四十五章 月浜軍の限界
一方、月浜の疑似神姫たちは千蘭宮皇国上空を飛んでいた。
「本当にやるの・・・?」
赤眼、黒髪ツインテール。黒と赤が基調のレオタードタイプの戦闘服で身を包んだ色白な肌のTT-42B-60 グリードリヒ・フォンドレシアはレーダーを避けるように飛ぶ。
「ここで強襲すれば神具を確保しつつ奴らを一掃できる。大陸最古の国家を討伐し、月浜を再び強国へと押し上げるのだ」
飛行するエミリア・ミーティアはレーダー情報を見つめる。
(何が再び強国へだよ。アホらしい・・・)
グリードリヒ・フォンドレシアは途轍もなく不服そうにエミリア・ミーティアを見る。
(歴史的建造物だし、歴史的民族だし、成功なんてしちゃったら・・・通貨価値消失アンド地獄の賠償請求ッ!!)
グリードリヒ・フォンドレシアは顔を青くする。
(今世界にある通貨を集めても足りない額だろうし、私たちは捕まえられて未来永劫無賃で労働させられるかも・・・そんなことになるんだったらここでこいつを殺して・・・)
グリードリヒ・フォンドレシアは身を震わせながらエミリア・ミーティアを見つめる。
(タンコック准尉の亡命と疑似神気エネルギーの完全除去が知られてから統率が激しく崩れている・・・このままじゃ完全崩壊は時間の問題・・・何とかここで奴に一撃与え、威厳を見せなければ・・・)
エミリア・ミーティアはグリードリヒ・フォンドレシアを一瞬見てから再びレーダー情報を見た。
月浜の軍紀は、すでに限界を越えていた。
橘 みよりの死後、海軍中尉クレア・リー・リンパニーと陸軍伍長ファルム・レベッカ・ロイルが相次いで亡命。
疑似神姫の連鎖的な離反を恐れた軍部は、凄まじい情報統制を敷きベネローブたちの件も一切を非公開とした。
だが、時既に遅し。
かつての仲間、ベネローブがレムフィトで人間らしく笑い、食事を楽しむ写真。その幸福の瞬間を目にした疑似神姫たちの間に抑えきれない不満と羨望が毒のように回っていた。
皮肉なことにこれは月浜が自ら蒔いた種だった。
疑似神姫を制御するために植え付けた外部への過度な恐怖と不安。
それがたった一枚の写真という光に触れた瞬間、反動となって彼女たちの精神を内側から食い破り始めたのだ。
(何とか止めなければ・・・)
エミリア・ミーティアがそう考えた時、途轍もない熱風がエミリア・ミーティアたちを襲った。
熱風を受けたバリアが瞬時に割れ、全身が燃え上がる。




