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ただ対戦相手となり得る者の試合を観戦していた隊長たちは全身に重度の火傷を負って運ばれた同僚を見て戦意を失っていた。
このまま勝ち進めば、爆弾で全身に火傷を負わせられかねないという恐怖に支配された。
「俺、棄権するわ」
「俺も」
「やってられない」
「私も」
次々と棄権を表明し、参加者の証である腕章を審判員に渡して闘技場を急ぎ出て行く。
爆弾を使うという派手な戦い方に喜んでいた観客も次々と棄権する隊長たちを見て危機感を募らせた。
「腰抜けばっかだな。おい、審判!」
「はっはい!」
「コールしろよ。でなきゃ俺まで敗者になるだろう」
「しょっ勝者、朱雀!」
「へっ当然だろう」
総裁直属部隊四天王が一人、朱雀はリングを降りた。
軍内部でもトップクラスの実力を持つことから闘技大会の本戦出場が決定している。
予選に参加もしたことがないことから朱雀の顔を見て分かる者は、ほとんどいなかった。
「何しに来た?」
「決まってんだろ?仲良しこよしの闘技大会を面白くしに来たんだよ」
「総裁は知っているのか?」
「言う必要があるのか?まっお前は総裁のお気に入りだからな。戦うのは最後だ。楽しみにしてな、坊ちゃん」
実力はあるが性格に難があるというのは、この一件だけで十分に分かった。
それでも棄権せずに残った隊長たちは朱雀という名前が持つ強さを知っているからだ。
朱雀を倒せば四天王入りが確約される。
出会うことが難しい四天王に会って戦う機会が得られるのだから目の色を変える者も多い。
「これは厄介な相手ですね。予選の間は抜かないとか言っている場合ではありませんよ」
「ヴィヴィ、注目するところが違う気がするよ」
「品のない爆弾魔に負けたらプリン禁止ですからね」
「あっ!それは困る」
棄権者が多数出たためトーナメント表の確認に時間がかかり、予選再開は一か月後となった。
観戦を楽しみにしていた貴族から文句が出たため模擬戦をすることになった。
これには棄権した者も参加の意思を見せたため予選続行者は休息期間に充てた。
訓練をする者がいるなか隊長は王都甘味巡りを楽しんでいた。
「隊長」
「ん?」
「あの朱雀ってどんな人なんですか?」
「人を爆弾で吹き飛ばすのが好きな爆弾魔だよ」
「えっ?」
隊長は簡単に答えたが物騒なことこの上なかった。
名前だけ知っているという者が多いのに隊長だけは顔を見て断言した。
それから詳しく知っているのだと思いユーリーンは聞いたが物騒な答えに動揺が隠せなかった。
「もともとは軍の技術班だったけど数年前の戦争に爆弾係として従軍して人を吹き飛ばすことに快感を覚えたらしく」
「そんな人を軍に入れないでくださいよ」
「野放しにする方が危険だよ。今は総裁という首輪が付いているから見境なく吹き飛ばさないし」
柵もなく行動すれば無差別の爆弾事件が増えそうだった。
それでも危険なことには変わらない。
「それに、この間の試合でも爆弾で火傷は負ったけど死んではいないし」
「確かにそうですけど」
「表層火傷だから治れば復帰できるよ。本人が望むのなら、という注釈はつくけどね」
深層火傷なら全身に負った時点で回復は望み薄だった。
その点で言えば闘技大会の規則に従って行動した。
「一見すれば暴力的で非道だ。でも他の試合では全身打撲もいれば、骨折者だって多数出てた。それと何が違うのか」
「そこまで言われたら反論できないですけど」
「ユーリーンが嫌なのは、圧倒的な強者が弱者を弄ぶように嬲ったことだろ?」
「・・・はい」
「そこは俺も嫌なところだけどね。嫌なら強くなるしかないよ」
軍人である以上は馴れ合いでは命に関わる。
戦場では弱者であろうと敵であれば戦って倒さなければいけない。
弱いからという理由で手を抜けば足元を掬われるのは、こちらだ。
「それでも味方を意図して戦闘不能にするのは問題だな」
「はい」
嵐の前の静けさのように朱雀は大々的に爆破したことが嘘のように静まり返っていた。
総裁からお叱りを受けて静かにしているのかと思うが、そんな程度で大人しくするような性格をしていない。
そんな可愛い性格をしているなら人を爆弾で吹き飛ばすような所業はできない。
いつでも朱雀が攻撃をして来ても良いように警戒をしながら一か月を過ごした。
※※※
新しいトーナメント表が張り出されたが、異様な緊張感の中で試合が行われた。
一層のこと観客席に朱雀の姿があれば別の意味で安心できたが試合が始まっても姿が見えなかった。
試合をしなくても本戦に出ることは決定しているから試合相手が不戦勝で勝ち進むだけだ。
「本当に来るのなら隊長とも当たりますね」
「だとしても勝つだけだ」
本気で本戦を目指している軍人ばかりが揃ったから戦いは一層加熱していた。
模擬戦と言えないくらいに激しさを増し、見る者の手に汗を握らせる。
試合数が絶対的に減ったために早く終わるかと思ったが実力者同士の戦いは時間がかかった。
人数が多かったからトーナメントと言っても組み分けがされていて実力者同士が当たるというのも少なかった。
「白熱していますね」
「そうだな」
「この試合の勝者が隊長の対戦相手何ですからしっかり見ていてくださいね」




