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影の囁き  作者: れい
2/10

拝まれた少女

リナは精神的に追い詰められていく。

朝、リナが目を覚ますと、部屋はひんやりとしていた。

窓から差し込む光は弱々しく、まるで霧のように白かった。


階下からは、トクゾウの咳払いと、味噌汁をかき混ぜる音が聞こえてくる。

昨夜の囁きは夢だったのかと、リナは自分に言い聞かせた。


しかし、玄関を出て村の小道を歩きはじめたとき、

その幻想は、すぐに崩れ去った。


――「おはようございます、ソトル様」


一人の老人が、手を合わせて深々と頭を下げた。


リナは立ち止まり、困惑した表情で老人を見た。

すると、次々に人々が立ち上がり、道の両側に並び始めたのだ。


腰の曲がったおばあさん、白髪の男、歯の抜けた老婆――

誰もが、神社で拝むかのように、リナへと手を合わせていた。


「お戻りになったのですね、ソトル様……」


「私たちは、ずっとお待ちしておりました……」


リナは口を開けて、なにも言えなかった。


怖い、というより、理解ができなかった。

なぜ彼らがそんな目で自分を見ているのか。

なぜ“様”付けで呼ばれるのか。


「え、あの、ちがいます……わたしは、リナって名前で……」


声を震わせて否定すると、彼らは一斉に顔を上げた。


その目――。

光のない、真っ黒な瞳で、全員が彼女を見ていた。


その瞬間、リナは本能的に悟った。

この村では、“ちがいます”という言葉は通じないのだと。


ミツエが、笑顔でリナの肩をそっと引いた。


「お参り、されてるだけだから。気にしなくていいのよ」


そう言って家へ戻ろうとしたが、リナはその場に立ち尽くしていた。


村人のひとりが、手に何かを持っているのが見えた。

乾燥した植物の束――ハーブのようなそれを、少女の足元に置いた。


「これは、ソトル様へのお供えでございます」


リナはぞくりとした。


それがまるで、“生贄”のように思えたからだった。

その夜。

ミツエとトクゾウは、いつもと変わらぬ様子で夕食を囲んだ。


囲炉裏の火がパチパチとはぜる音が、やけに大きく聞こえる。


「この村の人たち……、私をなんで“ソトル様”って呼ぶの?」


リナの問いに、ミツエは笑みを浮かべたまま味噌汁を啜った。


「さあて……そういう言い伝えがあるのよ。この村にはね。

遠い昔に、山の上から“神様”が降りてきてね。その姿が、あんたによく似てたんだって」


「神様……?」


「ソトル様よ。そう呼ばれてた」


トクゾウが、口の端をひくつかせながら言った。


「それに、あんたは……この村の血を引いてるんだ。

なにか、縁があるんだろうさ」


ミツエは、それ以上語ろうとはしなかった。

まるでそれが、村の“外の人間”に話してはいけない秘密であるかのように。


リナは夜、自分の部屋に閉じこもった。

月明かりが窓から差し込み、白く床を照らしていた。


その光の中に、何かが立っているように見えた。


――「……おかえりなさい……ソトル様……」


今度は、はっきりと聞こえた。耳元で、直接囁かれたように。


リナはベッドの中で布団をかぶり、震えた。

何かが、この村の奥深くで蠢いている――そんな予感が、胸をしめつけた。


ソトル様という名前の由来に気づける人はいますか?

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