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神聖騎セフィロマキナ  作者: ローリング蕎麦ット
アルベールvs極彩色のオルレアン猛襲軍
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アルベールvs極彩色のオルレアン猛襲軍 第七節


 静かに、凛然と、何よりも雄偉に。


 アルベールが慈泉とラオディケへと歩み寄り、


「私はフランクの騎士アルベール。オルレアンを襲う怪物を退治してくだった武勇、心から称賛し、そして感謝を」


 完全兜を取って騎士の礼をふたりに示しました。


 まず動いたのは慈泉でした。


「我らは己の道義にもとづいて、成すべきを成したまででございます。騎士様には危地を救われた。まことにかたじけのう存じます」


 拱手してまろやかに微笑みました。


 ラオディケも兜を脱いで、全力のお辞儀をしました。


「騎士様、本当に助かりました! ありがとうございます!」


 アルベールがおやという顔をします。


 溌溂とした瞳、張りのある肌と黒髪、みずみずしい唇、形のいい眉。


 あらわれたラオディケの顔は、たいへん健やかで元気にあふれた美少年……に見える、


「……女性であったか」


 その一言にラオディケが困ったように赤くなり、兜で口元を隠します。


「す、すみません……なにぶんひとり旅をしていて、男のふりの方が都合がよくて……でも騎士様に顔を隠したままなんて、できないですから……」


「謝ることはない。私が駆けつけた時に遠目に見えたのは、まさにそなたがペルーダの操者を矢で仕留めた瞬間だった。その武功に男女の隔てがあろうか」


「善哉、善哉」


 アルベールが力強く頷き、慈泉が微笑んで合掌します。


 慈泉に驚きがないのに、ラオディケは上目遣いにおそるおそると、


「慈泉様は気づいておられたのですか?」


「己をぼくと言うからには、隠したがっていたと思いましたので」


 合掌する慈泉にラオディケは恥ずかしさがでいっぱいになり、がぼんと兜をかぶりなおしました。


 アルベールはついつい慈泉と、くすりと微笑み合ってしまいます。


「申し遅れました。拙僧は慈泉と申します。人を尋ねて唐より、絹の道をたどって参りました」


 改めて、慈泉がアルベールへ拱手します。


「それは遠くから」


「慈泉様も人を探しておいでなのですね」


 続いてラオディケもアルベールに騎士の礼を示します。


「ぼくも人探しの旅をしてギリシアより参りました。天秤の騎士ラオディケと申します」


「天秤の騎士!?」


 アルベールが仰天して警戒の態勢を取りました。


 その急な変貌に、慈泉もラオディケも目をしばたきます。


 そしてラオディケがあっと声を出します。


「アルベール様は兄さまを……シメオンをご存じなのでは?」


「シメオンという名かは知らぬ。私はまさに先ほどまで天秤の騎士と戦っていた。天蝎の騎士と獅子の騎士もだ」


「ああ!」


 ラオディケが複雑な感情を吐露するように声を上げました。


「間違いありません。アルベール様が戦ったのは私の兄弟子、天秤の騎士シメオンです」


「兄弟子とな!」


「シメオンは主要な同門を何人も斬った上で、我らの流派を出奔しました。それも天蝎宮と獅子宮の高弟と共謀した最悪の叛乱だったのです」


 ラオディケの語りに、アルベールは改めて事の凄惨さにうなり、慈泉は悲壮な顔で合掌しては南無阿弥陀仏と唱えます。


「この大混乱で十二宮は痛打を受けました。もともと指導者を長らく欠いていた宮も多く、国から離れられる実力者も少ない。加えて混乱の元となったのが天秤宮のため、同門の始末のために未熟ながらぼくが兄さまを……シメオンを追ってきた次第なのです」


 ラオディケの話はアルキダモスから聞いた経緯とも合致し、アルベールはこの話を信用しました。


 なによりもオルレアンを護るために戦い抜いてくれた義気を尊び、なんら疑う気持ちは沸きません。


「ラオディケ殿、実は私も天蝎の騎士と因縁がある。先ほどの戦いも、詳しく話をいたそう。しかし今まさに、オルレアンの外で巨人たちの侵攻にさらされている。この難事を切り抜けてから、改めて──」


 天空で背中を蹴って放り出した愛馬トニトゥルスが、上手いこと着地してアルベールのところに戻ってきたので、その背にまたがった時です。


「撤退だ! 巨人たちが撤退していくぞ!」


 市壁の上で外の様子を見ていた兵が、大声を張り上げます。


「なんと!?」


 と驚いたアルベールがトニトゥルスを走らせて、市壁に飛び乗って展望すれば、新たなるゴモラの軍勢が遠のいているではありませんか!


 アルベールは厳しい目でそれを見ていましたが、まっとうな退却のようです。


 そこではたと気づきました。


 ペルーダとガルグイユ、この二基こそが新たなるゴモラの作戦における本命だったのでしょう。


 それが潰えて迅速な退却に移行したと考え至りました。


 アルベールは深い溜息を吐き、改めて慈泉とラオディケの存在に助けられたと痛感しました。


 しんがりには巨人を据えており、フランク側の追撃は上手くいっていないようです。


 ですが敵を退けたという興奮に包まれているのが分かります。


 そして脅威が去っていく喜びに、オルレアンのあちこちからも歓声が上がり始めていました。


 勝った……


 アルベールは胸にじわりと広がり実感を嚙み締めます。


 こうして、辛くもオルレアンの防衛に成功した次の日のことでした。


 なんと王様が自ら被害の状況を視察にやってきました。


 一通り街を回って人々を慰撫し、それから中央にある大きな礼拝堂を本部として方針を固めたり搬入する物資を試算したりします。


 オルレアンは三割が壊滅したと言う状態でした。


 ペルーダが上陸した周辺はことさら水没が著しく、復興にも時間がかかりそうです。


 それ以外の区域は、水が及びこそしましたがなんとかやっていけそうです。


 もしもペルーダの被害がオルレアン全域に及んでいたと思うと、王様もラオディケと慈泉の功績を非常に喜びました。


「騎士アルベールより話は聞いている。そなたたちふたりが勇敢にも川より奇襲を仕掛けてきた怪物を討ち取ったと。この国の王として、心から礼を述べさせてもらう」


 祭壇を除けて、急遽しつらえた執務机と椅子に座る王様が慈泉とラオディケへと声をかけました。


 ひざまずくふたりは、ははっとかしこまって答えます。


 周囲には控える騎士たちと群臣が、ペルーダを退治したふたりへ興味深そうに視線を注ぎます。


 その中にはアルベールやドロシーもおりました。


「面を上げ、楽にするがよい。そしてその働きに是非とも報いたいと思っている。何か望みのものはあるか? それをもって褒美とさせて欲しいのだ」


 王様の言葉で立ち上がるふたりに、声こそ挙げませんが誰もが感嘆しました。


 こんなにも少年然とした騎士と、異国の僧侶だけであんな怪物をやっつけたとは!


「ほほ、褒美なんてとんでもありません! このたびは身内がお国を荒らした不始末、伏してお詫び申し上げるしかできません!」


 立ち上がったラオディケでしたが、またすぐに伏せって心からの謝罪を述べました。


 それを王様が歩み寄って助け起こします。


「天秤の騎士ラオディケよ、確かにそなたの兄弟子たちの狼藉は義憤に堪えぬ所業である。しかしその始末をつけに参ったそなたへ責を問うなどできようはずがあるものか。それどころか、オルレアンの危機はそなたの使命とはまるで別の問題であったのを助けられたのだ。こちらが感謝こそすれ、そなたの詫びを受け取るなどできようか」


「王様……」


 顔も向けられないといった思いのラオディケが、おそるおそる王様へと顔を上げます。


「ことはすでにそなたたちの流派だけに収まる問題ではないと認識している。天秤の騎士、天蝎の騎士、獅子の騎士、そして雷霆派の荒くれたちはもはや新たなるゴモラのいち部隊である。我らもまた助け合うことができると思うのだが?」


「し、しかし我ら十二宮は他国との干渉を避ける信条を通して参りました。他国を攻めず、助けず。そして攻められず、助けられず。多くの出奔を許した今だからこそ、わたくしは流派の矜持を背負って……」


「天秤の騎士ラオディケよ、流派を背負うからこそ正否の是非を正しく見極めねばならぬ。流派を支えてきた信条とて、それに固執して流派を滅ぼす原因となるならばひととき曲げて恥を受け入れる度量も必要なのではないだろうか?」


 王様の厳しくも正しい言葉に、ラオディケは言葉に詰まります。


 しかしただ厳しいだけではないぬくもりを、王様は微笑みをたたえて示します。


「そなたがオルレアンを助けたように、我らにもそなたを助ける機会をもらえぬか」


「はい、王様」


 ラオディケが決然と頷いて、改めて王様にひざまずきました。


「ギリシア十二宮が天秤宮より参りましたラオディケが申し上げます。我が流派の戒律を破り、同門を斬って出奔した天秤の騎士シメオン、天蝎の騎士アルキダモス、獅子の騎士ディオゲネスを捕らえる助けを請願する次第に存じます」


「我がフランク王国は天秤の騎士ラオディケを支援しよう」


 わっと群臣が沸き、騎士たちも鬨の声を上げました。


 その心強さに、ラオディケの胸に熱いものがこみあげて拳を握らずにはいられませんでした。


「さしあたり、客将として待遇させてもらおう。シメオンらの所在を調べ、どこにいるか、どの戦場に出てくるか……情報を整理してそなたへと知らせると約束しよう。そなたはそなたの戦機で仇を討ちに打って出るがよい。フランクの騎士たちにも申し伝えておこう。必ずやそなたに協力するであろう」


「ありがとうございます。しかし王様、客将と言うのでしたら、この剣腕をどうかお役に立ててください」


「それはそなたの使命の外においてと申すか?」


「はい。ことはすでにわたくしたちの流派だけに収まる問題ではないならば……オルレアンのように、無辜の民を助けるのにこの技を使わぬのは否であると存じます」


「うむ、なんと心強いことか、天秤の騎士ラオディケよ!」


 次に慈泉が拱手をしながら口を開きます。


「陛下とラオディケ様の度量の深さに感服いたしました」


「そなたも、褒美はいらぬと申さぬであろうな?」


「陛下に申し上げます。実は拙僧も人を探してこの国へとやって参りました。しかしこの戦禍でございます。ずうずうしくも人探しを願うなどできかねます故、お約束をお願いさせていただきとうございます」


「約束とな?」


「この戦禍が過ぎ去って、平和になってから拙僧の人探しを手伝ってだくださいますよう、お願い申し上げる」


「ううむ、この国難を顧みた配慮、痛み入る。だが現在の状況だからこそ、あまたの情報を仕入れるために奔走をしている。人ひとりの情報ならば、上手く転がり込むかもしれん。どうであろうか慈泉法師よ、少し詳細を語ってくれぬか?」


「陛下のお心遣いに感謝いたします。拙僧の探しております女の名はアディラ。インドのとある国のクシャトリヤにございます」


 慈泉の言葉に、アルベールがあっと声を上げました。


「騎士アルベールよ、アディラというのは確か……」


「はい、陛下。新たなるゴモラで出会った女でございます」


「なんと!?」


 これには慈泉も目を丸くします。


「慈泉殿、私はピレネー山脈に築かれた悪徳の都──敵軍の本拠地である新たなるゴモラで、アディラというインド人に出会った。彼女は空飛ぶ船に取り付かれているようであった」


「間違いありません。拙僧が探しているのは、まさにそのアディラで相違ございませぬ。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏!」


「慈泉法師、果たしてどういった理由でアディラとやらを探しているのだ?」


「はい陛下。そもそも拙僧は嵩山は少室山に門を構える少林寺という寺より参りました。


 もともと少林寺というのはインド僧である達磨大師が開闢した寺でございまして、三百年以上がの歴史を刻んでございます。


 先達の研鑽により武林に名を馳せる一派にまで功を果たしておりますが、世代を重ねた精進が進むほどに中華とインドの武学に乖離が見えてきました。


 そこでこの乖離を整理するためにも、インドでの修業を経て改めて少林寺の武学を錬磨する機会にしようという風潮が大きくなったのでございます。


 そして五年前、拙僧を含めた一団がインドへと旅立ちました」


「二百年前、中華とインドの仏法の乖離に悩んで出国し、三蔵を修めた大師の如くだねぇ」


 ドロシーが口をはさむと、事情を的確に表現された慈泉は驚いて合掌しました。


「滅相もございません。一団の僧侶の才覚を総て重ねたとして、玄奘大師おひとりの才覚には及びませなんだ。しかし志だけはかの大師に敗けぬようにと、誰もが奮起した旅でございます」


 慈泉は続けます。


「我らはインドへ入り、ある国で世話になりましたが、そこでお目通りした姫がアディラ様でございます。


 アディラ様は姫としての公務や女性としての楽しみよりも、インドに遥か過去より伝わる空飛ぶ船や、国を亡ぼすインドラの雷といった古の技術に熱心でございました。


 ただそのことごとくは限られたバラモンしか触れられることはできませぬ禁忌でございました。


 そこでアディラ様はクシャトリヤとしての権力を利用して、そのような技術があまた記された文献をひそかに盗み出してしまったのでございます!


 しかしその内容は非常に難解であり、現在のインドでは使われない古い言葉で記されておりました。


 故にアディラ様にも理解できなかった内容なのですが……奇縁にも拙僧は解読するのに十分な語学を修めておりました。


 アディラ様は拙僧との交流の中、インドの古い宗教における貴い聖典が読めずに困っているから助けて欲しいと、文献の解読を仕組まれたのでございます。


 単語だけの翻訳、短い文だけの翻訳といった風に、小出しにして拙僧が怪しまぬ程度の解読を経て、アディラ様ご自身もその古い言葉を学んでいくという巧みな計略でございました。


 ようやく文献が盗まれたと気づいたバラモンたちが広く調査を開始したころには、すっかりアディラ様は内容を頭に刻んでしまっていたのでございます、南無阿弥陀仏!」


 慈泉に見舞われた不幸に、誰もがううむと唸りました。


「陥れられたとは言え、インドの禁忌に触れてそれを解き明かす手伝いをしてしまった不始末に、拙僧はアディラ様を連れ戻す誓いを立てて、少林寺の者たちと離れて旅に出たのでございます」


 合掌をして話を締めくくった慈泉に、誰もが唸ります。


 王様が相分かったと頷きます。


「だまされたとは言え、己の責任をまっとうせんとする義気、まことに見事である。慈泉法師よ、フランク王国はそなたの誓いをたすけると約束しよう。どちらにせよ新たなるゴモラの内情はつぶさに調べるつもりである。アディラとやらの所在を突き止め次第、そなたに伝えよう。」


「ありがとうございます」


 合掌をする慈泉は、ふっと悲し気に微笑みました。


「しかし陛下、ことは拙僧の巡り合わせにもまた、収まる問題ではないと存じまする。と申しますのも、アディラ様は空飛ぶ船ヴィマナの知識を修められた。そしてこの国で街を次々と襲ったのも空飛ぶ船が大きな要因とお聞きします」


 王様がドロシーをちらりと見遣りました。


 ドロシーが答えます。


「陛下に申し上げます。アルマースと交戦したレーヴァテインや、他の二隻の目撃情報から推察するに、敵軍の空飛ぶ船は西洋の国の技術だけでは建造されていないでしょう」


「ではやはり?」


「はい。アディラ女史の知識が、新たなるゴモラの保有する空飛ぶ船に用いられていると考えるのが妥当かと」


「南無阿弥陀仏。故に陛下、拙僧にもまたこの国へと災厄を振りまいた一因として贖罪の機会を賜りたく存じまする」


「まったく、誰も彼も自責ばかり言い募る。褒美を与えると言っておるのに」


 王様が苦笑をします。


「慈泉法師、余はそなたの罪を問うつもりはない。フランク王国を襲う災禍とそなたの責務、共に打破するための共同戦線である」


「ははっ!」


「天秤の騎士ラオディケよ、慈泉法師よ。そなたらの使命とフランク王国の武勇、重ねて果たせぬ試練などありはすまいぞ!」


 微笑む王様に、ラオディケと慈泉は孤独だったはずの使命感に頼もしい心強さを得たのでした。



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