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打ち出の小槌を鳴らしたら、現実世界が異世界化した件  作者: さく


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9/11

8話 都市

勇とシルフは焚き火を囲んでいた。

そこに翼を羽ばたかせて、降りてくるハーピィ。

「偵察完了。周りに敵なし。」


「ありがとう。ハープ。」

ハープ。

それがハーピィの名前だ。


産まれた時に美しいハープの音色で泣いたことが由来らしい。

勇は焚き火に枝を放り入れながら、そのことを思い出す。

聞いてないのに、しつこくて覚えてしまった。


今日は釣った魚を焼く。

川の生態系もだいぶ変わった。

グロテスクで大きい魚が増えたように思う。


串を通して、地面に刺して焼く。

そのうち、良い匂いが漂ってくる。

「わぁ~!美味そう!」

ハープが食い気味に魚を見つめる。


まだかまだかと待ちわびる。

「うち、人間の料理ってやつ初めて!」


「へぇ~。じゃあ、いつも何食べてたの?」

シルフがハープに聞く。


「虫とか、野生動物を生で」

ハープは笑顔で答える。

「そ、そうなんだ…。」

シルフは考えられないといった様子で、少し引く。


勇は焼き加減を見る。

(食べ頃だな…。)

ゆっくり手を伸ばし、食べる。

淡白だけど、うまい。


その姿を見て、二人も食べ始める。


「熱っ!」

しかし、ハープの顔が綻ぶ。

「でも、おいしい!」

ハープは勢いよく食べ始めた。





シルフとハープは満腹といった様子で地面に寝転ぶ。

「ふぅ…。」

満足気に一息つくハープ。


「次はどこに行くの?」

シルフが勇に聞く。


「…。」

勇は押し黙る。


「本当に無口なんだね。」

ハープが染み染みと言う。


「いっつもこうなんだよ!」

シルフはハープに同意する。

二人は笑い合う。


「都市だ…。」

勇が珍しく答える。


「都市?」

シルフが目を輝かせる。

ハープはなにそれと首を傾げる。

「ああ…。」


世界が異世界化して十年。


世界は魔物の襲撃で混乱し、政府は生き残った人々を守るため、各都市を巨大な壁で囲んだ。


壁の外には基地が築かれ、戦車や戦闘機、ミサイルが配備されている。

魔物が現れれば、すぐ迎撃できるようになっていた。


壁の内側では、残ったビルや施設を利用し、人々は十年前と変わらない暮らしを取り戻そうとしていた。


一息ついた一行は立ち上がり、都市に向かう。

勇の目的。

それは打ち出の小槌の情報収集。

確認が取れている、親子の村には行く。


しかし、もっと情報がほしい。

都市ならば、多くの人がいるし、世界の情報も入る。

勇はそう考えて、都市に歩を進めた。




森を進む一行。


「なに?この音?」

二人は不思議そうに、耳を済ませる。


「爆音だ。」

勇は平然と答える。


何度か都市には立ち寄ったことがある。

魔物の襲撃にあっている都市はいつもこんなものだ。

人間も必死に戦っている。


「爆音…?じゃあ、誰かが戦ってるってこと?」

シルフは顔を青ざめる。


「行かなきゃ!」

シルフは駆け出す。

それに付随して飛ぶハープ。

勇はそれを呆れて見つめ、追いかけていく。


森を抜けると、そこは戦場と化していた。

巨大なサイクロプスの群れが都市に侵攻している。

それに応戦する軍隊。


砲撃。

黒煙が空へ立ち昇り、火薬の匂いが風に乗って流れてきた。


空気が震える。

その音に驚いて、耳を塞ぐ二人。

「びっくりぃ…。」

ハープが萎縮している。


「じきに終わる。」

後ろからゆっくり歩いて来た勇が言う。

「この程度なら、都市は落ちない。」


砲撃やミサイルを畏れ、撤退していくサイクロプスの群れ。

「本当だ…。」


もうすぐ日が暮れる。

「行こう。」

勇が先行して歩く。


戦闘の光景におびえた二人は勇の後ろに隠れながらついていく。

(トラウマ確実だな…。)

と思いつつ、後ろにくっつく二人をうっとおしく思った。




「何者だ!」

軍人が銃を構える。


勇はクロークを開いて、剣を見せる。

軍人は焦った様子で、敬礼する。

「勇者様でありましたか!お通りください!」


勇者と呼ぶなという言葉を飲み込む勇。

こういうときは、使うに限る。

面倒事が減る。


しかし。


「お連れの方は…。」

一方は長い耳。

一方は腕に羽根が生えている。


「魔物か!?」

警戒する軍人。


一瞬、ここに置いていけば面倒事が減ると頭を過る。

しかし。


「仲間だ。通してもらえないだろうか?」

シルフとハープが目を輝かせる。


「勇者様のお連れ様なら…。」

軍人が許可を出し、構えた銃を下ろす。


「ありがとう。」

そう言って歩き出す勇。


「認めてくれたんだ?」

シルフが勇を肘で小突く。


「違う。」

シルフとハープが顔を見合わせて笑う。


「はいはい。」

二人で勇の後をついていく。


勇は

(やっぱり置いていけば良かった…。)

と心の中でぼやいた。




勇たち一行は壁の中を進む。

壁の中も軍人が忙しなく行き交っている。


軍人の休憩所。

作戦会議室。

軍事に係る施設が集まっている。


その先には検問所。

都市に不都合が起きないように、持ち物を検査される。

サバイバルキットや剣を預ける。


これだけは勇者でも例外ではない。

と言うより、預けてしまった方が面倒にならない。


シルフとハープもそれに続く。

検査員が物珍しそうに二人を見るが、気付かないフリをする勇。


勇一行は都市の内部に入っていく。


「わぁ~!」

二人の声が被る。

シルフとハープは目を輝かせて辺りを見回す。


外とは違う、しっかりと整備されたビル群。

車や電車が行き交う道路。

そして、大勢の人々が生活していた。


「すご〜い!」

ハープがぴょんぴょん跳ね回る。

「迷子になるぞ。」

勇はその一言だけ言って歩き出した。




あれにもこれにも反応する二人。

それを構ってられないと無視して歩く勇。

一刻も早くホテルに入りたかった。


「教えてくれてもいいじゃん!」

二人は勇を責めつつ、ついてくる。

横断歩道で立ち止まる勇。

ハープが何も知らず、渡ろうとする。


車がクラクションを鳴らす。

「えっ…?」

ハープの手が引かれる。


ぶつかる寸前に勇が助ける。

「危ないぞ!」

ハープは涙目になる。

「怖かった…。」


勇はため息をつく。

「あれが赤のときは渡っちゃいけない。」

シルフとハープに言う。

二人は強く頷く。


(あれ…?)

そう思いつつ、勇は歩き出す。

多分、何でもない。

そう言い聞かせて、ギルドが管理している冒険者向けホテルに入る。


「二部屋頼む。」

手続きを済ませていく。

その間も二人はキョロキョロしている。


「綺麗な装飾だねぇ。」

二人で話ながら、ウロウロ歩き回る。


「おい!行くぞ。」

勇は二人を呼び、部屋に入る。


「え?別々?」

文句を言う二人を部屋に押し入れ、隣の部屋に入る。


隣の部屋から笑い声が聞こえてくる。

「ねぇ、ベッドふかふか!」

「飛び跳ねちゃダメだって!」

勇は思わず耳を傾ける。


そして、

(……うるさい。)

そう思いながらも口元が少し緩む。


(あれ…?)

急に静かになったことに気付く。

何だか淋しい気持ちになる。

勇はその気持ちに困惑した。

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