七十八章 血針の魔女
指示を受けて去っていくグラディスを見送った梨々香は再び銀月の滔流に向かって歩みを進める。
「私を探す必要はない」
生気を感じさせない乾いた風が梨々香の髪を揺らす。
「私とお前は必ず巡り合うのだ。再び星が墜ちたその先で・・・」
美しい銀色の花が描かれた襖を開けたその先にある畳、酒が入った瓶をひじ掛けにしてそこに座る銀色の髪の女性、その姿が梨々香の瞳を撫でる。
「この姿で会うのもこれで最後だ。お前が抱くその憎しみを私が殺してやろう」
烏賊墨色の雷紋が痛々しく走る白い手が銀色の光をサラサラと漏らす花弁を差し出す。
「・・・」
梨々香はその光景を思い出すと、輝羅々大社を去った。
一方、レムフィトでは、消息不明になっていたアージヴァイズたちが神軍に保護されていたと知ったローランたちが驚いていた。
「保護されていた!?」
ローランはアージヴァイズたちを見て驚く。
「あいつら!態度最悪だよ!!」
ウサギの耳を隠すように帽子をかぶったアージヴァイズはそう怒鳴った。
「あれはお互い様だにゃ」
黒鞘に納まった刀を持ったミッケはアージヴァイズを見る。
「神軍幹部にケンカ売って、暴力なんて振るって・・・マジで生きた心地しなかった」
オレンジは少し不機嫌な面持ちで話す。
「ご飯が美味しかったよ。ふかふかなパンとかきれいなお肉とか魚とかトマトとミルクのスープとか」
エコーはローランを見て笑む。
「神軍の人はどんな人たちでした!?」
「人に興味ない感じだった」
オレンジはローランの問いにそう答えた。
「あいつらに罪悪感なんてものはねぇ!!最低な奴らだ!!」
アージヴァイズは相も変わらず怒鳴っている。
「神軍の目的は?何か言っていたか?」
クリスティーナはアージヴァイズたちに問う。
「お前たちが知る必要はないって言われたにゃ」
ミッケはそう答えた。
「知る必要はない・・・」
ローランがそう言ったその時、アージヴァイズの眼前に音もなくリアンロゼスティが舞い降りた。
狂気を孕んだ瞳。その手には既にアージヴァイズの頸動脈を捉えようとする血針が握られている。
周囲の誰もがその速度に反応できず息を呑んだその刹那。
金属が打ち合うような凄まじい音と共にアージヴァイズが脇差で血針を弾き返した。
(なんて速度だ・・・こいつ・・・剣技使いか)
リアンロゼスティは脇差を握ったアージヴァイズを目だけで見た。
「面倒だ・・・!!」
リアンロゼスティはアージヴァイズを睨みながらアージヴァイズにハイキックをくり出した。
「・・・」
帽子が飛ぶ中、アージヴァイズと入れ替わっていたカスミが着地した。
「あ、あなたは!?」
ローランが驚く中、カスミはリアンロゼスティに向かって走る。
「陽烙聖ッ!!」
リアンロゼスティは大業物陽烙白蛇を見て冷や汗を垂らす。
大業物陽烙白蛇はリアンロゼスティの防護膜を切り裂いた。
「・・・」
カスミとリアンロゼスティは睨み合う。
しかし、両者の心境は正反対だ。
冷静と焦燥。
リアンロゼスティはカスミを見て血眼になる。
(こいつは・・・こいつだけはここで殺さねば!!)
怒筋を浮かべたリアンロゼスティは冷や汗を垂らした。
リアンロゼスティが破血弾を生成し出したその瞬間、ミッケは黒鞘を握る。
すると、黒鞘を囲うように赤色の線が走り、輝いた。
そして、ミッケは稲妻のような速度でリアンロゼスティに向かう。
「ッ!!」
リアンロゼスティは大業物明乃白隼を握ったミッケを見て目を見開いた。




