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打ち出の小槌を鳴らしたら、現実世界が異世界化した件  作者: さく


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6/11

5話 オーガ・モンキー

縄張り。

それは動物のテリトリー。

縄張りに入ったものは、排斥される。

それが動物の理だ。


しかし。


(この辺にオーガ・モンキーなんて名前の魔物いたか?)

男の考えを読んでかシルフが語る。


「10年前まではここは日本猿の縄張りだったの。」

男は答えない。

でも、シルフは構わず続ける。


「そこに一匹のオーガが来た。

オーガは猿たちを屈服させ、群れのボスになった。」

遠くを見つめるシルフ。


「村の大人たちは、オーガが猿の群れを支配して、いつの間にか今のオーガ・モンキーが生まれたって言ってた。」

つまり、この10年で異種交配されたということだ。

普通はないことだが、こんな世界だ。


あるかもしれない。

事例がないわけではない。

ウルフェンと野犬が一緒にいる事もあった。


あれも交配して、日本に狼が復活ということもありえるかもしれない。

(しかし、詳しいなこの女…。)


「ふふ…顔に出てるよ。」

シルフは愉快そうに笑う。


「私の村。この近くなんだ。

だから、旅に出たばかりでさ。」


後ろ頭に手をやって、おどけて見せる。

「勇者様に出会えてラッキー…。」

慌てて口を塞ぐ。

恐る恐る男を見る。


男は意に返さないと言うように背中を向ける。

(厄介だな…。)

そう思いつつ、歩みを進めた。


「もう!勇者って呼ばれたくないなら、名前くらい教えろよ!

お~い!」

シルフもついていく。




オーガ・モンキーのボスである夜叉は肘掛け椅子に座り外を見ていた。


そこに現れるオーガ・モンキー。

「キキ…!」

ボスに跪く。


「用意ができたか…。」

夜叉がゆっくりと腰をあげる。


「久方ぶりの獲物じゃ。」

その姿は威厳に満ちている。


傍らにある人間の大人の背丈程ある青龍刀を持ち上げる。

「わしの縄張りに踏み入ったこと後悔させてやるわ!」


夜叉は青龍刀を突き出す。

青龍刀の先には、何百ものオーガ・モンキー。

「出陣じゃ!」


何百ものオーガ・モンキーが声をあげる。

鼓舞するようにジャンプする。

そして、外に飛び出していった。




男は何かに気づく。

(囲まれた…。)


シルフも警戒モードに入る。

「多い…!」

弓を持つ手が震える。

ゆっくりと矢に手をかける。


男も鞘に手をかける。

「くる…!」


そう言ったと同時に、何百ものオーガ・モンキーが襲いかかる。


男はクロークを翻し、剣を抜く。


一閃。


先頭のオーガ・モンキーが塵となって消えた。

直ぐに一匹を踏み台に飛び上がる。


身を翻し、回転斬り。

そこ同時に3匹を仕留める。

木の枝を掴んで、枝に立つ。

そして、オーガ・モンキーを斬り伏せていった。


シルフは弓を持ち、飛び上がる。

木の上から、オーガ・モンキーを狙い撃つ。


その姿を目の端に収めた男は、シルフに襲撃してくるオーガ・モンキーを斬り伏せていく。

「ありがとう!」


「やっぱり、返事はなし?」

男の後ろにオーガ・モンキーが見えた。

シルフはそれを射抜く。

「…。」


「どういたしまして。」

シルフは無言の男に向かって言う。


しかし、多勢に無勢だ。

矢の残りも少ない。

男はシルフを抱えて、飛び降りる。

「え!?ちょ、ちょっと!」


そして、岩壁を背に向かってくるオーガ・モンキーを斬り伏せていく。

シルフは意図を読んで、撃ち落としていく。


ズン…!


地響きがする。

近づいて来ている。

(本命がきたな…!)


来たのは、2Mはあろうかと言う巨躯のオーガ・モンキー。

二足歩行で、赤黒い体毛。

鍛えられた筋肉を持ち、猿の顔に二本の角が生えている。

そして、肩には巨大な青龍刀を担いでいた。


「お主か…。

我が子らを可愛がってくれたのは…!」

夜叉が青龍刀を男に向ける。


「我が名は夜叉。

主の名前は?」


「…。」

男は黙り込む。


「名乗らぬとは無礼な男よ。」

夜叉が青龍刀を構える。

男もゆっくりと剣を構える。


「手出しをするではない!

この者は、わしが斬る。」

二人同時に飛び出した。


剣と青龍刀が激しくぶつかる。

金属音が森に響く。

火花が散った。


力が強い。

剣を持つ手が痺れる。

押し切られそうだ。


「ほう…。その剣は…!」

夜叉は剣を見て驚く。

「両刃の剣。

そして、その中心にある紋様…。

貴様、勇者か!」


刃を横に受け流す。

夜叉がよろけた隙に間合いをとる。

「…俺は勇者じゃない。」

そう言いつつ、剣を構える。


(強い…。)

パワーが他のオーガ・モンキーとは段違いに強い。

(大振り。豪快にパワーで押し切るタイプか…。)


「何を考えておる。」

肩に乗せた青龍刀を振り下ろす。

勇は横に避け、攻撃を受けないようにする。


「ちょこまかと…!」

青龍刀の軌道をを変えて、一気に振り上げる。

それをバク転で躱す。

前髪が少し落ちる。


冷静に夜叉を見据える。

自分の背丈程の青龍刀を扱っているのに芯がブレていない。

判断力もある。


(厄介だな…。)




シルフは二人の戦闘を見て唖然とする。

「あの夜叉ってお姉さんも勇者も凄い!」


夜叉が青龍刀を振り下ろすと地面が割れる。

それを回避して、攻撃に転じる男。

「あのタイミングで斬り返した……!」


シルフは息を呑む。


「お姉さんはあの大きい剣を軽々と扱ってる…。

そして、ちゃんと勇者を捉えてる。」


シルフは男に目を向ける。

「勇者はそれに対応して、隙を探してる。」


手に汗握る。

緊張感があるのに笑みが出る。

「凄い…!」




(この女…。)

剣を握り直す。

(できる…!)


男は流石、縄張りのボスだと納得する。

(勇者よ。何故私の力を使わぬのです?)

剣が男に語りかける。


「…黙れ!」

男は夜叉に斬りかかる。

夜叉はそれを軽々と受け止める。


「ふ…。喋る剣とは珍しい。」

夜叉は押し切ろうと青龍刀を押し出す。

男は青龍刀に手をつき、背中に回り込む。


脇腹に剣を降る。


脇腹で剣が止まる。

(皮膚も硬い…。)


ニヤリと嗤う夜叉。

夜叉は男を掴み放り投げた。


「ぐは…!」


壁に叩きつけられた男は地面に倒れ込む。

「勇者!」

シルフが叫び、駆け寄る。


「素早い身のこなしじゃ!」

地響きを立てながら、寄ってくる。

シルフが矢に手をかける。


(私にやれるの?)

矢を持つ手が震える。


勇者でも苦戦している。

怖い。


シルフの肩に手が置かれる。


ゆっくりと起き上がる男。

頭から血を流している。


「勇者…。」


「俺を…勇者と呼ぶな。」

剣が光る。

傷が回復していく。


(ふふん。)

勇者の剣は鼻高々といった様子だ。

「余計なことをする。」


「ほう…それが勇者の剣の力か」

青龍刀を肩に担いで言う。


「これだけじゃないがな。」

男も剣を構えた。


二人の間に緊張感が走る。

入れる隙がない。


お互いが柄を握る手に力を込める。


一瞬の静寂。

木々が風に揺れる。


刹那。


夜叉が青龍刀を振り下ろす。

地面が揺れる。


男は青龍刀を駆け上がる。

そして。

(毛皮は硬い…。なら!)


「やめろ!」

夜叉が叫ぶ。


男は首元で剣を止めた。


男は剣を引く。

後ろを見ると、シルフがオーガ・モンキーたちに襲われそうになっていた。


「男ども…!わしに恥をかかせる気か!」

夜叉が怒号をあげる。

オーガ・モンキーたちは怯えて動けなくなる。


「男どもが済まなかったな…。」

夜叉が男の前に跪く。


「女王を助けたくてやったことだろ?」

男は夜叉に向き直る。


「わしが女と気づいておったか…。」

夜叉はそのまま目を瞑る。

そして、首を差し出す。

「やれ!」


男は夜叉を見る。

そして、剣を収める。


「何故、首を取らん!」

男は一瞥して、その場を去った。


男は森を出る。

その後をシルフが追いついてくる。

「…ついてくるな。」


シルフは後ろ頭に両手を回す。

「いいじゃん。」

ニヤニヤしながら、男を見る。

「私を助けてくれたんでしょ?」


あそこで女王を殺せば、暴走したオーガ・モンキーにシルフが殺される。

だから、夜叉を殺さず、シルフを勇者が守った。

そうシルフは解釈する。


「…。」

男は何も返さない。

男を肘で突くシルフ。

「照れちゃって。」


シルフは嬉しそうに笑う。


「おい!」

二人は振り向く。

そこには、夜叉がいた。


「借りができた。」

夜叉が端然と構えて森の入り口に立つ。

「この森は今後、お主らには手を出さぬ。」


「…。」

男は夜叉を見る。

「無口な男よ。」

カッカッカと笑う夜叉。


「名を教えてくれ。」

男を見据えて熱い視線を送る。


「…。」

男は夜叉に視線を返す。

「…勇だ。」


「勇…!覚えておく。」


「えぇ!? 私には教えてくれなかったのに!?」

シルフが勇を見る。


「…。」

勇は振り返る。

そして、目的地を目指して進む。

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