2話 世界の変容
外から、地面を震わせるような咆哮が響く。
蔵が揺れる。
「何!?今の…。」
桜はさっきの音が何か分からなかった。
そして、桜を恐怖が襲う。
茂は辺りを見渡す。
「声のようだったけど…。」
勇はその声に聞き覚えがあった。
よくアニメを見ている。
「俺…見てくる!」
勇は走り出す。
「危ないよ!」
桜が叫ぶ。
勇の耳には入っていない。
高揚感が支配していた。
勇は蔵の出入り扉につく。
そして、重い扉を押す。
外の光が入ってくる。
空を見上げる。
青空を覆う巨大な影。
ゆっくりと羽ばたく翼。
黄金色の瞳。
勇は息をのむ。
「……ドラゴン。」
勇の目が輝く。
「本物だ……!」
思わず笑みがこぼれる。
ドラゴンが大きく息を吸い込む。
次の瞬間。
轟炎。
炎が住宅街をのみ込んだ。
「えっ……?」
悲鳴が聞こえる。
泣き叫ぶ声。
逃げ惑う人々。
ドラゴンの吐く炎がその人々をも黒焦げにしていった。
勇は現実を受け入れられなかった。
今、見ている光景が現実かも理解できない。
考えることすらできない。
勇は立ち尽くしていた。
ドラゴンが勇の方に向く。
大きく息を吸い込む。
轟炎。
炎が勇を焼き尽くさんと迫る。
勇はその光景を見ている。
しかし、理解できない。
その時。
蔵の中に引き戻される。
そして、扉が閉まる。
重く重厚な扉が炎を防ぐ。
「勇!」
茂が勇を揺さぶる。
勇の目の焦点が合わない。
「勇!」
もう一度、揺さぶる。
「茂…?」
勇がゆっくりと茂を見る。
茂が助けてくれたようだ。
茂を認識した途端、脳が全てを認識し始める。
勇の顔が青ざめていく。
「俺のせいじゃない…。」
声が掠れる。
脳は理解し始めたとき、現実逃避する。
「俺のせいじゃ…。」
勇の頬に涙が伝った。
「何を願った!」
茂は勇を揺さぶりながら、聞く。
勇は小槌を見る。
何でも願いを叶えてくれる打ち出の小槌。
「俺は…。ただ…。」
勇は躊躇う。
認めたくない。
言葉にすれば、現実を認めた事になる。
「くっ…!」
拳を振り上げる茂。
その時。
激しく蔵が揺れる。
「何だ!?」
茂が辺りを見渡す。
「あっ!」
桜が上を見上げて、指を指す。
勇と茂は、指の方向を見る。
そこには窓があり、ドラゴンが蔵に体当たりしてるのが、見える。
「逃げろ…。」
茂が呟くように言う。
その瞬間、3人は認識する。
崩壊すると。
「逃げろ!」
勇と茂は急いで走る。
しかし、桜の足は動かない。
「桜!」
勇が振り返り叫ぶ。
茂が戻ろうとする。
梁の軋む音がする。
勇と茂は上を向く。
一瞬気が取られた。
桜と目が合う。
怯えている。
瓦礫が落ちてくる。
強い衝撃と地響き。
勇と茂の前に瓦礫が落ちた。
土煙が巻き上がる。
「桜…?」
煙が晴れていく。
瓦礫の下に白い手と流れる鮮血が見えた。
「桜!」
勇は瓦礫を必死に退かしていく。
もう、桜を救出することしか考えられない。
茂は呆然と立ち尽くし、その光景を見つめる。
「桜…。」
蔵が揺れる。
ドラゴンの猛攻は止まらない。
更に瓦礫が落ちる。
茂は勇を引き戻す。
「桜…!桜ああああ!」
勇は手を伸ばす。
瓦礫で手すら見えなくなる。
「ダメだ…!
俺たちまで死ぬぞ…!」
茂は勇を引きずるように扉に向かう。
勇は桜しか見えていない。
抵抗する。
茂は勇を殴る。
勇の頬を涙が止めどなく伝う。
嗚咽で言葉にならない。
勇と茂はお互いを見る。
(分かっている。
助からないことくらい。でも…。)
轟音。
蔵全体が跳ね上がる。
天井が砕け、木片が降り注ぐ。
光が差し込む。
その穴から黄金色の瞳が覗いた。
ドラゴンだった。
「いくぞ!」
勇と茂は重い扉を開けて、飛び出した。
勇は振り返る。
瓦礫の向こう。
もう、桜の姿は見えない。
勇は強く目を閉じる。
(ごめん…。)
心の中でそう呟いて、茂の後を追った。




