辛福を呼ぶ黒鳥
ある日、夢を見た。
一匹の黒い鳥が、私を観ている夢。
私は、その鳥が怖くて全力で逃げた…
躓きそうになっても必死に、とにかく逃げた。
けれど、その鳥はすぐに私に追い付いて、それの繰返し…
何故、逃げてるのだろう…?
何故?
怖いから…?
逃げても逃げても変わらない結末。
何故、逃げるの?
次第に、その鳥は私に問いかけてきた。
何故、背けるの?
怖いから?
…怖い、から?、、、違う、鳥の正体がわからないから?
…違う、真逆。
正体を知っているから。
黒い鳥は嫌な笑みを浮かべると、大きな翼で私の視界を覆った。
逃げているのは、知っているから。
背けず見るのが怖いから、だよね?
暗闇の中で鳥は、私にそう言った。
…
「あの、幽々子様…少々お聞きしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
「なにかしら?」
「単刀直入にお聞きします。
文子さんは、何者ですか?」
最近になって、彼女が異常であることに気づいた。
料理を作っているとき初めは物覚えが早い子、そう思っていた。
だが料理を教えるたび、彼女の腕はありえない速さで上達を見せた。
料理だけではなく、剣術もである。
一日…たった一日、私が彼女に剣の基本を教えただけで、彼女は独自の剣術を完成させた。
普通ではない。
「あの子も、いずれ気づくわ…。
それに、紫が動き始めたみたいだから大丈夫。」
…
目を覚ますと私は、向日葵のお花畑にいた。
視界に広がる光景に気をとられ呆然としていると、背後から何者かが近付き…後ろを向こうとした時には後頭部に衝撃が走り、そこで意識は途切れた。
「こんなものを寄越して、何を企んで?」
緑髪の彼女は、すぐに私の存在に感づき言った。
それに対し答えると暫く何かを考え、答がまとまったのか小さく頷いた。
「貴女なら、力の使い方を上手く教えてあげられるかと思って。」
「……少しだけなら、預かろう。」
「よろしくね~」
その後、彼女は大きな溜め息をついた。
…
「…ん」
「ようやくお目覚め?」
「ここは…?
……!?、何これ!?」
女性に声をかけられ寝惚け眼だった私は、自分の措かれている意味不明な状況下に叩き起こされた。
手は麻縄で縛られ、首には首輪が着けられていた。
彼女は不気味に微笑み、私に言った。
「私は風見 幽香。
人はフラワーマスターと呼ぶ…
私のお家へようこそ。」
私は既に死んでいるのにも関わらず、この瞬間に死を確信した。
「一応、変なことされると困るから縛ったわよ?
え?首輪?
だって貴女、今日から暫く私のペットだもの。
それとも奴隷がいいのかしら?」
「……」
私は黙り彼女を見ていると、近づき私の顎に手をのばし睨み付けるような目で聞いた。
「で、貴女は何者?」
「何者?って貴女がここに私を連れて来たんじゃないでっ…!?」
顎に当てられていた手が急に上げられ、舌を噛みそうになった。
「言葉に気をつけなさい?
それとうるさいわ。
…確かに、貴女を家に連れ込んだのは私。
けれど、花畑に運んだのは私ではない。
貴女、あのスキマ野郎とどんな関係なの?」
スキマ野郎など知らない、しかし彼女が私を運んだのでなければ、確実にそのスキマ野郎とやらが運んだのだろう。
誰のことなのか考え、答えを出そうとしたが、出るはずがない。
そもそも白玉楼に籠りっぱなしだった私は、妖夢さんや幽々子様、そしてプリズムリバー三姉妹の他はほとんど知りえないのだ。
考えても答えを出す為の素材が、今の私には少なすぎた。
ただ確実に理解できたのは、助けが来る可能性が限りなく0であることである。
私が、少し長い時間考えていたせいか、彼女の眉間にはシワが寄りはじめていた。
最終的に私が、そのスキマ野郎を本当に知らないと理解したのか、呆れたように溜め息をついて家を出て行った。
放置プレイですか…。
「何をしているの?
貴女も早く外に出なさい。」
「え?あ、はい。」
そう言われ外に出ると、彼女は持っていた傘の持ち方を刀を持つような状にかえ、私に突然振るってきた。
「なっ!?」
気づいた時には遅く、隙だらけの脇腹に直撃し、軽く吹き飛んだ。
突然、何故攻撃されたのかが理解できず私は混乱した。
そんな私を知ってか知らずか、彼女は言う。
「面倒だけど、貴女に力の使い方を覚えてほしいらしいから、今日中に覚えなさい。
そしたら、自力で逃げれるでしょ?」
確証のない言葉を投げつけられた。
…今、彼女は覚えてほしいらしいと言っただろうか?
誰かが頼んだ?こんな自由奔放な妖怪に?
そんな馬鹿な話があるはずがない。
体を動かさず、思考を動かしていたことを後悔したのは、数秒後だった。
「動かないってことは、やる気が無い。
やる気が無いなら、殺される気はあるのよね?」
幽香は私の目の前に移動し、彼女が突きつけた傘の先端は、私の右目から約2cm離れたところにあった。
彼女の纏う力が私の思考を奪い、本能だけが働きかけた体は、彼女から距離をとっていた。
嫌な汗が首もとを伝う。
背中を見せてはいけない。
彼女の存在から目をそむけてはいけない。
視界に留めておかなければ、待っているのは死…
本能が私の行動に制限をかける。
「何?その目。
随分と反抗的ねぇ。
悪い子にはお仕置きしないと、駄目よね?」
彼女の口角がつり上がるのを見て、私の体は硬直した。
もう成す術が無いことを知り私は、そこで諦めた。
意識が、プツンと頭の中で音をたてて途切れた。
…
これで終わり?
私が幻想郷にやってきて、知らないヤツに花畑に運ばれた挙げ句、こんな名前しか知らない相手に殺されて…
記憶を辿る度に、私の奥底に抑圧され、否定され続けた私が弾けた。
「………んで、そんなんで終わってたまるかぁ!!」
まだ、終われない。
終わりにするには早すぎる。
目を背けるな!
本当の自分を見ろ!!
お前は無力か!?
いいや違うっ!
力があるのに、逃げているだけ!!
いい加減に自分と向き合え、
私!
…
途切れた意識は数秒で回復し、勝手に言葉を呟いていた。
……こんな私、認めたくなかったのに…。




