アルベールvs極彩色のオルレアン猛襲軍 インターミッション
新たなるゴモラの巨人や、鋼の竜たちを退けてひと段落した頃。
アルベールは街で一番大きな鍛冶場へと足を運びました。
アルキダモスに穴をあけられた盾の修理をお願いにきたのです。
「おうアルベール、生きてたか!」
そこにいたのは、なんと親方でした。
鉄を打っていた手を止めて、手拭いで顔を拭きながら大声を上げてきます。
「親方ではないか。こちらへ来ていたのか」
「人手がまったく足りねぇからよ。王都から若ぇのを連れてこれるだけ連れてきたぜ」
見れば王宮の鍛冶場でよく見る顔ぶれが忙しそうに走り回っております。
親方が嬉しそうにアルベールの肩をばしばしと叩きますが、すぐに神妙な顔に変わりました。
「えらい一戦だったな」
「うむ、激戦であった」
新たなるゴモラの侵攻を凌いだフランク王国軍ですが、そのダメージは大きなものでした。
まずは飛行戦艦アルマースが大破。
そして集まった王国軍の二割に及ぶ人的被害が報告に上がっていると言います。
騎士ハヴェルも、獅子の騎士ディオゲネスにやられた傷でまだ起き上がれないと聞き及んでいます。
オルレアンの街そのものも、ペルーダとガルグイユにより特に南部は壊滅的な状態でした。
しかし新たなるゴモラにも大きなダメージを与えています。
開幕一番、アルベールがぶっ飛ばして機能停止に追い込んだゲルマン式の巨人ベルグリシ。
クレメンティナが一刀両断にしたギリシア式の巨人キュクロプス。
オルレアンを襲撃した巨竜ペルーダとガルグイユ。
他の巨人タイプや、戦場に出てきた実力者たちの分析もかなり進んでいるようでした。
電撃的に陥落されてしまったボルドー、サント、トゥール、ポワティエの戦況も、後追いで少しずつ詳細が分かってきています。
新たなるゴモラの手札が見えてきていると言えました。
「それで、新しい……いや、古い騎士鎧の具合はどうだったよ?」
「デカログスか? 大した騎士鎧であった。これからの戦い、あの性能を発揮できるかどうかにかかっていると痛感した」
生真面目なアルベールの応答に、親方が渋い顔をしました。
「あんな骨董品がなぁ」
「骨董品とはひどい言い草だね、親方。当時の技術の粋を尽くして、技術者たちが悪乗りして深夜に酒飲んだテンションでカリッカリに突き詰めた逸品だというのに!」
甲高い声が聞こえたと思うと、鍛冶場の入り口にドロシーが顔を出します。
顔を出すと描写しましたが、やはりいつも通り黒い薄絹を垂らしており顔は隠れて見えないのですが。
「やぁアルベールくん、オルレアン防衛作戦、見事な武勲と言わざるを得ないよ。どうだい、デカログスは」
「悍馬である」
アルベールの一言に、ドロシーが弾けるように笑い声を上げます。
「言いえて妙だねぇ」
「だが絶大な威力であった。それよりも、まさかそなたまでもが戦働きをしてくれるとはな」
「ケル・ダイバーを押さえるだけで手いっぱい、仕留めるなんてできなかったがね。まぁ、盤上の外にある駒が必要な局面だったさ──とはいえ、こちとらか弱い乙女の身だ。もう私がでしゃばるなんてしないよ。もうしないからね、絶対だよ! 絶対にもう私が出撃するなんてないからね! 絶対だよ君たち!」
状況が状況になったらまた出てくれるのか、とアルベールと親方は思いました。
しかし、
「戦働きは騎士の領分だ。そなたが出張った状況、恥じ入るばかりだ。故に、いっそうの奮闘に挑む次第である。今回の戦いで、デカログスならば多少の無理が効くとも理解もできた」
「フルドライブを扱いきれば、デカログスを上回る性能は現行の兵器にもそうそうないとも。いやぁ~これはもうデカログスだけでいいんじゃないかい? 新しいのとかもう必要ないんじゃないかなぁ~ねぇそう思わないかい親方? ねぇねぇ?」
親方が舌打ちをしてメンチを切りました。
「わざとらしい物言いはやめやがれ、この尼! よくよく調べたがデカログスとやら、やはりあれは使っていいもんじゃねぇ!」
「そうなのか?」
「さぁて」
親方の糾弾に、ドロシーは毛先をいじって、ふ~んといった態度でした。
「ありゃな、遊びがねぇんだ。いいか、普通は騎士鎧をぶん回した時、強度に余裕が出るように造るもんだ。ギリギリの強さで造っちゃならねぇ。いくら想定しても、想定以上の負荷はかかっちまうもんだからな」
「この時代に安全率の概念ってあるんだ。職人技だねぇ──ま、」
ドロシーがフィンガークラップを親方に鳴らします。
「デカログスは実験騎だったからね。それに、アルベールくんもまだまだ全開でぶん回すのに慣れていない。クォータードライブ、ハーフドライブで回している分には安全さ」
「……クォ、なんだって?」
「四分の一の出力や、半分の出力ってことさ」
親方が理解はするが納得はしないという顔で憮然と鼻白らみます。
「だが、この先デカログスの全開で挑まねばならぬ状況は多いであろう」
親方とドロシーのやりとりに割って入るように、アルベールがきっぱりと言いました。
「オルレアンを守るため、決定打となったのはやはり全開の出力であった。むろん、半分前後の出力で巧く立ち回る術も要るがな。課題は多い」
アルベールが、親方とドロシーを誠実な眼差しで見渡しました。
「故に、頼む。開発を続けて欲しい」
十字を切るアルベールに、親方がふんと鼻を鳴らします。
「あったりまえだ馬鹿野郎。この女もな、結局は新しいのを作りたくてうずうずしてやがるんだ。毎日のように新型騎の図面を送り付けてきてるんだぜ」
「そうなのか?」
「いやぁ、インスピレーションが爆発しちゃってねぇ。ぶっちゃけ、敵方も国際色豊かなラインナップで攻めてきているだろう? それに刺激を受けてアイデアが沸いちゃって沸いちゃって」
乙女座りをしている夫人用の小柄な馬に下げていた荷から、ドロシーが巻物を何冊か取り出します。
そのすべてが新しい騎士鎧の設計図でした。
「ほらよ、こいつから送られ続けてるのがこっちだ」
親方も奥から巻物を引っ張り出してきました。
ひも解くと非常にバリエーションに富んだ騎士鎧の図面の数々。
現行騎種を正統に発展させたものから、いささか奇抜過ぎる騎士鎧まで。
アルベールも食い入るように図面に目を走らせ、新たな騎士鎧に対する意見をふたりと交換します。
「やっぱり合体と変形は欲しいと思うんだが」
「つまりどういうことだ、修道女ドロシー?」
「よせ、アルベール。真面目に相手するんじゃねぇ」
「対艦刀とかよくない?」
「む、聞かせてくれないか修道女ドロシー」
「アルベール、よせ!」
あまり話の展開自体は進みませんでした。
「あ、忘れてた。アルベールくん、陛下がお呼びだよ」
そして飽き始めたドロシーが唐突にそう言いました。
「何故それを最初に言わぬ!?」
「いやぁ、伝えにきたらデカログスがディスられてるのを聞いてさしものドロシーちゃんも口をはさまずにはいられなかったからものでね。だから親方が悪い。私は何も悪くないよ。女はいつだって悪くない。そうやって男側がちゃんと気遣ってくれないと困るよ、君?」
「こうしてはおられぬ。疾くゆかねば──おっと、そうだ、親方」
すぐに鍛冶場から出ようとして、アルベールが慌ただしく戻ってきます。
「修理を頼んだ」
「なんだこりゃ?」
差し出されたそれは盾です。
ぽっかりと綺麗に穴が開いた盾。
ともすれば盾の意匠とすら思えるほど綺麗な穴ですが、そんなはずがないことは親方が一番よく分かっています。
食い入るようにその傷痕を眺めながら親方が半信半疑に言葉を零します。
「これ剣傷か? ……まさか刺突?」
「まさしく」
「なんちゅう技量だ。お前、巨人以外にもえれぇ剣腕の難敵とやりあっていたのか?」
「天蝎の騎士。厄介な男である」
「だが乙女さ」
「???」
ドロシーが付け加えた一言に親方が混乱しているのを背に、アルベールは鍛冶場を後にして王様のところへ馳せ参じました。




