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泊まっている寄宿舎も囲まれていたようだが、同じように連れて帰られたあとだったから会わずに済んだ。
同じ軍人の中には話しかけたそうに遠巻きにするものがいるが隊長の機嫌の悪さに近づけないでいた。
「今日は何にします?」
「日替わり定食の海」
「同じく」
「なら山ですわね」
「両方」
「海三つに山三つだね」
久しぶりに会えて嬉しいのかセルラインは隊長の手を握ったまま席につく。
ワルナーとは寄宿舎の前で分かれている。
「席は確保しとくよ」
「ついでに隊長とセルラインの見張りもね、フィアット」
「了解」
機嫌が悪いことを隠しもしない隊長を一人にするのは危険だった。
今はご飯を与えて甘いものを与えて機嫌が直るのを待つのが最善だった。
それを知らずに声をかける強者はいつもいるから防波堤のためにセルラインとフィアットはいた。
「それでアルベンスはどうなったの?」
「隊長に喧嘩を売ったことを後悔して、ありもしない報復に怯えて部屋の隅で蹲っているようよ」
「さすがに英雄に喧嘩を売る勇気はなかったのね」
「このまま労働をしないようなら処刑もあり得るそうよ」
刑期の間に労働をすることで罪を償うという前提がなされないなら処刑もある。
法の下で、いかなる理由があっても殺してはならないと明言されているが、例外として黙認されていた。
罪を償おうとしない犯罪者を許すほど甘くはない。
「もともと労働してないからね」
「最近は真面目にしてたようだけど、それは地上労働に変えてもらうつもりだったようね」
それだけでアルベンスが何を狙っていたのか分かるが、詰めが甘いとしか言いようがなかった。
簡単に脱獄を許すほど監視は甘くない。
「はいよ、お待ち」
「ありがとう」
順番にできるが隊長の機嫌を直すことが急務のため先に運ぶ。
あとはセルラインが上手いことするだろうと予測して、何も言わない。
「隊長、ご飯ですよ」
「ん」
首にはいつものように布を巻いておく。
日替わり定食の海と山はそれぞれ採れたところでの食材が使われる。
「ご飯とお味噌汁はお代わりできますからね」
「ん」
魚の小骨に至るまできれいに取り除いて世話する。
一人でも食べられるがセルラインの押しの強さに諦めていた。
「それで、隊長、明日はどちらで戦うのですか?」
「もちろんこの姿だよ」
「力勝負の白虎では分が悪いのではありませんか?」
「大丈夫だよ、それにレイピアは使わない」
生きて帰れるかも分からない前線にいながら英雄と呼ばれるまでの功績を挙げたのだからレイピアだけで戦ったわけではない。
「なくても勝てるからね」
「それなら良いですけどね」
セルラインたちの分もできあがり黙々と食べる。
隊長は海定食を食べ終わったところだった。
「あっあの!」
「はい、何でしょうか?」
全員が食べ終わったのを確認していた軍人が声をかけた。
手には色紙を持っているから目的はすぐに分かる。
「サインをください」
「ごめんなさいね、お引き取りいただけるかしら?」
ヴィヴィが丁寧に相手をしている間に机を片付けて退散する。
このままいれば機嫌の悪さで遠巻きにしていた者がどんどん寄ってくる。
「でも」
「それとも命令した方が良いかしら?」
「・・・・・・わかりました」
それ以上は誰も話しかけることができずに見送るだけになった。
闘技大会が終われば持ち場に戻ることになるし、長期の隊長不在というのも治安の問題から好ましくない。
第三特務部隊も本当なら隊長と誰かという予定だったが、アルベンスのせいで王都に全員が残ることになったため特例だった。
「明日、終わったらすぐに帰った方が良いですね」
「隊長、白虎相手に秒殺できますか?」
「うーん、一分は欲しいかな」
「十分です」
王都から出るとなれば今日以上の混雑が簡単に予想できた。
どこに行くにしてもきっと色々な人がついて回る。
それが嫌で徹底して名前と姿を隠してきた。
「とにかく明日は急いで王都を離脱する」
「「「「御意のままに」」」」
戦いが長引けば長引くほど王都を離れることが難しくなる。
こうなると時間との勝負だった。
「帰りのおやつも買っておきましょうね」
「ワルナーも連れて帰らないと」
「えっ?」
「あっ!隊長、わたくしセルラインはこのたび結婚しました」
左手の指輪を見せつける。
この国の習慣ではないが、知識としてはそれが夫婦の証だということは知っている。
「おめでとう、セルライン」
「ありがとうございます」
「お祝いは何が良いかな?ミスリルの原石とか?」
「隊長がくださるなら何でも嬉しいですけど原石は祝いの品には向かないですよ」
原石をもらって喜ぶのは宝石商くらいのものだ。
セルラインが結婚することになった話を聞くために部屋に集まった。




