六十二章 エドワーズ町の怪事件
南龍王朝歴千六百九十七年、一月十日。
大陸の東西を貫く大運河、ミリア河の十一号国際貿易港が領土内にあるチダリア国は何処を見ても雪景色だ。
やや曇りの今日、上空からはチダリア軍の軍人が十一号国際貿易港へ向かうのが薄っすらと見える。
軍人たちが到着するとほぼ同時に港に輸送船団と護衛役の駆逐艦リドニーが停泊した。
船団の到着から少し時間が経つと軍人たちは忙しなく動き始めた。
「奴らは物資を下ろし始めました。ののさん、狙うなら今です」
偵察特化型雪風の通信が橘花軍クォーツ島秘密飛行場に到達すると、爆撃特化型雪風が布張りの簡素な格納庫から現れた。
「おい、気を付けろよ?非安定型だからな?」
のの・爆撃特化型雪風は少しの振動に過敏な反応を示し、機体を押す整備士たちを強く注意する。
「はい!」
整備士たちは寒さに震えながらも力強く機体を押していく。
爆撃特化型雪風七機からなるチダリア強襲隊は脚部装備のロケットエンジンを点火させて上昇していく。
「?」
雲に近づく爆撃特化型雪風たちは何か異常を感じ取る。
「なんだ?この音・・・」
それはノイズのようで、壊れたテレビから出る若い女性の声にも聞こえる。
ののたちが不気味に思い始めたその時、雲の一部が不自然に消えて全身を圧するような低音と共に青空が引き裂かれた。
突如発生した異常現象に驚く間もなく宇宙のような異空間、"界"から赫色の靄の塊が飛び出してきた。
その物体は大陸南部に向かって飛んでいく中で赫色の炎に包まれた金属片を落とした。
その金属片は北海に落ちると、凄まじい勢いで赫色の稲妻を発生させた。
「・・・なんだ?」
鍬を振っていたチダリアの農家は突如赫色の染まる雲を見つめる。
「な、なんだこれ・・・」
「気味が悪いな・・・」
木箱を持ったチダリアの軍人たちは赫色に染まる雲を見つめる。
雲が元に戻ったその直後、灰のような雪が降り始めた。
「クソ・・・雪が降ってきやがった」
文句を言いながら木箱を運んでいた一人のチダリア軍人が木箱を置くと、何か異変に気が付き真上を見る。
その瞬間、風切り音と共に直径六センチ、全長四十センチの爆弾が降ってきた。
八発が水に落ち、六発が駆逐艦リドニーを襲った。
「撃て!撃て!撃てぇー!!」
駆逐艦リドニーの甲板に居るチダリア海軍の軍人たちは対空砲で爆撃特化型雪風を攻撃し始めた。
爆撃特化型雪風たちによる強襲によって駆逐艦リドニーは激しく損壊し、左舷が徐々に傾き港に激突した。
「ここはあたしたち海兵に任せろ!住民を避難させられるのはお前たちだけだ!」
チダリア陸軍の軍人、リム・ローデル・ウッドはチダリア海軍の軍人に掴まれ駆逐艦リドニーから投げ飛ばされた。
リムは小麦粉袋に落ちて苦しそうに呻くも、すぐにフラフラと立ち上がった。
「クソ・・・」
燃える駆逐艦リドニーを見たリムは起き上がって走り出した。
上空から見えるのは激しい炎と黒煙のみ。河の一部は激しい炎と黒煙で確認できない。
爆撃型雪風六機から成る西川爆撃隊は駆逐艦リドニーを撃沈したと判断し、チダリア国ヴィニ州エドワーズ町へ。
しかし、チダリア海軍の駆逐艦リドニーは爆撃を受けて大破したが、完全な沈没だけは避けていた。
逃げたリムたちはエドワーズ町へ走った。
「避難だ!!避難するぞ!!橘花軍が来た!!」
リムは町内を走りながら叫んだ。
リム以外のチダリア陸軍兵たちはハンドルを持ち出し、多重ギアの装置にハンドルをつけて回す。
すると、空襲を伝える大きな鐘が動いて鳴り始めた。
「・・・」
鐘の音を聞いたリムとスージーは防空塔を見た。
「・・・」
防空塔に居るチダリア陸軍兵たちはリムとスージーに敬礼してうなずいた。
「・・・」
リムとスージーはチダリア陸軍兵たちに敬礼を返した。
リムたちは住民と一緒に歩いて防空壕を目指して町から出始める。
目的地である防空壕は、集落から二・七キロメートルほど離れた岩肌の山にある洞窟を利用したもの。
馬ですら貴重なこの町民は、その洞窟まで歩いて行かなければいけない。
「どうしたんだ?具合が悪いのか?」
リムは子供たちを見る。
「うん・・・なんだか眠たいの・・・」
子供たちは目をこする。
「なんだ?隠れて夜起きてたのか?」
大人たちは子供を抱えて歩き始めた。
(案の定、ガキがみんなの足を引っ張っているな)
のの・爆撃特化型雪風は雲に紛れながらリムたちを見る。
その時、爆撃特化型雪風の操縦士たちがふらつき始めた。
「どうした?」
のの・爆撃特化型雪風は操縦士たちを見る。
「なんだか・・・眠気・・・が・・・」
その言葉と共に操縦士たちがパリパリと結晶化していった。
制御を失った爆撃特化型雪風は急上昇・急旋回して墜落していく。
「なんだ?なんなんだ!?」
のの・爆撃特化型雪風は冷や汗を垂らす。
同時刻、冷や汗をかいたリムたちも悲鳴を上げていた。
眠気を訴えていた子供たちが結晶化し、そのすぐ後に老人も眠気を訴えて結晶化した。
パニックに陥り、走り出した大人までもが宇宙を閉じ込めたような結晶になっていく。
「クソ!何が起きてるんだ!!」
のの・爆撃特化型雪風はクォーツ島秘密飛行場に逃げ帰る。
「・・・」
リムは奇妙な結晶を前に呆然と立ち尽くす。
「・・・」
黄の瞳を光らせ、白いツインテールを揺らし、翼膜が薄紫色に輝く龍翼を広げた女性、ローラ・エリザベス・アディは奇妙な結晶が星のように点在するチダリアを見つめる。
「・・・なんて神気濃度だ・・・」
着地したローラは周りを見る。
「・・・」
ローラは灰のような雪が頭や肩に積もったリムに近づく。
「リム・ローデル・ウッド伍長だな?」
ローラはリムに声をかける。
「・・・」
リムはローラを見ると涙をこぼした。
「ここは危険だ。私と共に来い」
ローラは声にならない声で泣くリムの顔を胸で覆うように抱き寄せると飛び上がった。




