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打ち出の小槌を鳴らしたら、現実世界が異世界化した件  作者: さく


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3話 勇者の代償

勇と茂は泣きながら、森の中を走る。

ドラゴンは追いかけてきていたが、森に入った頃に2人を見失ったようだ。


肩で息をきらして、2人は立ち止まる。

上空ではドラゴンの咆哮と炎を吐く音が聞こえる。

「桜ぁ…。」

勇はへたり込む。


茂が勇の胸ぐらを掴む。

そして、木に押し付ける。

「桜が死んだ!」

茂は大泣きしながら、勇を責める。


茂の言いたいことは分かる。

けれど。

「こんなはずじゃなかったんだ…。」


手が震える。

自分が能天気に願ったせいで、こんなことになった。

自分の口で言うのが、怖い。


「こんなはずじゃないってよく言える…!

桜は…!」

勇を揺さぶる。


その時。


ズン…!

地響きがする。

その地響きが定期的に鳴り始める。


その音と同時に何かを引き摺る音も聞こえる。


「何だ…?」

2人は耳を澄ます。


その音が近づいてくる。


「この音、やばいんじゃないか?」


木々が大きく揺れる。

鳥たちが一斉に飛び立った。

地面が震える。


何か巨大なものが、森をへし折りながら近づいてくる。

そして現れたのは──


巨大な棍棒を持った醜悪な巨人だった。




ズン!ズン!ズン!


巨人に追われていた。

棍棒を振り上げ、木を薙ぎ倒す。

そして、勇と茂に振り下ろす。


棍棒が地面につくたび、地震のように揺れる。

そして、地響き。

勇たちはそのたび、揺れで足を取られる。


「何だよ!あいつは!」

茂が叫ぶ。


「知らない…!知らない!」

勇は首を振り、必死に走る。

何も考えられない。


森を抜け、町が見渡せる丘に出る。


「何だ…。これ…。」


町は火の海だった。


空には、見たことのない生物が飛び交う。

あるいは火を吹き、あるいは空から人間を襲う。


地上にも見たことのない大小様々な生物が人間を襲っていた。

目を背けたくなるような残忍な光景。


ズン…!


地響きが近づいている。

逃げ場がない…。

2人は顔を見合わせる。


「どうする…!?」


巨人が木を薙ぎ倒し現れる。

そして、棍棒を振り上げる。


勇と茂は絶望する。

(終わりだ…。)


その時だった。


(見つけた!)


何処からともなく声が聞こえた。

「えっ…?」

勇が辺りを見渡す。

空が眩く光る。


巨人が動きを止める。

勇も茂も思わず空を見上げる。

流星のような光が一直線に落ちてくる。


ドンッ!


勇の目の前に剣が突き刺さった。

両刃の剣で中心に独特な紋様が彫られている。


(やっと、見つけた!)




「何だこれ…!」

茂は剣を見つめながら、言う。


(これとは、なんです!

私は由緒正しき勇者の剣ですぞ!)

剣が不満そうに答える。


「勇者…?」

茂は直ぐに検討がつく。

勇が好きなもの。

夢中になってるもの。


ファンタジーもののラノベ。

勇の願いは…。


「まさか…。お前…!」


(お前とはなんです!

この御方は勇者の資格を持つ…。)

勇が剣を黙らせようと掴む。


(むぐ…!)

勇の願い。

それは。


茂の顔が怒りに震える。

勇は絶望の表情で茂を見つめる。


「勇…。まさか…、そんなことのために…!」

茂がワナワナ震える。


「多くの人が死んだ…!」

茂は下を向いて、身体を震わせる。


「桜も死んだ…!」

勇を見据える。


「現状を見ろ!」

茂は町を背に手を町に向ける。

ゆっくりと、町に視線を移す。


町の大惨事。

世界でこんなことが起こっているかもしれない。

「お前の…!」


「お前の願いのせいでこんな…!」

勇の目に涙が溜まる。


(俺はこんなことを望んだんじゃない…!)

言い訳したい。

目を伏せる。


全部、わかってる…。

俺の…。


巨人の影が二人を覆う。


勇が顔を上げる。

茂も何かに気付く。


棍棒が振り下ろされる。

鈍い衝撃音が響く。


「えっ……?」


温かいものが勇の頬を濡らした。

茂の血だった。



「うあああああああ!」

勇が叫ぶ。


「勇者になりたい。」

その願いが頭の中で何度も繰り返される。


町が燃える。

桜が死んだ。

茂が死んだ。


全部、自分が願ったことだった。


勇は剣を取る。

「あああああああ!」


飛び上がる。

身体が軽い。

こんな巨人なんて一捻りできる気がする…。


一閃。


勇は巨人を袈裟斬りにする。

巨人は塵のように消えていく。


(流石、勇者様!

勇者様の力は…。)

勇には剣の声などもう聞こえない。


「茂…。」

勇はゆっくりと歩く。


剣が手から滑り落ちる。

乾いた音を立てて地面に転がる。

勇は茂だったものに膝をつく。


そして、声にならない嗚咽を漏らした。

胃の中のものを吐き出す。

勇はこの状況に耐えられなかった。




勇は絶望して、茂の亡骸の横に倒れ込む。

何も考えられない。

虚ろな目で空を見つめる。


ふと、頭に打ち出の小槌が過る。

「打ち出の小槌だ…!」


勇は蔵に走り出す。

襲ってくる魔物を斬り伏せ、走り続ける。


希望。


打ち出の小槌が最後の希望だ!


蔵にたどり着く。

ドラゴンはもういない。

標的を変えたのか。


そんなことはどうでもいい。

勇は瓦礫を退かしていく。

打ち出の小槌を探して…。


「ない…!ない!」

勇は蔵の中を探し回った。

瓦礫という瓦礫を退かし探したがない。


誰かが持っていってしまったのか?

それとも、消えたのか…。


勇はへたり込む。

ここにあったはず。

なのに…!


…。

必ず見つけ出す。

そして、この世界を元に戻す。


勇はそう決意する。



勇は二人の亡骸を静かに埋めた。

墓標代わりに勇者の剣を突き立てる。


土を見つめる。

風だけが吹いていた。


勇の目に光は戻らない。

もう泣かない。

笑わない。


剣を手に取る。

この剣はもはや、勇者の剣ではない。

勇の罪の象徴。

背負うべきもの。


今から、俺は旅に出る。

必ず、見つける。

それが勇の贖罪だ。


ーー10年後。


焚き火の火が弾ける。

その前に勇者の剣。


(勇者よ。次は何処へ?)

勇は剣を腰の鞘に収める。


「…俺は勇者じゃない。」


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