4話 エルフ
勇は打ち出の小槌の情報を得て、親子のいた町へ向かう。
ここからは少し遠いが、今まで通り各地を守りながら行けばいい。
腰の剣の柄を強く握る。
自分が壊した世界。
(なら、それを救うのも俺の使命だ)
そう言い聞かせて、歩みを進める。
草が揺れる音が僅かに聞こえた。
(何かがいますな。)
剣の声を無視して、柄を握る。
警戒体勢に入る。
周りの音に集中する。
木の枝を飛び渡る音と、それを追う巨大な何か。
「人が追われている。」
一瞬、躊躇う
しかし。
勇は音のする方に走った。
女は木々の間を縫うように飛び移る。
後方には、オーガ・モンキーの群れ。
オーガ・モンキーは木から木へ飛び移りながら距離を詰めてくる。
猿のような姿に角が生えた、この地域特有の魔物だ。
一匹なら脅威ではない。
だが群れで連携すると厄介だった。
(マズった…!)
女は旅の途中、川に寄った。
そこで水を汲んでいると、森の中に気配を感じた。
襲われる前にと弓を放つ。
当たったはいいが、それはオーガ・モンキー。
オーガ・モンキーは仲間意識が強い。
そして、女は逃げる羽目になった。
(もう…、しつこい!)
女は苛立つ。
数も多い。
矢の数も足りない。
(どうする…?)
女はいつも大人たちに言われていた。
お前はエルフなのに警戒心が薄く、迂闊だと。
そんな能力をここで発揮しなくていいのにと思う。
オーガ・モンキーが一斉に飛びかかる。
(ヤバい……!)
その時だった。
一陣の風が吹く。
気づけば、一人の男が女の横に立っていた。
腰には一振りの剣。
その背中は静かだった。
男は柄に手を添え、構える。
次の瞬間、姿が消えた。
気づけば、オーガ・モンキーの群れの中心にいた。
連撃。
荒々しい程の連撃。
素早いのに重い。
そんな攻撃だった。
無駄のない剣筋。
一太刀ごとに一匹が塵となって消えていく。
「ギャギャ!」
一匹が他のオーガ・モンキーに指示を出す。
そして、撤退していった。
「猿…?いや、鬼か?」
この辺も随分変わったと思う。
剣を振り、血を落とす。
そして、剣を鞘に収めた。
女は、ただ呆然とその背中を見つめていた。
(……強い。)
「いやぁ~、助かったよ。」
女は軽い調子で話しかけてくる。
「オーガ・モンキーに攻撃しちゃってさ〜。」
後ろ頭を掻きながら男に近づいていく。
「危なかったよ。」
(オーガ・モンキー…?知らない名前だ。)
「…。」
男は女を一瞥して、立ち去る。
「おい!何とか言えよ!」
膨れっ面をして、叫ぶ。
男は何も言わず、背中が遠くなっていく。
「ちょ、ちょっと、待ってよ!」
女は男の後を追いかけていった。
「私はシルフ。
あんたは?」
シルフが男に話しかける。
「…。」
男は無言で歩き続ける。
(耳が長い…。エルフか。)
「おい!聞いてんのか?
名前だよ!教えてくれよ。」
シルフが男のクロークを掴んで、引き止める。
クロークが靡く。
前が外れて、腰の剣が目に入る。
「さっきの戦闘見てたけど、あんた勇者だろ?」
シルフは目を輝かせる。
「俺、目は良い方なんだ。
独特な両刃と紋様の剣…。」
振り返る。
「あの伝説に語られる剣と一緒だ!
なあ、そうだろ?」
男は女を一瞥する。
そして、背を向ける。
「…俺を勇者と呼ぶな。
俺は勇者じゃない。」
剣をクロークで隠す。
そして、また歩き出した。
「何で隠すのさ!
カッコいいじゃんか」
シルフは男の周りをちょこまかとしながら、話しかけ続ける。
「勇者はみんなの憧れなんだ。」
その後も喋り続けるシルフ。
勇者への憧れを熱く語る。
男はそれを意に返さないといった様子で歩き続ける。
「…。」
「何か喋れよ…。勇者さまは無口なんだな。」
男がシルフを睨む。
「おっと…。」
シルフは両手で口を塞ぎ、様子を伺う。
男は歩みを止めない。
「もう…。」
シルフは急いで追いかける。
「何故、ついてくる?」
男がシルフにキツめに質問する。
「だってよ…。
助けてもらったしさ…。」
様子を伺いながら、言う。
「女一人じゃ危ないだろ?」
「それにこの辺危ないんだよ。
オーガ・モンキーの縄張りなんだ。」
男は溜息をついた。
(縄張り…。)
目をつけられたなと思い始めた。
オーガ・モンキーたちは急いで帰っていた。
木々を飛び回り、巣に向かう。
森の奥。
廃村になった村がある。
そこに一つの立派な屋敷。
他は朽ちて人が住めそうな雰囲気はない。
しかし、その屋敷だけは綺麗に整備されていた。
その屋敷に集まるオーガ・モンキーたち。
最上階には立派なイスが置いてある。
そこに座る。
一際大きいオーガ・モンキー。
ボス。
そう呼ぶにふさわしい。
「キキ!キキ!」
オーガ・モンキーがボスに報告する。
「ほう……我らを退けた者がいるのか。」
屋敷の主人が使っていた肘掛け椅子を回して、オーガ・モンキーに向き直る。
「縄張りに入ったものがどうなるか…教えてやらねばな…。」
オーガ・モンキーたちは興奮したように叫び声をあげた。




