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熱気が観客を包み、応援が闘技大会に出ている者を包んだ。

 

一年に一回、各隊長同士のトーナメントが行われていた。

 

これは強い隊長のもとに配属されたいという新人や戦い方の手本にしたい上司を探すのに一役買っていた。

 

もちろん第三特務部隊隊長も参戦している。

 

「隊長が入賞するかどうか賭けません?」

 

「乗った」

 

「そうですわね」

 

「まぁ予選のうちは負けないでしょうね」

 

隊長と言ってもそれは恐ろしい数になるから半年かけて予選を行う。

 

負ければ早々に勤務地に戻ることになり、勝ち進めば王都に残ることになる。

 

「あの人って」

 

「知ってるの?」

 

「第五警邏部隊だったと思うけど、隊長のこと毛嫌いしてたはず」

 

隊長の相手は屈強な男で力任せに剣を振り回す腕力系だった。

 

その眼には憎悪とも呼べるほどの感情が宿っていた。

 

「隊長が何をしたの?」

 

「あの子ども体形で特務部隊の隊長をしているのが気に食わないって聞いたことがある」

 

「まぁあの体形は詐欺だよね」

 

「それでも隊長は勝つんだろうね」

 

戦いの合図がある前に屈強な男は剣を隊長の真上から振り下ろした。

 

焦ることもなく隊長は横に飛んで回避した。

 

石板が割れて亀裂が入った。

 

「すばしっこいな」

 

「力任せな戦い方は好きじゃないんだ」

 

「それは俺を倒してから言え!」

 

剣を隊長の胴を真っ二つにするように薙いだ。

 

しゃがんで躱すと膝の屈伸を使って飛びかかると同時に鞘に入ったままのレイピアでこめかみを叩いた。

 

「倒れないか」

 

「ふん、効かねぇな」

 

「早く終わらせたいから次の一撃で決めさせてもらう」

 

「ほざけぇぇぇぇぇ!」

 

片手で剣を振り上げて隊長を上から叩き潰そうとした。

 

ここで驚きのあまり黙っていた解説が実況を始めた。

 

「開始の合図を待たずに試合が始まってしまった!第五警邏部隊のマシューは大きな剣を片手で振り回している!何という力!」

 

剣の振り上げるために間合いが見えてしまうから隊長は簡単に躱していく。

 

「対する第三特務部隊の・・・えぇとこちらに名前の情報はありませんが、子ども隊長も軽やかに応戦しております」

 

特務部隊は隊の性質上、隊長の名前を伏せていることが多い。

 

中には隊員にすら教えていないということもある。

 

「ちょこまかと逃げやがって」

 

「そろそろ良いか」

 

「影武者のくせに何を言ってやがる」

 

「影武者?それはお前自身で確かめろ」

 

マシューの視界から消えると背後からレイピアで首を叩いた。

 

うめき声を上げる暇もなく気を失い、戦闘不能となる。

 

「勝者は、子ども隊長!」

 

観客は大いに沸いたが隊長は子どもという言葉に不服だとして機嫌悪くリングを降りた。

 

「一瞬でしたね。お疲れ様です」

 

「弱すぎる相手をするほど疲れるものはないな」

 

「次の試合まで二時間あります。何か食べに行きますか?」

 

「そうだな。昼食にしよう」

 

試合の興奮も冷めやらぬうちに次々と試合が行われる。

 

全員が軍人であるから拮抗する試合もあり、観客の貴族たちは喜んでいた。

 

「そう言えば、第五警邏部隊のマシューとは面識があったんですか?」

 

「うん?無いよ」

 

「えらく敵対視していましたから面識があるのかと思いまして」

 

「向こうが一方的に知っているだけだよ」

 

ご飯を食べているときは戦っているときと違い、子どものような表情を見せる。

 

そうでなければ隊長を務めるということはできはしない。

 

「しっかり食べてください。次は第四巡回部隊のレマーシーですよ」

 

「誰それ?」

 

「レイピアの高速突きを得意とする人ですよ。対戦相手くらい興味持ちましょうよ」

 

「誰が来ても勝つだけだよ」

 

「その科白かっこういいですけど、アイスクリーム食べながらだと半減しますね」

 

同じ武器を使うときは弱点も手の内も知られているから決着がつきにくい。

 

それでも隊長が負けるという姿は想像できなかった。

 

「そろそろ行きましょうか」

 

「まだプリンを食べてないよ」

 

「隊長?」

 

「はい、ごめんなさい」

 

プリンは次の試合が終わってからということで我慢をして闘技場へ戻った。

 

勝った者と負けた者と入り乱れているが、入り口あたりで乱闘が起きていた。

 

話を聞くと、負けた者が勝った者へ抗議しているようだった。

 

「どんな手でも勝った者が正義。戦場では負けたからと言ってやり直しは出来ないわ」

 

「そんなことは分かっている!」

 

「なら引きなさい。負けた者が何を言っても遠吠えにしかならない。それが嫌なら勝つだけのこと」

 

ヴィヴィの通る声が乱闘を止めた。

 

止めたのは彼らのためでもなく、次の試合が迫っている隊長が入口を通るためにだ。

 

ヴィヴィの行動原理も分かりやすかった。

 

「ヴィヴィ、プリンを忘れないでよ」

 

「もちろんです。行ってらっしゃい、隊長」

 

「勝ったら生クリームもつけてあげる」

 

送り出し方としては緊張感もないものだが、隊長の実力からすれば予選は負ける要素もなければ、足元を掬われることもないくらいに簡単なものだった。


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