十五章 絶望を切り裂く狼牙
「映像遮断! 観測不能!」
「カタパルト故障! 修理を急げ!」
阿鼻叫喚の指令室。
さやかが必死に思考を巡らせる中、モニターにひよりの顔が冷然と映し出された。
「不安定で構わない。飛べるなら結構よ」
モニターに映ったひよりは整備長たちを見てそう言った。
リンク値は最低値の四十五パーセントに満たない。
飛行場は重々しい雰囲気で包まれ、複雑な感情を抱く整備士たちの視線が整備長に向けられる。
「・・・」
整備長は情報が映るモニターを見た。
「・・・両機、リンク値四十五パーセントまで上がり次第出撃」
迷っていた整備長は出撃を決断する。
「無茶ですよ!」
整備士1は整備長の遮るように声を上げた。
「無茶は承知!!」
遮ろうとした部下を怒鳴りつけた整備長は肩を落とした。
「もう・・・どうすることもできんのだ」
整備長の決断を受けた整備士たちは覚悟を決めて整備へ戻った。
「な、何かあったの?」
オレンジ・ゴールドマスターは整備士1を見てそう言った。
「君、神を信じるか?」
整備士1はオレンジ・ゴールドマスターの最終点検を行う。
「・・・うん」
「なら、良かった。神は信じる者を救ってくれるらしいからな。心配はいらない」
整備士1は最終点検を続ける。
「私も信じておけばよかったよ」
「いつでも信じていいんだよ? 神様はいつだって認めてくれるって、ママが言ってたもん」
整備士の独白にオレンジは家族を思い出して少しだけ誇らしげに語った。
その無垢な言葉を塗り潰すようにカタパルトが火花を散らして二機の幼き戦姫は灰色の空へと弾き飛ばされた。
「・・・」
さやかは情報が映るモニターを見つめて驚く。
「し、司令官・・・」
困惑するオペレーターはさやかを見てそう言った。
二機の戦姫はリンク値が四十五パーセントを越えると同時に復旧したばかりのカタパルトによって射出された。
「良い?訓練通りにやるのよ?」
オレンジ・ゴールドマスターとエコー・ゼレヴィアンのインカムタイプの端末からはひよりの声が聞こえてきた。
「・・・」
オレンジ・ゴールドマスターは少し上の紅白い光を見ていた。
「・・・」
エコー・ゼレヴィアンも少し上の紅白い光を見ていた。
「整備長!これ!!」
整備士たちはモニターを見つめて慌てる。
「なんだこれ!」
整備長はモニターを見て酷く驚いた。
「・・・あ、あれが敵?」
オレンジ・ゴールドマスターは遠くのフィリス・フォッドーを見据える。
オレンジの脳裏に家にあった蜜柑畑で蜜柑を買うフィリスの姿がよぎった。
「・・・て・・・敵・・・そんなはずない・・・そんなはずない・・・」
冷や汗をかき、顔から血の気が引いたオレンジ・ゴールドマスターはフィリス・フォッドーを見てそう言った。
オレンジの脳裏に笑みながら釣りをするフィリスの姿がよぎった。
「・・・・・・あの子・・・」
フィリス・フォッドーはオレンジ・ゴールドマスターを見てそう言った。
「さぁ、戦うのよ!!」
オレンジ・ゴールドマスターとエコー・ゼレヴィアンのインカムタイプの端末からはひよりの声が聞こえてきた。
「た、戦うって・・・フィリスお姉ちゃんだよ・・・フィリスお姉ちゃんじゃないか・・・!」
オレンジ・ゴールドマスターはフィリス・フォッドーを見てそう言った。
「戦うのよ! あれはただの機械、偽物よ!」
怒鳴り散らすひよりに急かされ、オレンジは震える手で刀を構え、突撃した。
フィリス・フォッドーは光る粒子を撒きながらオレンジ・ゴールドマスターを軽々回避した。
「フィリス!戻れ!!はめられた!!青狼!!青狼だ!!」
月浜第四艦隊の空母から送られた衝撃的な通信がフィリスに到達した。
「ッ!!」
フィリス・フォッドーは慌てて反転する。
「あり得ない・・・!レムフィトのどこにそんな戦力がッ!!」
冷や汗をかいたフィリスは全速力で艦隊へ戻る。
「奇跡だ・・・」
来るはずがない最強の援軍を見たさやかは安堵の笑みを浮かべると同時に全身から冷や汗を噴き出した。
レムフィト国旗の青で染められた超空戦特化型戦姫、L-51 order。
青狼と呼ばれ恐れられるその機体が金色のツインテールを靡かせながら単機で超高高度から月浜海軍の艦隊を襲撃。
実質貫徹能力六十一ミリのエネルギー弾を浴びせて発艦前の疑似神姫部隊を次々と沈めていく。
眩い衝撃波が空を白く塗りつぶし、大地を震わせた。
轟音は遥か遠くのレムフィトにまで届き、月浜が誇る艦隊の壊滅を予感させた。
アウス基地を覆っていた絶望は月浜へとそのまま返された。




