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足湯

 友人たちと温泉を出て、ぽかぽかなまま温泉街を歩く。夜に吹く春風は少しだけ冷たくて、火照った体を冷ますのにちょうどいい。ところどころに植えてあるしだれ桜は葉桜に変わっており少しだけ残った花びらも、今にも散りそうで、初夏を報復とさせる。そんなしだれ桜や、竹がやわらかな証明にライトアップされており、近くにある川のせせらぎも相まって、ひどく幻想的で落ち着いてくる。

 すっかりと夜は深ており、昼は食べ歩き出来ていた店達も人通りが多かった通りもすっかりと閑散としている。お酒を片手に舗装された川のほとりをふらふらしていると、友人のひとりがこういい始めた。


「ここ温泉街なんだし、川にも硫黄とか温泉の成分流れてないかな? もしかしたら肌すべっすべになるかも」

「……なるかなぁ。なるかもなぁ。一旦試すだけ試す? 片手突っ込んで見て」

「それを誰がやるかって問題は発生したけどー? 言い出しっぺの咲季が突っ込んどくー?」

「どうしても気になるから全然私が突っ込んでもいいけど、ここはじゃんけんで決めよう。五竦みじゃんけんで」

「五竦みじゃんけん!? なにそれ初めて聞いた! めぐは知ってる?」

「ふふーん。説明しよう!」

「わたしだけ知らない感じかこれ」


 唐突に始まった川に手を突っ込みじゃんけん大会。賞品は川に手を突っ込める権利らしい。こういうのは負けた人が突っ込むものだと思ったんだけど、どうやら今回は勝った人が突っ込むらしい。

 そんなわけで、早速めぐに五竦みじゃんけんを教えて貰っていると、どうやらめぐと咲季の五竦みじゃんけんの手の形が違うらしい。本当にどっちを向いててもいいなぁ。

 そんなことを思っていると、どちらが知っている手の形を今回使うのかじゃんけんし始めた。普通の三竦みじゃんけんで。じゃんけんで出す手の形を決めるじゃんけんとか人生で初めて聞いたし、それならもう普通にじゃんけんしてしまおうと言うことで乱入した。

 結果としてはわたしがぱー。わたし以外がちょきで決着がついた。


「ふふふ。所詮実希はこの中でじゃんけん最弱。お泊まり会で一度もベッドを獲得したことない雑魚よ」

「分かってるよー。ここからは私と咲季の真剣勝負。でしょー?」

「その通り! じゃあ行くよ、めぐ! じゃん! けん!」

「「ぽん!」」


 わたしのじゃんけんの弱さをいじりながら、二人はあいこを重ねていく。二人ともじゃんけんが強いだけに毎回あいこが続くそうだ。わたしはそれを傍目にいつも先に寝てるから知らなかったんだけど、今回も川のほとりに存在する足湯に足をつける。ぬるいくらいの水温だが、なかなか心地がいい。すっかりぬるくなっているそんなに美味しくないレモンサワーを飲みつつ、足湯の湯船に浮かぶ満月を眺める。足を少し揺らす度に、ゆらゆらと揺れる満月は酷く儚くて、今にも消えてしまいそうだ。そんな時、上からひらひらとひとひらの花弁が舞落ちてきて、湯船に浮かぶ。きっとしだれ桜の残っていた花弁だろう。ここにあるのが日本酒なら月見と花見酒として飲めたのになー。


「わっ!!」

「うぇ!?」

「びっくりしたー? じゃんけん負けちゃったから足湯に来たよー」

「めっちゃびっくりしたよ!? やめてよね! ひとりで春の余韻に浸ってたのに急に驚かすの!」

「反応が良いからついねー? おー。これは気持ちいいねぇ」

「気持ちいいよねぇ」


 いつの間にかあいこ合戦は終わっていたようで、後ろから驚かせてきためぐと話しつつ、足湯をふたりで堪能する。温泉も良かったけどお酒飲みながらつかれる足湯は足湯で良いなぁ。

 めぐと他愛ない話をしながら足湯を堪能していると、咲季が駆け足気味でやってくる。


「二人とも足湯に入ってる!? いいなぁ! 私も入る入る!」

「敗者は敗者で楽しんでたよー」

「川はどうだった? 温泉街だしあったかいとかあった?」

「いや、それがすんごい冷たくて、酔いも覚めちゃった! あ、このレモンサワー貰っていい?」

「いいよー」

「あ、レモンサワーの前にちょっとこの手を触って欲しいの! こっち、左手が川につけてない方で右手が川につけた方ね」

「え、右手超すべすべもちもちじゃん!? 赤ちゃん肌みたいだ!」

「わ、ほんとだー。やっぱり温泉街だけあって川にも効能あるのかなー。これは後で手だけでも川につけて帰ろっかなぁ」

「ふっふっふっ。やっぱり私の予想は当たってたね! こうなることを読んでいたのさ! ちょっと、二人とも触りすぎ!」


 咲季の右手をめぐと無言でもちもちしていると、流石に突っ込まれる。仕方が無いのでやめて、後で川に少しだけ手を突っ込んで旅館に戻ろうと決意した。


「咲季も来たことだし、明日の予定でもたてるー?」

「明日は明日の風が吹くよ。多分」

「また実希が変なこと言ってる。めぐ、翻訳出来る?」

「翻訳もなにもこれは簡単でしょ。『もう全部ノープランで明日の自分たちに全部投げて今日は旅館で寝よう!』って言ってるよー」

「めぐ!? 流石にそれは意訳が過ぎるよ!? 大体あってるけど!」

「あってるんじゃん。ならめぐ翻訳は正しかったって事ね」

「実希の翻訳なら任せてよ! なにせ昔からやってるからね!」

「ちょっと恥ずかしくなってきたし旅館戻る!!」

「あ、からかいすぎた」

「まぁ私たちも戻ろっかー」

「実希ひとりで旅館に帰れるとも思わないしどの道旅館戻るしかないわね」

「そだねぇ。実希ー! それ逆ー!」


 めぐに訂正されて少しだけ顔が赤くなった。

 でも、気の合う友達とこうして旅行に出れることの喜びと言ったら果てしないなぁ。

 明日のプランは白紙だけど、明日も楽しみだ。

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