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予想通りの行動をしてくれたアルベンスを見送ってからアルダンテは口を開いた。


「誤魔化されてくれるとよろしいのですけど」


「大丈夫だろう。モルドリア女侯爵は苛烈な方だ」


「そうですわね」


モルドリア女侯爵というのは犯罪者を取りまとめる者の通称名のようなもので本名ではない。


そして犯罪者や犯罪者の残党に弱みを握られないために結婚することは許されなかった。


心許せる者がいない、領地から出ることも許されない中で愛を囁いてくれる存在は貴重だった。


「わたくしがアルベンスに入れ込んだのは寂しさでしたのね」


「アルダンテ?」


「あなたが遠征だと家を出たあの日に会いましたわ。最初は拒みました。貴族の妻であるわたくしが平民を相手に熱を上げるなどあり得ないと思いました」


「そうか」


「でも貴族の気品を持っている君が好きだと言われ少しずつ絆され入れ込んだことは事実ですわ」


貴族らしさを求めた結果が駐屯所への突撃となったが本来は常識を持った礼儀正しい女だった。


「彼女が目を覚ましてくれるといいのですけど、あの男は誰も愛することは無いということに」


「時が解決するかもしれないな」


「そう祈るばかりですわね」


お茶会は何となしに終わり、隊長は空気となってお菓子を食べていた。



※※※



人が寝静まったころに起きているのはアルベンスだった。


同じベッドでは一糸纏わぬ姿のモルドリア女侯爵が眠っている。


「冗談じゃない。こんな女の相手なんて死んでもごめんだ」


犯罪者として送られた日から幾度となく夜を共にしてきた。


それはアルベンスにとって刑期を短くできる権限を持つ唯一の存在だったし、侯爵という肩書でカナリアと名乗っていたアルダンテのところにいた時よりも良い生活ができるという打算だった。


それが従者という立場しか与えられず飼い殺しにされるのはアルベンスの本意ではない。


「何とかして逃げないとな」


脱いだ服を着てアルダンテを起こさないように部屋を出た。


食事のときにいつもより酒を多く飲ませていたことが功を奏した。


従者という立場から路銀も運んでいたから持ち出すのは簡単だった。


「王都なら警備も薄いから大丈夫だろう」


金貨二十枚をポケットに入れ、窓から外に出た。


玄関は扉を開けると音がするから静かに出るのは不向きだった。


「この塀を越えるしかないか」


逃げると思い込んだアルベンスは普段ならできない壁登りをやってのけた。


月明かりを頼りに大通りを目指して走った。


「うわっ」


「きゃっ」


暗い中を走ったから人とぶつかってしまった。


雲が月を薄く覆っていたが晴れていくと互いの顔がよく見えた。


「えっ!アルベンス」


「マンナ!」


「どうして王都に?」


「話はあとだ!助けてくれ、仕えた主人に暴力を受けているんだ」


両腕に残るいくつもの青痣は信憑性を与えた。


驚いたのはマンナだった。


「えっ!どうしたのよ、これ。カナリアさんが?」


「いやカナリアじゃない。侯爵という身分だから安心だと思って働いたけど毎日叩かれているんだ」


「そんな!とにかく手当てしないと」


「マンナは優しいな」


アルベンスの話を信じてマンナは自分の宿に連れて帰った。


泊まっているのは冒険者ばかりだから怪我をしているから手当てすると言えば誰でも入れた。


「こんな酷いことを」


「平民の俺でも雇ってくれる貴族もいるんだと思ったんだが違ったんだ」


「どういうこと?」


「カナリアもそいつに捕まってるんだ。違う名前を名乗らされていたが俺には分かる」


物事を都合よく解釈できるのがアルベンスの才能だと言えた。


そしてそれを信じているから嘘だとは見抜けない。


「でもカナリアさんだって貴族でしょ。それなのに言いなりになっているってことは、もっと上の人ってこと?ますます平民じゃ無理だよ」


「今は無理だな」


「それに怪我を治さないと。熱が出てるよ」


「そうだな」


王都ではアルベンスを知っている者がほとんどいないから犯罪者だと気づかれていなかった。


夜明けが近いがモルドリア女侯爵からの追手がないのも気づかれていないだけで朝になれば不在だということはすぐに分かる。


本当に逃げるのなら今のうちに王都から出ることが最善だった。


熱で魘されているアルベンスのタオルを水で冷やしながらマンナは看病をした。


その甲斐あって熱は下がったことで起きることができた。


「大丈夫そうね」


「助かったよ」


「これからどうするの?」


「まずは王都を出るよ。逃げ出したからきっと探される」


「それなら今日のお昼に冒険者の乗り合い馬車が出るから乗って王都を離れましょう」


乗り心地は悪いが一人で馬車を借りるよりも安く乗ることができる。


時間さえ気にしなければ遠くまで行けた。


今までアルダンテに最上級の馬車を用意して貰っていたアルベンスには過酷な移動になるが仕方なかった。


「・・・こんなにたくさん乗るのか?」


「そうよ。冒険者は獲物を見つけられないと出費だけが増えるもの。少しでも安く移動するための知恵よ、知恵」


「そうだな」


一番遠くまで行ける馬車を選び乗り込んだ。


運賃は降りるときに支払う仕組みになっている。


「毛布を下に敷くといいわ」


「ありがとう」


「どういたしまして」


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