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水路が崩落をしたときは誰もがアルベンスは死んだと思っていた。

 

だから安全が確保されてから数名の先遣隊が作られた。

 

「こりゃまた大きく崩れたな」

 

「ここで作業してたのって誰だ?」

 

「アルベンスとかいう男だろ?」

 

灯りで隙間を照らして様子を伺うが上からの圧力で瓦礫が細かくなり捜索も難航していた。

 

二次崩落に巻き込まれたくないから遠目で確認するだけでは難航もする。

 

「ん?」

 

「どうした?」

 

「そこに足が」

 

「今うめき声が聞こえたぞ」

 

「生きてるのか?」

 

恐る恐る近づいて確認すると瓦礫の下敷きになってはいるが生きていた。

 

気を失って動いていなかったことが生存の要因になっていた。

 

「おい、報告しろ」

 

「分かった」

 

「おい、分かるか?アルベンス」

 

「助けを呼んでるからな」

 

灯りが増やされて瓦礫が崩れても大丈夫なように支えが入れられた。

 

奇跡的にアルベンスは手や足が瓦礫に押されていたが重要な内臓などに損傷はなかった。

 

「そっち支えたか」

 

「もう少しだ」

 

「がんばれよ」

 

助からないなら諦めもつくが生きているのなら助けようとする。

 

水路労働も鉱山労働も常に命の危険と隣合わせであり命の保証など誰もしてくれない。

 

最初は他人のことなど考えないが死んでいく周りを見て仲間意識というのは芽生えてくる。

 

「よし!」

 

「すぐに運べ」

 

「しっかりしろ」

 

すぐに軍医に診察されて手当てはされた。

 

命に別状はないが半年は動けないという結果だった。

 

助かりはしたが後遺症が残るほどの大怪我であったから、ある程度まで回復するとモルドリア女侯爵のところへ移送された。

 

「いやだ!あの女のところだけはいやだ!」

 

「静かにしろ」

 

「まともに働けないお前を引き取ってくださるのに、口の利き方に気を付けろ」

 

アルベンスの足は歩くことはできても走ることはできない。

 

左腕も重いものを持つことは難しかった。

 

そんな状態になってもアルベンスは逃げ出すことを諦めていなかった。

 

「アルベンス、こんな姿になって可哀想に痛かったでしょう」

 

「来るな」

 

「ここでなら何も心配しないで良いのよ」

 

階段の上り下りにも苦労するようになったアルベンスでは鉱山に囲まれたここから逃げ出すのは難しかった。

 

もし逃げ出せても障害のあるアルベンスを雇う者はいない。

 

「私の夫になれば労働もしなくていいのよ」

 

「何を言っている!お前と結婚するわけないだろう」

 

「それでも良いわよ。ここから出られないだけのことだもの」

 

まだベッドから起き上がることができないアルベンスを横目にモルドリア女侯爵は書類業務をする。

 

骨などは繋がりつつあったが長いこと歩いていなかった足は退化していた。

 

リハビリをすれば歩けるようになるがモルドリア女侯爵が許さなかった。

 

「貴方はもう歩けないのよ。本来の労働をして刑期を全うすることもできないの」

 

「くそっ」

 

「ふふふ」

 

屋敷の中は移動できるようにと車椅子が準備されていた。

 

モルドリア女侯爵はアルベンスを囲い込むことに全力を尽くしていた。

 

「全く外に出さないわけじゃないわ。貴方の怪我がもう少し治ったら王都に連れて行ってあげるわ」

 

「俺を解放してくれるのか?」

 

「私の目の届く範囲ならね」

 

アルベンスを支えられるのは自分だけだという自信がモルドリア女侯爵にはあった。

 

車椅子は高価なものだから平民が手に入れるのは難しい。

 

その時点でどこかの貴族の囲われ者だということは火を見るよりも明らかだった。

 

「アルベンス、あまり困らせないでちょうだいね。愛しているわ」

 

額に口づけをしてモルドリア女侯爵はアルベンスから離れた。

 

起き上がろうとしても側に控えているメイドたちが制止し、すべての身の回りを整えていく。

 

ベッドから降りるときは絶対に車椅子に乗せられた。

 

「アルベンス様、庭で散策でもされますか?」

 

「あぁ」

 

「ではこちらに」

 

どこか平民の感覚を持っているアルベンスは大怪我を負い、障害が残ると寝たきりになるものだという考えがあった。

 

そんな平民が多い中、車椅子で生活できる分、恵まれていると思い大人しくしていた。

 

扇で打たれることもなく、モルドリア女侯爵の機嫌さえ損ねなければ快適な生活が得られる。

 

「俺はこれからどうなる?」

 

「ご主人様のお心次第です」

 

「全てのことが保証されているのに何が不満なのですか?」

 

アルベンスが犯罪者で刑期が三十五年あることも怪我を負い、労働できないことも世話をしているメイドたちは知っている。

 

怪我に関しては同情する部分があるが現状に不満を言うところは共感できなかった。

 

「全てだ。俺は不当な扱いを受けていた女を守るために正義のためにしたのに、それを犯罪だと言われるのは納得できない」

 

「そうでございますか」

 

「ならば王都に向かわれたときに進言してはいかがです?」

 

「王族に直接声を挙げる機会に恵まれるやもしれませんよ」

 

平民の声を直接聞く機会が不定期に行われる。

 

そのときに領主の不当な税収などが発覚することもあった。

 

「そうだな」

 

「そのためには怪我を治さなくてはいけませんね」

 

“スペル”は精神力に大きく影響を受けるため怪我や現状を嘆いている今は“破壊(リージョン)”も“魅力(チャーム)”も発揮できなかった。

 

それでもアルベンスの身の回りの世話をしているメイドはアルベンスの好みからは外れていた。


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