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巡回をするときの軍服を着た一行は総裁の家に向かった。
庭ではお茶会の準備が整っており、同じく軽装軍服の総裁が優雅にお茶を飲んでいた。
隣にはベールを被った女が座っており、今まで見たことがなかった総裁の妻だった。
「よく来てくれたな。まぁ座ってくれ」
「お招きありがとうございます」
「紹介しよう。私の妻だ。と言っても知っているかも知れないがな」
夫の声かけと共にベールを外した女の顔はよく見知っていた。
「カナリアさん!?」
「御機嫌よう。その節はお世話になりましたわ」
晴れやかで穏やかな笑みと共に挨拶が返ってきた。
ヴィヴィとフィアットは声も出ないくらいに驚いていた。
「第三特務部隊隊長も心遣い感謝いたしますわ」
「僕は何もしていないよ」
「隊長は驚いてないですけど、知ってたんですか?」
「奥方が若い男に入れ込んでいるのは知っていたからね。考え直すように手紙は送っていたよ。まさかアルベンスのパトロンだったとは知らなかったけど」
こっそりとフィアットが“鑑定”で調べると完全に“魅力”の影響は抜けていた。
それにここにいるということはアルベンスのことは何とも思っていないのだろう。
「でもどうしてアルベンスを見限ったんですか?」
「アルベンスのことは魅力的に見えていましたわ。でも新しい女性を迎え入れるたびに愛情が薄れていくのを感じ、金蔓としか思っていないのではないかと思いました」
町に引っ越して来た頃から少しずつ疑念が湧いていたのだろう。
そして止めはセルラインの店での豪遊だった。
「新しい方のために金貨を湯水の如く使う姿に百年の恋も冷めてしまったのです」
「そうでしたか」
「いいのか?奥方が男に金を貢いだんだぞ」
「妻の散財くらい笑って受け入れて当たり前だろう。何を目くじら立てる必要がある?」
「あなた」
「お前が奥方の遊びを止めないから僕たちが大変なことになったんだぞ!」
総裁にも愛人の一人や二人いるから妻が火遊びをするくらいでは動じていなかった。
どれだけ言い募っても負けるのは隊長だろう。
「そう言えば、どうしてカナリアという偽名にしたんだ?」
「あなたが、わたくしに求婚をしてくださったときに、君のカナリアのような歌声で愛を囁いてほしいと言ったからですわ」
「そうか、アルダンテの声は今も昔も美しい」
目の前で愛を囁きあう総裁とカナリアもといアルダンテは完全に二人の世界だった。
前回のお茶会まではアルダンテは同席していなかった。
「二人の世界は、また今度にしてくれ」
「何だ?妻がいる俺が羨ましいのか?」
「いきなり奥方を同席させた理由を言え!」
「簡単なことだ。モルドリア女侯爵はアルダンテの学友だ。アルダンテが助けたいと言っているからな」
総裁が妻を猫可愛がりしているのは有名な話だった。
アルダンテが望むということだけで、どんなことでも叶えようとした。
「わたくしが頼める義理ではないことは重々、承知しております。ですが、お力をお貸しくださいませ」
「気にはなっていたから別にいい」
「ありがとうございます」
「まぁそう言ってくれると思ってな。モルドリア女侯爵には招待状を送っておいた。あと一時間くらいで来るだろう」
最初からさせるつもりだったことは明白だった。
そうでなければ総裁という地位に座っていられない。
「おい」
「何だ?」
「愛人たちはどうした?」
「全員と別れたさ。俺は今も昔もアルダンテ一筋だ。アルダンテの身の安全のために愛人を用意していたが、その必要もなくなったからな」
伯爵家という身分で総裁の地位にいる男を面白くないと思い、暗殺を仕掛ける者はどこにでもいる。
そんな輩からアルダンテを守るために愛人を作り、自分にとって邪魔な存在を炙り出した。
「そのせいで奥方の寂しさに付け込まれたんだろうが!」
「結局はそこに戻るのか。俺がアルダンテに興味がないと思わせるには接触するわけにはいかなかった。確かに寂しい思いをさせただろうな」
「申し訳ございません。わたくしが不甲斐無いばかりに第三特務部隊隊長にはご迷惑をかけてしましました」
事の次第についていけないヴィヴィとユーリーンとフィアットは言い争いを眺めながらお茶を飲むことにした。
ここで口を挟んでも総裁に勝てはしない。
それよりも一時間後にやって来るモルドリア女侯爵への対応を決めることが重要だった。
まだ言い足りなさそうな隊長にはケーキを無理矢理食べさせて強制的に黙らせた。
「ヴィヴィ、そいつにそこまでできるのはお前だけだな」
「お褒めに預かり光栄ですわ」
「いや、褒めてないぞ」
招待状を貰ったのなら時間ぴったりか少しだけ遅れて到着するのがマナーだ。
気心が知れた相手なら多少早くても問題ないが、それでも一時間早く到着することはない。
そんな当たり前のことすら忘れさせる効果が“魅力”にはあった。




