百十二章 赫灰の少女
無法地帯を少し歩き、梨々香は大衆酒屋六番に到着した。
ここもかつてはたくさんの活気で溢れ、若者たちが集まって賑わっていた。
「ウェンディ、二人で話すのは何だかんだ久しぶりですね」
梨々香はウェンディ・オブ・ブラウンを見て笑む。
「・・・あなたのその貼り付けたような笑みは嫌いだ」
ウェンディは梨々香を見つめる。
「結構酷いことを言いますね」
梨々香はウェンディを見て笑う。
「でも、わかったよ。あなたがどうしてそんな表情をするか・・・」
ウェンディは悲しそうに梨々香を見る。
「おや、わかってしまいましたか」
梨々香はウェンディを見て笑む。
「あなたは傷だらけだ。私たちが負ってきた傷の量が少なく思えるほど、浅く見えるほどに・・・」
「長く生きていますからね。傷は多くなるし、どうしても消えない後悔も抱えてしまう」
梨々香は思い出に浸る。
「妻は私より長く生きていますし、生まれてからずっと大変な思いをしてきましたから、私よりも傷と後悔が多いはずです。これからもたくさん思ってあげてくださいね」
梨々香はウェンディにそう願う。
「そりゃもちろんですよ」
ウェンディは笑みながらそう返す。
「・・・昔、ナハトにボコボコにされたことがあったんですよ」
ウェンディは懐かしそうに話す。
「おや、彼女が?」
梨々香は少し驚く。
「はい。梨々香なんて大したことないって言ったら夜光を一発、反撃しようとしたところに神気封じを使われて・・・そっからもう襤褸雑巾になるくらい殴られて」
「彼女は元から戦闘能力が高かったですからね。王女だとは思えませんでしたよ」
「たかが一俗世のことすらどうしようもできないのに梨々香の悪口を言うな。って・・・滅茶苦茶怒られちゃいましたよ」
「・・・ナハトは、ヒルデガルトは私の戦友だ。私は彼女の気持ちを考えずに発言し、彼女の気持ちを考えずに行動してしまった。だから、彼女に会って謝罪がしたい」
梨々香はウェンディを真っすぐ見つめる。
「謝罪したいのはあなただけではありませんわよ。ナハトだって謝罪したいはずですわ」
ウェンディはひょいっと軽く立ち上がった。
「早く彼女を目覚めさせますわよ」
ウェンディは梨々香を見て微笑むと荷物を持った。
「そうですね」
梨々香はウェンディを見て笑むと立ち上がった。
「うわ、すごい霧・・・」
ドアを開けたウェンディは濃霧に驚きながらも界の中に入った。
「・・・」
界に向かって歩みを進める梨々香は微かに聞こえる金属音に気付いて足を止める。
「・・・」
梨々香は振り返って目を見開く。
「・・・」
邪眼、赫灰色髪縦ロール、奇妙な金属製の装飾品がついた黒色のミニコルセットドレスを着た乙女は梨々香に気付いて見つめ合う。
「陛下?」
ウェンディは梨々香を見る。
「あぁ、今入る」
梨々香は赫灰の少女を見つめながら界に入った。




