百七十一章 星の終わり
歩みを進める度に体から血色の神気が抜けていくアレスは大樹を背に倒れた。
「やはり・・・来ていたか・・・」
黒玉のような瞳のありきたりながら可愛い乙女に戻りつつあるアレスはうつむいたままそう言葉を紡ぐ。
「・・・」
梨々香は黙ってアレスを見つめる。
「剣王・・・私は何者だ?」
アレスは静かに問う。
「・・・」
「この器が誰のものだったか・・・度々脳裏をよぎる記憶が誰のものか・・・私にはわからないのだ」
「リウトガルト・・・リウトガルト・フォン・ケイボワール。私の友達だ」
梨々香はそう答えた。
「・・・そうか・・・」
アレスは力なく笑った。
「・・・」
梨々香は再生を始めるアレスを見ながら神刀赤閃を生成して握った。
「友を斬る感想は?」
アレスは梨々香に微笑む。
「最悪に・・・決まってんだろッ!!!!」
梨々香は両手の筋が浮かぶまで握り込んだ神刀赤閃をアレスに向かって力一杯振った。
あなたが王国に着いたという一報を梨子様と共に見ました。
梨子様はお兄様が戻ってくるまでは婚約しないと言い、集落の人たちもそれを受け入れてみんなあなたの帰りを待っていました。
あなたは帰ってきませんでしたが手紙は届きました。
あの日と変わらない綺麗な字・・・あなたの優しさが伝わる文。
みんな、みんな・・・あなたの手紙を見て歳を重ねました。
私も・・・ずっとあなたを思っていました。
老いてシワが深くなった私の所に可愛い可愛い妹が来ました。遥々王国から・・・
あの日と大して変わらない可愛い可愛い妹は、私にあなたの最期を伝えてくれました。
泣いて、悔やんで、心の痛みが伝わるくらい辛そうに・・・
「・・・」
ヒルデガルトは灰と化して消えていくありきたりながら可愛い乙女を悲しそうに見つめる。
「・・・・・・どこまでも世話がかかる奴だった・・・」
梨々香はそう言いながら座り込んだ。
「すまないね」
ヒルデガルトは梨々香の隣に座った。
「君も大変だったな。あんな姉を持って」
「僕はそこまで大変じゃなかったよ。一緒に居たのは五年程度だし」
「大変だったのは君の方だ。あれと十数年も一緒にいたなんて・・・よく気がおかしくならなかったね」
「・・・そうだね」
「戻れるなら、あの頃に戻りたいかい?」
ヒルデガルトは梨々香に問う。
「・・・戻りたくありませんね」
梨々香はヒルデガルトを見て微笑みながらそう答えた。




