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地面の下から出てきた人物に興味津々で誰もが正体を知りたがっていた。
這い出て来た男の手には隊長が持っていたレイピアが握られている。
「あっ」
顔が見えて正体にいち早く気づいた隊長は男がアルベンスだと確信した。
観客席で見ていたヴィヴィたちも気づき、ユーリーンとセルラインは身を隠した。
「出て来た男は誰なのか気になりますが、今は闘技大会中ですので一般人は速やかに退場願います!」
「彼は一般人ではないよ。水路労働犯罪者だ」
総裁である彼も顔も知っているし、そのあとの処遇も知っている。
観客の中には犯罪者だと知って露骨に顔を顰める者もいた。
「しかし重罪をしでかすような風貌には見えませんね」
「何を隠そう。彼、アルベンスは山狩りをしたのだよ」
「何と!あの有名な山狩り!それは重罪ですね。水路労働は妥当というべきかもしれませんね。民にとっては死活問題ですから」
実況と総裁の会話は観客たちに広く知れ渡ってしまったが当事者のアルベンスには隊長しか目に入っていなかった。
卑怯な手で勝ち、冤罪によって水路労働を科した憎い仇としか見ていないがアルベンスにとっては仇討ちが目の前にいるのだからまたとないチャンスだった。
「俺を犯罪者にしやがって、死ね!」
「うわっ」
「逃げるな」
「えっと」
まともに武器を持ったことがないアルベンスはレイピアを振り回す。
軌道を見切ることは簡単だったが、刑期を受けた者をいかなる理由があっても殺してはいけないという決まりがある。
これはほとんどが刑期の間に労働していることから出来た決まりだ。
無償で働かせることのできる労働者を減らしたい者はいない。
「己!ちょこまかと」
「いや」
「死ねぇ」
「うわっ」
出鱈目な攻撃は隊長の勘を鈍らせた。
段差に躓いて転ぶことになった。
「ははは!俺を虚仮にするからだ!ざまぁみろ」
「痛っ」
足場が悪かったためアルベンスはそこまで勢いをつけていなかったから通り過ぎるというようなことはなかった。
転んだ隊長の頭を踏みつけてレイピアを高々と掲げた。
「これで俺の勝ちだ!」
「はぁ、本当は嫌なんだけどな」
特に焦る様子を見せることなく隊長は近くに転がっていた朱雀の煙が出る爆弾を叩き付けた。
大きな音に驚いたアルベンスは飛び退いてしまい視界を煙に覆われて焦りやみくもにレイピアを振り回した。
煙が収まるころには隊長がいた場所には五歳児の体形ではなく背の高い男が佇んでいた。
「そのレイピアは返してもらおうか」
「へっ?」
アルベンスの手首を叩いてレイピアを取り返すと溜め息を吐いた。
子ども隊長の代わりに現れた男に観客は疑問と共に興味を持った。
「こっ子ども隊長が大人隊長になったぁ!」
「その表現は間違っていないけど、彼の姿は今のが正しいのだよ」
「どっどういうことでしょうか!」
「落ち着きなよ。彼の名前はレオニエール、いや、こう言った方が伝わるかな?四神帝、と」
「えっえっえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
実況が叫ぶのも無理はなかった。
先の戦争で鬼神のごとく活躍し、国内外問わず、その名を知らない者はいないとまで言われている。
そんな男がいきなり現れたのだから驚きと言ったら推し量れるものではない。
「だからいやだったんだ。だけど俺の恋人をぞんざいに扱うのを見て見ぬふりなどできないだろ?」
自分が殺そうとしていた男が四神帝だとは思わず腰を抜かしたアルベンスは話すこともままならなかった。
朱雀も戦場でレオニエールの姿を見たことはあったが、子ども隊長の姿を知らなかったから気づいていなかった。
「あぁ隊長、素敵ですわ」
「戦争が終わってからは一度も元の姿に戻ってないからね」
騒がれるのが嫌で子ども姿のまま第三特務部隊隊長であり続けた。
隊長クラスとなれば名前を秘したまま過ごすことは可能だったからだ。
「肉体系“スペル”の“変態”の効果ですわね」
姿を子どもにするだけではないが元の姿からかけ離れた姿のまま維持するのは精神力を必要とするからあまりしない。
「小さい姿を維持するためにはエネルギーがいりますものね」
毎日のように甘いものを食べていたのは“スペル”を使い続けるためだった。
突如として現れた男が四神帝だとしり観客は沸いたが、それ以上に沸いたのは女の方だった。
全員が全員というほどに頬を赤く染めて熱い視線をレオニエールに送っていた。
「あぁすっかり虜になっちゃって」
「しかたありませんわ。あの姿のときは最大限に発揮しますもの」
「女性だけじゃないよ。男性も何人かは“魅了”にかかってるよ」
「“魅力”程度じゃ太刀打ちできない“スペル”だしね」
アルベンスの持つ“魅力”が相対評価であるのに対して、“魅了”は絶対評価となり自身を唯一無二の存在だと思わせてしまう。
子どもの姿で過ごすのは“魅了”の効果をむやみに広めないための対策でもあった。




