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「お招きいただきありがとうございます、グリムワード伯爵」


「学友であらせられる貴女との会話は妻も喜ぶでしょうから、いつでも訪ねてください」


「嬉しい言葉です。紹介しておきますわ。従者のアルベンスですの。同席させてもよろしいかしら?」


「もちろんです」


門まで迎えに行った総裁は顔には出していないがアルベンスが付いて来たことに驚いていた。


従者という立場でも最近までは刑期三十五年の犯罪者だった。


軍人の家に来るのは避けるのではないかと思っていた。


「お連れしたよ」


「ありがとうございます、あなた」


「久しぶりね、元気そうで良かったわ」


「えぇ貴女もね」


再会を喜ぶ二人の傍らアルベンスは敵意の籠った目で総裁を睨み付けた。


その視線に気づいていながら総裁は敵意如きでは動じることがなかった。


「カナリア!元気そうで良かった」


「どちら様かしら?」


知っているはずのアルベンスの問いかけを無視してモルドリア女侯爵へとアルダンテは尋ねた。


従者が主を通さずに話しかけることは許されていない。


アルダンテの対応は至極全うだった。


「わたくしの従者のアルベンスよ」


「何を言っているんだ!カナリア!まだ拗ねてるのか?」


「先ほどからカナリアと呼ばれておりますけれども、どなたかとお間違えではありませんこと?」


「俺がカナリアのことを間違うはずないだろう!」


アルベンスはカナリアしか見えていないが視線をわずかにずらせばユーリーンがいるのに気付いていなかった。


「間違えていらっしゃるようですわね。そのカナリアさんも可哀想ですこと」


「カナリアはお前だろう。何を言っている?」


「わたくしはアルダンテと申します。カナリアという名前ではございませんわ」


「確かに私の妻は美人だから仕方ないが、そのカナリアという女性が妻に似て美しいのなら会ってみたいな」


「まあ」


ここでカナリアだと言っても否定され続けるし、平民の元犯罪者のアルベンスでは相手にされない。


「似ているも何も本人だろう!嘘を吐いてどうする」


「わたくしの名はアルダンテですの。困りましたわね」


「アルベンス」


黙って様子を見ていたモルドリア女侯爵が呼びかけた。


アルベンスが従者である以上は行き過ぎた行動は咎めなければいけない。


「私もカナリアという女性の噂は聞いたけど、アルダンテであるはずはないわ。アルダンテは旦那様一筋で今も仲睦まじいもの」


「カナリアで間違いない。俺はずっと見ていたんだ」


「アルダンテによく似ている人だというだけでしょう。せっかくのお招きですが、お暇させていただくわ」


「その方がよろしいな。従者殿は記憶を随分と混同されているようだ」


モルドリア女侯爵はアルベンスの腕を掴むと乱暴に引っ張った。


カナリアに未練があるのか腕を解こうとするが叶わずに乗って来た馬車に押し込められた。


「俺はカナリアにまだ話があるんだ」


「わたくしの顔に泥を塗らないでちょうだい」


「うっ」


持っていた扇で思い切り頬を引っ叩き黙らせる。


飾りの羽が目に当たりアルベンスは顔を押さえて悶絶した。


「アルベンス!貴方はわたくしを愛していると言ったのではないの?」


「もちろん愛しているさ」


「ならカナリアという女のことは諦めるわね?」


「それはできない。自分の心に嘘は吐けない。すまないが」


「っ!」


扇でアルベンスを何度も打ち付ける。


庇うように出された腕には痣が出来ていく。


「嘘を吐けないですって!その前にわたくしだけを愛していると言ったじゃない。それは嘘ではないとでも言うの!」


「わかったから!」


「もう良いわ。貴方の刑期を短くして本当に従者にするつもりだったけど、止めたわ」


「モラドリア?」


「刑期は三十五年よ。一年たりとも短くしてやらないわ」


「ちょっと待て、手続きをしたと言っていたじゃないか」


刑期を無かったことにしてくれるからアルベンスは癇癪の末の暴力にも耐えてきた。


せいぜい扇で叩かれる程度だったからだ。


それが鉱山労働に代わるとなれば大人しくもしていられない。


「えぇしたわ。でも完全に刑期が許されるまでに査問期間があるのよ。不適合だと判断されれば刑期は元の長さになるわ」


「考え直してくれ」


「考え直す必要など無いでしょう。明日には出立するから荷物をまとめておきなさい」


確かに“魅力(チャーム)”にかかっているし、今も“魅力(チャーム)”が解けていない。


モルドリア女侯爵は嫉妬深く、一度、自分のものだと思えば心変わりを一切許さない苛烈さを持っていた。


「貴方はわたくしのものなのよ。そして貴方はわたくしを愛していると言った」


「・・・・・・・・・」


「それとも愛しているという言葉を違えるのかしら?」


笑っているのに背筋に冷たいものが走ったアルベンスは保身のために態度を翻した。


モルドリア女侯爵の手の甲に口づけをして、愛を囁いた。


その行動に満足したモルドリア女侯爵はアルベンスの首に手を回した。


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