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観客席がいつも以上に埋まり後ろでは立ち見までする者が現れた。
四天王の白虎と玄武の戦いが見られるからだ。
「さぁ世紀の一戦です!四天王の白虎対玄武!実力は拮抗しており一瞬の判断が命取りになること間違いなし。観客も増えてますます熱気が上がってきました」
白虎も玄武も鍛え上げられた筋肉を持ち戦闘スタイルが似ていた。
己の拳で戦うことと腕力に絶対の自信を持っている。
「今回は二人の上司でもある総裁に特別解説をお願いしています」
「二人は実力も同じくらいであるのと同時に力がありますので、リングが破壊されないといいですね」
「そこまでですか!」
「拳ひとつで岩を砕くことができるので簡単なことでしょう」
戦いの合図が鳴り同時に飛びかかった。
拳同士がぶつかり拮抗した力で反発した。
「なかなかやるな」
「お前もな」
拳を繰り出しては受けたり避けたりするためリングはヒビだらけになっていた。
蹴りや割れた石板まで投げるため修復不可能ではないかと思うくらいに破壊されていた。
「昨年よりも激しさが増していますね」
「相手よりも強くを信条にした結果でしょう。それが同じくらいの高みに上ったということですね」
「このままではリングは破壊されつくしてしまいそうですね」
「次の試合をする者は大変ですね。障害物だらけですから」
力は同等でも体力まで互角にするのは難しい。
白虎と玄武の間には十歳の差がある。
長期戦かつ全力で戦い続ければ体力は消耗する。
「おぉ白虎が少し押され出した!これはもしやもしや」
「玄武が勝つね」
「総裁もそう見られますか」
玄武の若さは白虎を確実に追い詰めていた。
技術の差で受け流してはいるものの確実にダメージは蓄積していた。
リングは破壊されつくしているからどこまで下がれば場外なのか判断がつかず審判も困っている。
「・・・そこまで!勝者、白虎」
白虎の拳は玄武の腹に触れる寸前で止まっているが、それは玄武の背中に壊しつくして障害物となっていた瓦礫があったからだ。
槍のように尖り刺さったら命が危ないということは明らかだった。
「これを狙っていたのか」
「玄武が相手ともなると真っ向から勝負しても受け流されるからな」
技術というところでは勝てないことを知っていたから動きの制限が出てくる終盤に勝負をかけた。
「ふっ、でかくなったな」
「年寄みたいなこと言うなよ」
「そうだな。だが壊しすぎたな」
これを元通りにするには一年はかかってしまう。
そうなると来年の闘技大会が始まるから現実的ではなかった。
「別に俺は構わないぜ」
「俺もだ」
次の試合のために準備をしていた朱雀と隊長は荒れたリングでも問題ないと同意を示した。
爆弾を使う朱雀にとっては障害物が多い方が有利になる。
「両者が続行を求めましたので、四天王が一人、爆弾をこよなく愛しすぎる男!朱雀!気に入らないからと吹き飛ばした恋人は星の数ほど!」
「吹き飛ばしてねぇ!普通に別れたわ!」
実況の過大解釈のせいで朱雀は恋人すら吹き飛ばすと誤解された。
もっと恨まれそうなものだが、総裁が気に入っているから誰も文句が言えない。
「対するは、子どもながらに本戦に出場したレイピアの使い手!鞘に入ったままのレイピア!今度こそ抜くのでしょうか!乞うご期待」
「だから子どもじゃない!」
戦いのために高めていた気を完全に削がれた二人は溜め息を吐いて合図の鐘を待った。
合図が鳴ると朱雀は煙幕を張る爆弾を投げつけた。
一気に視界を奪われると同時に煙を吸わないように袖で覆った。
「ちっ」
「・・・後ろががら空きだぜ」
隊長を蹴り飛ばすつもりで攻撃したが飛びのいて避けられた。
とっさに付いた手のひらを瓦礫で切って隊長は出血した。
「おいおい、それくらいで怪我するなよ」
「かすり傷だ」
軍服で血を拭うと止血した。
面白そうに笑うと爆弾を出して隊長に投げつける。
今度は煙だけでなく、火と爆風も生じた。
「避けてるばかりじゃ勝てないぜ」
「言われなくても」
障害物を飛び石のように渡り朱雀に近づく。
足元を狙ったり次の足場になりそうな障害物を狙ったりして爆破するが距離はだんだんと近づいた。
「おぅ」
「ちっ」
右肩付け根を刺すつもりでレイピアを鞘から抜いて狙ったが避けられて朱雀の髪を数本切ったに止めた。
予選で見せていた高速突きよりも格段に速さを増して抜き身のレイピアで朱雀に攻撃した。
紙一重で避けられて軍服を切り裂くこともあったが怪我を負わせることはできない。
「鬱陶しいんだよ」
袖から音と光を出す爆弾を落とすと朱雀は即座に障害物を盾に回避した。
わずかに反応が遅れた隊長は目を押さえた。
「勝機」
「ぐっ」
見えていない隊長を蹴り飛ばそうとしたが僅かな空気の動きで反応した隊長はレイピアの鞘を盾にして衝撃を緩和させた。
体にダメージはないが後ろに飛ばされた。
受け身を取ってはいるが視力が戻っていないため反応が僅かに遅れる。
「っぅ」
「これで終わりだ」
隊長の足元に直撃すれば確実に大火傷を負う爆弾を投げつける。
ちょうど中心のため爆風は観客に届くが被害は大きくない。
その位置になるまで朱雀は待っていた。
「ちっ」
かろうじて物の輪郭が判別できるようになるくらいには回復したが細かいことは分からない。
声の方向性だけで爆弾が飛んでくる方向を判断して跳躍した。
幸いリングの境界線が曖昧になっているため場外負けということはない。
思わず顔を覆い隠すほどの熱風が届き、収まるまで誰もが身を潜めた。




