8話 都市
勇とシルフは焚き火を囲んでいた。
そこに翼を羽ばたかせて、降りてくるハーピィ。
「偵察完了。周りに敵なし。」
「ありがとう。ハープ。」
ハープ。
それがハーピィの名前だ。
産まれた時に美しいハープの音色で泣いたことが由来らしい。
勇は焚き火に枝を放り入れながら、そのことを思い出す。
聞いてないのに、しつこくて覚えてしまった。
今日は釣った魚を焼く。
川の生態系もだいぶ変わった。
グロテスクで大きい魚が増えたように思う。
串を通して、地面に刺して焼く。
そのうち、良い匂いが漂ってくる。
「わぁ~!美味そう!」
ハープが食い気味に魚を見つめる。
まだかまだかと待ちわびる。
「うち、人間の料理ってやつ初めて!」
「へぇ~。じゃあ、いつも何食べてたの?」
シルフがハープに聞く。
「虫とか、野生動物を生で」
ハープは笑顔で答える。
「そ、そうなんだ…。」
シルフは考えられないといった様子で、少し引く。
勇は焼き加減を見る。
(食べ頃だな…。)
ゆっくり手を伸ばし、食べる。
淡白だけど、うまい。
その姿を見て、二人も食べ始める。
「熱っ!」
しかし、ハープの顔が綻ぶ。
「でも、おいしい!」
ハープは勢いよく食べ始めた。
シルフとハープは満腹といった様子で地面に寝転ぶ。
「ふぅ…。」
満足気に一息つくハープ。
「次はどこに行くの?」
シルフが勇に聞く。
「…。」
勇は押し黙る。
「本当に無口なんだね。」
ハープが染み染みと言う。
「いっつもこうなんだよ!」
シルフはハープに同意する。
二人は笑い合う。
「都市だ…。」
勇が珍しく答える。
「都市?」
シルフが目を輝かせる。
ハープはなにそれと首を傾げる。
「ああ…。」
世界が異世界化して十年。
世界は魔物の襲撃で混乱し、政府は生き残った人々を守るため、各都市を巨大な壁で囲んだ。
壁の外には基地が築かれ、戦車や戦闘機、ミサイルが配備されている。
魔物が現れれば、すぐ迎撃できるようになっていた。
壁の内側では、残ったビルや施設を利用し、人々は十年前と変わらない暮らしを取り戻そうとしていた。
一息ついた一行は立ち上がり、都市に向かう。
勇の目的。
それは打ち出の小槌の情報収集。
確認が取れている、親子の村には行く。
しかし、もっと情報がほしい。
都市ならば、多くの人がいるし、世界の情報も入る。
勇はそう考えて、都市に歩を進めた。
森を進む一行。
「なに?この音?」
二人は不思議そうに、耳を済ませる。
「爆音だ。」
勇は平然と答える。
何度か都市には立ち寄ったことがある。
魔物の襲撃にあっている都市はいつもこんなものだ。
人間も必死に戦っている。
「爆音…?じゃあ、誰かが戦ってるってこと?」
シルフは顔を青ざめる。
「行かなきゃ!」
シルフは駆け出す。
それに付随して飛ぶハープ。
勇はそれを呆れて見つめ、追いかけていく。
森を抜けると、そこは戦場と化していた。
巨大なサイクロプスの群れが都市に侵攻している。
それに応戦する軍隊。
砲撃。
黒煙が空へ立ち昇り、火薬の匂いが風に乗って流れてきた。
空気が震える。
その音に驚いて、耳を塞ぐ二人。
「びっくりぃ…。」
ハープが萎縮している。
「じきに終わる。」
後ろからゆっくり歩いて来た勇が言う。
「この程度なら、都市は落ちない。」
砲撃やミサイルを畏れ、撤退していくサイクロプスの群れ。
「本当だ…。」
もうすぐ日が暮れる。
「行こう。」
勇が先行して歩く。
戦闘の光景におびえた二人は勇の後ろに隠れながらついていく。
(トラウマ確実だな…。)
と思いつつ、後ろにくっつく二人をうっとおしく思った。
「何者だ!」
軍人が銃を構える。
勇はクロークを開いて、剣を見せる。
軍人は焦った様子で、敬礼する。
「勇者様でありましたか!お通りください!」
勇者と呼ぶなという言葉を飲み込む勇。
こういうときは、使うに限る。
面倒事が減る。
しかし。
「お連れの方は…。」
一方は長い耳。
一方は腕に羽根が生えている。
「魔物か!?」
警戒する軍人。
一瞬、ここに置いていけば面倒事が減ると頭を過る。
しかし。
「仲間だ。通してもらえないだろうか?」
シルフとハープが目を輝かせる。
「勇者様のお連れ様なら…。」
軍人が許可を出し、構えた銃を下ろす。
「ありがとう。」
そう言って歩き出す勇。
「認めてくれたんだ?」
シルフが勇を肘で小突く。
「違う。」
シルフとハープが顔を見合わせて笑う。
「はいはい。」
二人で勇の後をついていく。
勇は
(やっぱり置いていけば良かった…。)
と心の中でぼやいた。
勇たち一行は壁の中を進む。
壁の中も軍人が忙しなく行き交っている。
軍人の休憩所。
作戦会議室。
軍事に係る施設が集まっている。
その先には検問所。
都市に不都合が起きないように、持ち物を検査される。
サバイバルキットや剣を預ける。
これだけは勇者でも例外ではない。
と言うより、預けてしまった方が面倒にならない。
シルフとハープもそれに続く。
検査員が物珍しそうに二人を見るが、気付かないフリをする勇。
勇一行は都市の内部に入っていく。
「わぁ~!」
二人の声が被る。
シルフとハープは目を輝かせて辺りを見回す。
外とは違う、しっかりと整備されたビル群。
車や電車が行き交う道路。
そして、大勢の人々が生活していた。
「すご〜い!」
ハープがぴょんぴょん跳ね回る。
「迷子になるぞ。」
勇はその一言だけ言って歩き出した。
あれにもこれにも反応する二人。
それを構ってられないと無視して歩く勇。
一刻も早くホテルに入りたかった。
「教えてくれてもいいじゃん!」
二人は勇を責めつつ、ついてくる。
横断歩道で立ち止まる勇。
ハープが何も知らず、渡ろうとする。
車がクラクションを鳴らす。
「えっ…?」
ハープの手が引かれる。
ぶつかる寸前に勇が助ける。
「危ないぞ!」
ハープは涙目になる。
「怖かった…。」
勇はため息をつく。
「あれが赤のときは渡っちゃいけない。」
シルフとハープに言う。
二人は強く頷く。
(あれ…?)
そう思いつつ、勇は歩き出す。
多分、何でもない。
そう言い聞かせて、ギルドが管理している冒険者向けホテルに入る。
「二部屋頼む。」
手続きを済ませていく。
その間も二人はキョロキョロしている。
「綺麗な装飾だねぇ。」
二人で話ながら、ウロウロ歩き回る。
「おい!行くぞ。」
勇は二人を呼び、部屋に入る。
「え?別々?」
文句を言う二人を部屋に押し入れ、隣の部屋に入る。
隣の部屋から笑い声が聞こえてくる。
「ねぇ、ベッドふかふか!」
「飛び跳ねちゃダメだって!」
勇は思わず耳を傾ける。
そして、
(……うるさい。)
そう思いながらも口元が少し緩む。
(あれ…?)
急に静かになったことに気付く。
何だか淋しい気持ちになる。
勇はその気持ちに困惑した。




