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「「「隊長!」」」
後ろに転んだときに頭を強打しているからヴィヴィたちが駆け寄った。
「隊長、大丈夫ですか?」
「隊長、ごぶが出来てる」
「隊長、吐き気とかないですか?」
「大丈夫だよ」
ヴィヴィに膝枕をされて、フィアットに手を握られて、ユーリーンに頭を撫でられるというのは傍から見ればハーレム状態だった。
同じようにぶつけているのに誰にも心配されないというのが我慢できなかった。
「俺を差し置いてハーレム作ってんじゃねぇ!俺より弱いくせに女侍らすな!」
「はぁ?」
「それが本音」
「語るに落ちるとは、このことですわね。その方を丁重に護送しなさい」
「はっ!」
犯罪者を運ぶためだけの軍人というのが町には常駐している。
職務に忠実で賄賂などを絶対に受け取らない堅物ばかりが揃っている。
鉄格子で逃げられないように補強した馬車にアルベンスは押し込められて王都へ連れ戻された。
「アルベンスは一体、何をしたんだ?」
「マンナと言ったわね。本来なら犯罪者の逃亡補助という罪があるけど今回は知らなかったようだから不問にしましょう」
「アルベンスは山狩りをしたのよ。それで刑期三十五年のところを脱獄したというわけ」
「えっ?山狩り?何でそんなことを」
マンナが知らないのは本当だと判断してヴィヴィはそれ以上は言わなかった。
知ろうと思えば可能だし、知ったところでアルベンスの刑期が短くなることはない。
「さぁ私たちも帰りましょう」
「調書のために王都には寄らないといけないしね」
王都への行程は馬車にして道中の宿でしっかりと休んだ。
急いだところでアルベンスは王都に着くのに一週間はかかる。
「そう言えば、隊長」
「なぁに?」
「バナナをよく持っていましたね」
「遠足にバナナは必要でしょ?」
可愛く言っているが隣に座っているヴィヴィが静かな怒りを持っていることをユーリーンとフィアットは見て見ぬふりをした。
きっとしばらくはおやつ禁止令が出ることだろう。
※※※
王都に戻るとモルドリア女侯爵が出迎えてくれた。
「誘拐ではなかったのですね」
「はい、自分の意志での脱獄でした」
「そう。逃げるだなんて、追いかけたくなってしまうではありませんか」
モラドリア女侯爵が刑期を終えた暁に何が何でも引き取ることだろう。
フィアットが言うには、最初は“魅力”がかかっていたが、今は完全に影響から脱している。
つまりは本心からアルベンスを追いかけようとしているのだと言う。
モルドリア女侯爵が捕まえてくれるのなら“魅力”による被害者も出ないから一石二鳥だった。
「本当に疲れたわ」
「もう二度としたくないね」
「隊長?おやつは禁止ですよ」
「ヴィヴィ、これはおやつじゃないよ。そう、ご飯だ!」
アイスクリームを堂々とご飯と言って食べようとする隊長も通常運転だった。
ヴィヴィも禁止だと言いながらも食べることを黙認しているから、そこまで怒っていないようだった。
「アルベンスの調書が思いのほか手間取ったせいで、三か月も足止めされた」
「そのおかげで、あとひと月で闘技大会になるね」
「町に戻ってる時間もないしね」
始終、話が進まないせいで裏取りに時間がかかった。
そのせいで隊長一行も王都に残ることを強制された。
一番喜んでいたのは王都の甘いものを食べることができる隊長だ。
「大人しく水路労働してくれたら良いけど」
「わめいて叫んで何もしてないみたいだしね」
「しかもお得意の“スペル”が使えないから苛立ってるみたいだしね」
今までなら女に“魅力”をかけて色々なことに便宜を図らせてきた。
それが周りは犯罪者ばかりで男しかいない。
看守も男だけで、“魅力”をかけてもアルベンスの思い通りになるかは分からなかった。
「もともと精神系“スペル”は異性にかかりやすい傾向があるからね」
「あまりにも不真面目だと刑期が伸びるどころか、闘技場送りになるけど分かってるのかな?」
「分かってないでしょ」
労働をしても更生する見込みのない者や重罪を犯した者は闘技場送りという罰を受ける。
戦って勝てば良いが負ければ死という過酷なものだ。
娯楽の少ない貴族たちの楽しみになっているのと処刑する手間が省けるということで合理的だと支持する者が多い。
人の死を楽しむのは倫理に反するという声もなくはないが、相手を殺してやりたいと憎む被害者たちの心情から撤廃するには至っていない。
「もし送られてもすぐに死ぬだけでしょうね」
「山狩りしようとするくらいに善悪の区別がついてない人だし、闘技場送りの方がありがたいかもね」
労働をしなければ食事にありつけないというだけで自業自得なのだが、きっとアルベンスはそれすらも納得しないだろう。
そもそも山狩りが罪だと分かっているが、正義のためなら致し方ないという思いが抜けていない。
「しかも従順な女が好きって終わってるでしょ」
「モルドリア女侯爵からの熱烈なラブレターを貰って顔を青褪めさせてたみたいだし」
アルベンスを手元に置くことを諦めていないモルドリア女侯爵は希望するのなら労働場所を変更する手続きをしてあげるという内容の手紙を毎週届けている。
それを読むたびに恐怖を覚えているようだから別の意味では効果があった。




