身であっても惨めな思いをしなくて済むようにという配慮だ。それに側室の娘であるから大した権力も無いから娶るのは国くらいのものだからな」
大々的に発表していて気が大きくなったのだろう。
最後に王の本音が語られた。
「・・・・・・そうでございますか」
小さく呟いてヴィヴィは思いの丈を吐き出そうと息を吸った。
そこに割り込む声があった。
「ちょっと待った!!!」




