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日記帳

 私には、ふと思い立った時に書く日記帳がある。毎日書く訳じゃないし、義務としているわけでもない。

 なにかがあった日に書くこともあれば、なんにもないけどただただ自分の思いを書き綴りたい時に書くこともある。ただ、書く前に何年の何月何日に書いたのかだけは明確に書いてから書き始めることにしている。後々読み返した時に、書いてあるのがどれだけ前のことかが分かるからだ。


 最初に書いたのは三年年前の四月二十三日。新生活が始まって、慣れないことだらけな上に、周囲に馴染めなかった事が辛くて日記を書き始めた。辛くて、苦しくて、なんにも出来ないとさえ思って、そんなことを長々と書いている。三日くらいそれが続いたのだが、そのタイミングでふと今までの日記を読み返したのだ。すると、嫌なこと、悲しいこと。そんな言葉ばかりで日記が埋まっていて、笑顔になれない。たしかに楽しいと思えることもあったはずなのに、それは書かれてない。読み返すと、途端に自分が被害者ぶろうとしてるように見えてきて、なんだかとても気持ち悪くなったことを覚えているし、書いている。それからは、些細でも楽しかったこと、感動したもの、読んだ本なんかが書かれ始めた。それでも、自責の言葉はまだあるが、最初の三日に比べると可愛いものだった。そこから一週間程はそんな内容が続いていた。


 明確に私が日記帳との付き合い方を決めたのは七年前の五月、中旬での出来事だった。なにかの文化部に所属していた、三年生の先輩となにかのおりに話し始めて、その時に言われたことが衝撃的で、今でも心に残っているくらいだ。

『結局、なにを大事にしているかで言葉は変わってくるものだ。例えば今回君が落としたと言ってた日記帳、これなんかはまさにそうだ。自分の価値観、当たり前だと思っている場所が客観的に映し出されるものだ。だけど、これが義務感だとか、書かなくちゃとなった時。そうなると何かを絞り出そうとして、考えて、結果的に自分では無い言葉に突き動かされてしまう、なんてこともある。だから君は君が思うタイミングでこの日記帳を埋めればいいよ。きっと世界が面白くなるはずだから』

 始めて見たような価値観の人で、後にも先にもあの人にしか感じれない空気感があった。先輩が話してくれた話は覚えているのに、なんでこの話になったのかは覚えていないし、書かれてもいない。だけど、とても素敵な先輩だった。この時にくれた言葉で、いつの間にか書かなきゃいけないものにしていた日記帳も、好きな時に好きなタイミングでかけるようになった。

 その後は、その先輩と話すこともほとんどなかったんだけど、未だに言われたことを思い出しては、書きたい時に日記を書いている。


 その後も、今日と言う日までにいろんなことを書いてきた。無力感に苛まれる日や、綺麗なものを見つけた日、友達ができた日に、一度だけ会話した先輩との会話。そんな思い出が沢山詰まったこの日記帳も、一度今日このタイミングで、書くことを終わりにしよう。

 まだまだ余白はあるけれど、私の卒業という機にまた別の日記帳を買うことに決めたのだ。引越しの準備をしている時、ふと目についてそのままついつい読みふけってしまっていた。これから書く日記は、どんなことを書くのか。楽しみで仕方がない。



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