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王都の外れには古びたレンガの建物が等間隔で並んでいる。
窓はなく明かりを入れるための隙間がところどころに見られるだけだ。
異様なのは建物を取り囲むように堀があり、道も人ひとりがやっと通れるくらいの幅しかない。
人の背丈の三倍はあろうという塀が取り囲み更に衛兵が見張るという徹底ぶりだ。
唯一の出入り口にも衛兵は立っている。
それだけでこの一角が一般人の住むところではなく各地から送られてきた労働犯罪者の住むところだというのが分かる。
中は消灯までは自由時間で部屋は寝るためだけの広さしかない個室になっている。
水路労働のために建物から出る以外は許されていないが、ある程度のことは謳歌していた。
脱獄を企てても一度落ちれば自力では這い上がれない堀と走ることのできない道しかない。
建物内で自由にするくらいは大目に見られていた。
「なぁ新入りはまた部屋なのか?」
「崩落した水路から戻って来たと思えば、気が狂ったように呟いてさ」
「まぁいつも俺はここに来るような男じゃないとか言ってたけどな」
「今回は違うみたいだぜ。俺は殺されるって喚いてたぜ」
ここに収容されているものは他人がどんなことをしていても関係なかった。
刑期の間、働いて外に出ることしか考えていない。
働かないなら刑期が延びるだけのことだ。
「殺されるって誰にだよ」
「はっ確かに。犯罪者は如何なる理由があっても殺してはならないってお偉い人が決めたのによ」
「だな」
部屋に閉じ籠って何もしなくても誰も指摘しなかった。
看守も厳しく取り立てることはしない。
「アルベンスにとっては、そのまま死んだほうが幸せだったんじゃねぇか」
「働かなくてもいいもんな」
馬鹿なことを言い合いながら水路労働へ向かう。
アルベンスは部屋に籠ったまま出てこないが、あまり長い間労働しないとなると他の労働者の手前、無理にでも従事させる。
部屋に籠って三日ほどだが、それよりも前から働かなかったことから最終通告が下りた。
「アルベンス、今日こそは行くんだ」
「殺される。俺は殺される。四神帝に殺される」
「四神帝様がお前如きを殺すわけないだろう。王都を出られたしな」
「なに!?王都を出たのか?そうか、そうか。俺に恐れをなして出たのか。四神帝と言っても腰抜けだったんだな」
急な変わり様に看守も驚いたが大人しく労働するのなら煩くは言わない。
アルベンスはありもしない殺される心配がなくなり上機嫌で水路に向かった。
黙っていた看守は溜め息を吐いて見回りを続けた。
「おい、今日こそは地上なのだろうな」
「はぁ?地上なわけないだろう。この間、壊れた水路直しだよ。分かったらさっさと行け」
「おかしいだろう。真面目に働いただろう」
「真面目に働くのは当たり前だ。地上に行きたかったら二十年は働くことだな」
地上での労働を希望する者は一定数いるが、誰もが脱獄を企ててのことだと看守たちは簡単に見抜いていた。
そのため水路労働から地上に出られるのは年老いて走ることもできないような者ばかりだった。
「ちっ」
どれだけ文句を言っても変わらないということと、モルドリア女侯爵のところに連れ戻されたくないという思いから従っていた。
崩落した水路の修復作業に当たるのはアルベンス一人だった。
瓦礫の撤去というところで人力で運べるくらいに砕いていく。
「くっ、何て固いんだ」
修復が完了しても崩落の危険は残るため瓦礫が取り除かれ次第、封鎖することが決まっている。
危険なところの作業を好き好んでする者などいないから必然的に何も知ろうとしないアルベンスだけになる。
「おーい、誰か、こっちに来い」
手元を照らすくらいにしかない灯りとわずかな食糧で作業をする。
監視もいないから手を抜くことはできるが、いつまで経っても終わらなければ労働していないと見做されて刑期が減らない。
地上に行くことを諦めていないアルベンスは作業を進めた。
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃない。とてつもなく固いから手が痛くなった」
「何だ。そんなことか。灯りが消えたのかと思ったじゃないか。それなら大丈夫だな」
「おい、何をしている」
「俺は向こうの担当だからな。頑張れよ」
アルベンスがいるところが崩落してもおかしくないのは知っているから早々に立ち去る。
誰もアルベンスと一緒に仕事をしようとは思っていない。
「いったい何しに来たんだ」
瓦礫を砕いたのなら取り除くために運ばなければいけないが砕くだけで運ばない。
水路を塞いでいる瓦礫を砕けと指示されているから言われたままに行動している。
「ったく邪魔だな」
足で小さくなった瓦礫を横に集めると作業を再開した。
考えなしに砕けば崩落は進む。
「このっこのっ、うわっ、うわぁぁぁぁぁぁぁ」
叫び声が響いて大きな振動でただ事ではないことが分かった。
音と振動が落ち着いてからアルベンスの様子を確認しに看守がやって来た。




