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第三特務部隊の駐屯所では忙しく動く隊長の姿があった。

 

差し出される書類に脇目も振らずにサインをしていく。

 

それに比例するようにヴィヴィ以下の隊員も忙しく動いていた。

 

「この書類は終わりましたか?」

 

「隊長、急いでくださいね」

 

「新しいの来たよ」

 

アルベンスを追いかけて別部隊に留守を頼んだが、今回も別部隊に留守を頼んでいる。

 

それでも忙しい時期に離れるのだから仕事はできるだけ片づけておくに越したことはない。

 

「引継ぎ部隊の到着はいつ?」

 

「この間の大雨で道が塞がってるから二日遅れるって」

 

「それくらい予想して出発しなさいよ」

 

出発が予定より遅れていることで苛立ちもあり、誰もが焦っていた。

 

王都でどうしても外せない用事ができて総動員だった。

 

「この書類、間違ってる」

 

「書き直して」

 

「紙を取って」

 

「インクない」

 

交代で進めて隊長とヴィヴィは遅れることができないから先に出発をした。

 

隊長のサインが必要なものは終わらせたから引き継ぎのために必要なものを準備するだけだが、それも上手くいかない。

 

引き継ぎにと来た部隊が遅れると言った二日ではなく三日になって到着した。

 

「・・・来てやったぞ」

 

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 

「たかが結婚式に出るために総出とは良いご身分だな」

 

「招待状が王家より届きましたから仕方ありませんね」

 

「ちっ」

 

隊長が四神帝であることを知らない男はユーリーンに尊大な態度で接する。

 

それでなくても闘技大会では予選初戦敗退をして早々に持ち場に帰っているから王都での騒動も知らなかった。

 

単純に子どもの隊長が気に食わないという態度を崩さない。

 

「子どものお守りは大変だな。ヴィヴィ副隊長ももっと良いところに配属できるだろうに」

 

「そうですか」

 

ヴィヴィを狙っている隊長は多いし、実際に異動申請を出して自分の隊に入れようとしている。

 

ヴィヴィ自身が自分より強い男でなければ仕えるつもりはないと公言し、隊長の闘技大会の戦いを見て勝てると思う者は早々いない。

 

見ていない者が勘違いをするがヴィヴィに勝てた者はいない。

 

「まぁお前も入れてやっても良いぞ」

 

「ありがとうございます」

 

「そこの隊員も入れてやろう」

 

そこの隊員扱いをした相手はフィアットだ。

 

分かりやすいくらいに女好きだと言える男はヴィヴィが駄目ならユーリーンを引き込もうとしていた。

 

「引継ぎの資料はこちらになります。それでは留守の間よろしくお願いします」

 

「分かった。どうだ?今夜、食事でも」

 

「行程が四日遅れていますので、先を急ぎます。陛下への謁見の遅参は懲罰ものですから失礼します」

 

何度、殴り倒したいと思うのを押し殺して淡々と引き継ぎを進めたか分からないユーリーンは馬車に乗ると同時に眠った。

 

徹夜に近い状態で仕事をして疲労困憊のところに無能そうな引き継ぎ部隊の隊長だ。

 

ユーリーンでなくても我慢の限界だった。

 

「・・・ユーリーン、お疲れさま。一応、余裕はあるけど起こさない程度に急いでくれる?」

 

「かしこまりました」

 

馬車に乗って移動となるから気持ちの面では楽だし、崖を降りるというような恐怖体験はしなくてもいい。

 

多少、乗り心地が悪いくらいは我慢できる。

 

「そう言えば、引き継ぎの隊長の名前は何だっけ?」

 

「アドロ隊長ですよ」

 

「アドロ、アドロ、あぁ。アドロ準男爵か」

 

貴族の全てを把握していると言っても過言ではないフィアットが思い出すのに苦労したのは領地も持たない名誉だけの貴族だったからだ。

 

何か功績を挙げた平民に授与される爵位になり一代限りで終わるものだ。

 

上手くいけば貴族に婿入りできるとあって平民軍人が喉から手が出るほど欲しがるものだ。

 

「準男爵位くらいで私たちをものにできると思っているところが残念だね」

 

フィアットから見ればアドロ準男爵は平民とほとんど変わらない。

 

むしろ微妙に権力を持った分、関わりたくないと避けて通る。

 

「お父様に言って剥奪してもらおうかな」

 

貴族で軍人というだけで誰よりも偉くなったと勘違いする者もいるが、軍というところは実力主義でもある。

 

権力が有効なときもあるが、使いどころを間違えれば軍の体制そのものを揺るがすことになりかねなかった。

 

「第三特務部隊隊長が四神帝だって知ったら平身低頭するくせに」

 

戦争が終わった頃には四神帝と知り合いだとか共闘したとか色々自慢してくる者もいた。

 

その全てに何かしらの罰は与えてきた。

 

四神帝の名は敵を退けることもあるが、それ以上に敵を引き寄せる効果もある。

 

それに気づかない愚かな者に手を貸す必要はないのだが、面倒なことは極力避けたいから動くしかなかった。


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