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神聖騎セフィロマキナ  作者: ローリング蕎麦ット
アルベールvs極彩色のオルレアン猛襲軍
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アルベールvs極彩色のオルレアン猛襲軍 第六節


 天秤の騎士は気づかわしげに慈泉の脚を見遣りますが、唐僧は力強く頷いて返します。


 まずは慈泉がペルーダの尻尾に指先をあてがいました。


 強い弾性が慈泉の指に返ってきます。


 手の形は貫手。


 鋭く息を吐き、それが大きな泡となって水面へと昇っていくよりも速く。


 慈泉の両貫手がペルーダの尻尾を連打し始めました。


 一挙一動に抵抗が絡みつく水中において信じられないスピードの連打であり、ラオディケは息をのみました。


 一発が人間をすら撃ち抜く貫手の連打ですが、しかしペルーダの尻尾はなお分厚く慈泉の攻撃をはじき返し続けます。


 やはり無理なのではないか。


 ラオディケが疑い始めた頃、尻尾に異変が起こりました。


 貫手を集中されている箇所が、どんどんとへこんでいくのです!


 そこでラオディケは悟ります。


 慈泉は貫手で尻尾を穿とうとしているのではなく、横に横に引き延ばすことで薄くしようとしているのです!


 がぼりと慈泉の口から大きな泡が吹き上がりました。


 今です!


 そう聞こえたラオディケは、薄くなった皮膜におけるまさに最弱の一点を見抜き……


 渾身の一突きを繰り出しました!


 パァンッッ!!


 という音こそ水中で聞こえませんでしたが、この一撃でペルーダの尻尾が盛大に破れたのです!


 汲み上げられていた水が破れた一点から外へ外へ流出する勢いでさらに盛大に尻尾がちぎれてゆき、水中を暴れ狂う水流と水圧でふたりを翻弄しました!


 汲み上げが途切れたロワール川の水は街を蹂躙する洪水となって荒れ狂いますが、それも徐々に引いていきました。


 ペルーダが砕いた城壁へと逃れていき、元の川へと水が還っていくのです。


 低くなる水位から、ラオディケが慈泉の肩を助けながら顔を出します。

 

「かたじけない」


「ご無事ですか、慈泉様!?」


 渦巻く水中で、慈泉が瓦礫とぶつかって胸部をひどく痛めたようでした。


 水位が足首程度になり、ざぶざぶとずぶ濡れの家屋の影で慈泉を休ませます。


「あとはぼくが何とかします」


「拙僧も……ッ」


 起き上がろうとする慈泉ですが、痛めた胸を押さえて膝を突きます。


「無理なさらないで!」


 立ち上がろうとする慈泉を制して、ラオディケが剣を握りなおします。


「慈泉様はあれほどに怪物を叩いてくれたのです。次はぼくの番!」


 見据える先はペルーダ。


 恐ろしい表情で、怒りのままに家屋を蹴り砕いては周囲を見渡して、ふたりを探しているようでした。


 ふとラオディケは足元に針の形をした矢を見つけました。


 ペルーダが乱射していた毒矢です。


 流れていかずに瓦礫にひっかかっていた一本を拾い上げて、背に備え付けました。


 そうして家屋の影から身をさらして剣を突きつけました!


「怪物よ、これ以上は街を破壊させないぞ! 天秤の騎士ラオディケが相手だ!」


 ラオディケの啖呵に、ペルーダの操縦者がにやりと笑ったのが見えました。


 見上げるほどの怪物は悠然とオディケへと歩を進め、ラオディケもまた怪物へと駆けだしました。


「やあああああ!」


 コックピットで操縦者の巨漢が何かを喚き散らしながら操作をすれば、ペルーダがラオディケへとウォータービームを連続して発射します。


 ラオディケの視線は、ずっと巨漢の操作をこそ見つめていました。


 それで連続発射されたビームをすれすれで躱して前へ、前へと進んでいきます!


 それが四発を数えたところで、どうやら水の残量がなくなったようです。


 巨漢が苛立たし気にコンソールを叩く姿が見えますが、ペルーダの口からは圧縮された空気が漏れる音しか出てきません。


 すでにラオディケはペルーダの足元。


 ペルーダは踏みつぶしてやるとばかりに足を上げましたが、それを読んでいたラオディケは一足先に跳躍!


 その足の甲を踏み、ペルーダが足を上げる勢いを得て喉元の高さまでひといきに飛翔しました!


「ひぃっ!?」


 巨漢へと一直線に飛び上がりながら、ラオディケは引き絞るように構えた剣を突こうとしましたが……


 寸前でペルーダの右手が中空のラオディケを叩き落そうと振り下ろされておりました。


「その攻撃は読んでいました!」


 ラオディケは中空でくるりと身をひるがえして、ペルーダの手に剣先を突きつけました!


 剣は触れて即座にばきんと折れてしまいましたが、なんとラオディケ本人はぶわりと上昇してペルーダの手をやり過ごしてしまったではありませんか!


 天秤の騎士が習熟する術理の神髄は、力の流れと均衡を見極めて利用する技術にありました。


 敵の力を返して利する理。


 敵の力を逸らして利する理。


 極めれば敵の攻撃を転じて、そのまま相手に返すことすらできるのです。


 しかし今回はペルーダという巨大な怪物が相手の話。


 力を返すという術理では追い付けぬ大質量です。


 故に今回はその技を、ペルーダの手の威力を受けて自らが逸れていくという形で成したのです!


 とは言え怪物の超威力です。


 逸らし切る、殺し切るにも大掛かりになってしまい、ラオディケは天空で高速回転してその威力を散じます。


 回転です。


 身を丸めて、高度が落ちないままにぐるぐるぐるぐると、とてつもない高速の回転をして──


 回転数が落ちてきた頃合いにバッと両手両足を広げれば、天空のラオディケとコックピットの巨漢が正対しました。


 しかし自らコックピットへの軌道から逸れてしまった結果、折れた剣では届かぬ距離。


 加えてようやくラオディケがゆっくりと落下していきます。


 コックピットの中で驚愕していた巨漢の顔が、安心でひきつった笑いを浮かべたその時です!


 ラオディケが背から針のような形の矢を掴み上げて、


「せいやーーー!」


 巨漢へと投擲!


 ぐさりとその肩に刺さりました!


 そうです、ペルーダが乱射していたあの針毒矢です!


 巨漢は慌てふためいて矢を抜こうとしますが、その手が震えて掴むこともできず、やがてコックピットシートにぐったりともたれるように息絶えました。


「やった……わ、ぁっ!?」


 ペルーダの沈黙に安心したラオディケはつい気を抜いて、技も何もないままに落下してしまいます。


 このままでは十メートル近くを、無防備なまま墜落しそうになって──


 しまう寸前!


 そっと慈泉がラオディケの手を取り、ふわりと着地をさせてしまったではありませんか!


「善哉、善哉。見事に怪物を討ち果たされた。素晴らしい武勇でございました、ラオディケ様」


「慈泉様!」


 つないだままの手をぶんぶんとして、ラオディケが騎士鎧の中で喜色をほとばしらせました。


「ぼくの武勇なんて全然……むしろあの装甲を撃ち破った慈泉様の功こそが最も素晴らしいものでした」


「……ラオディケ様、例えば自ら成した悪行を言い逃れるのは恥ですか?」


「えっ? はぁ……そう思います」


 突然の問答に、どぎまぎしながらラオディケがうなずきます。


 その答えに慈泉もにっこり微笑んで、


「ならば自らが成した善行からもまた、逃げるのではなく受け入れて大切になさりましょう。ふたりのどちらかが欠けても、果たせなかった勝利でございました……」


「はい!」


 合掌する温和な仏僧の言葉に、ラオディケも尊敬する師に対するように素直な返事です。


 そんな和気あいあいとした空気の中、


 ゴウッ!


 と大きな炎が降り注ぎました!


 ふたりは素早く飛びのきますが、着弾した炎で瓦礫がはじけ飛びます!


 見上げればそこには、長い首を持ち翼を広げた鋼鉄の竜が!


 あれぞガルグイユ!


 新たなるゴモラがオルレアンに放った第二の刺客!


 咆哮と共にさらなる炎を慈泉とラオディケへと吐きかけます!


「ぐっ……!?」


 ペルーダとの戦いで足と胸を痛めた慈泉は、この炎を躱してゆくのに精いっぱいで、ラオディケも必死です。


 建物の影に隠れますが、集中して炎を撃たれてすぐに崩壊してしまうでしょう。


「慈泉様!」


「今は逃れましょう」


 頷き合い、隠れながら逃げる場所をと見渡しますが、はたとガルグイユの炎が止んだのに気づきました。


 打ち止めかと思って覗き見れば、


「慈泉様! 早くここから離れて!!」


 見ればガルグイユの口に熱が収束しているのが分かりました。


 チュイン


 そんな小気味が良いとすら思える音を立てて、炎は一筋の線となってふたりが隠れていた建物を焼き切ります!


 極限まで収束した火の閃光と触れ合った残り水と空気が爆発的な膨張で爆ぜ、焼き切られた建物を盛大に瓦礫に砕きます!


「うわあああ!」


 隠れていたおかげで直撃こそしなかったふたりですが、その余波でごろごろと地を転がります。


 見晴らしのいい通りにラオディケが放り出されて、ガルグイユが狂猛なアイカメラで照準をセットします。


「いかん……!」


 今だ痛む胸のせいで気息を整えきれず、内力が著しく弱った状態でありながら。


 慈泉が懸命に軽功を駆使してラオディケをかばいだてるように立ちふさがります。


「南無阿弥陀仏……」


 ガルグイユの口腔付近の空気が熱で揺らぎ、今まさに先ほどの火閃が放たれ──


「そこまでだ!」


 蒼い、蒼い流星がガルグイユの顔面へと、横殴りに落ちてきました!


 この猛烈な一撃でガルグイユの火閃は明後日の方角を向いて、虚空を焼き切って消え失せます。


 まさかの状況に唖然とする慈泉とラオディケを護るように、天から一騎の男が降り立ちます。


 まさにアルベール!


 戦場からオルレアンへと、急行した騎士は油断なく天の竜へと剣を構えて背後へ声をかけます。


「オルレアンを護るために戦っていてくれたのであろう? 異教の戦士たちが我が国の街を守り抜いてくださったこと、心から……心から、奮闘に敬意と感謝を示す!」


 剣尖を天に向け、柄を胸元に引き寄せた騎士の礼。


 慈泉とラディオケは、その背中越しからすらはっきりと届く騎士の熱い真情に感じ入りました。


「この燦々たる勇士たちには、指一本触れさせぬぞ怪物よ! このアルベールが相手だ!」


 アルベールは気合と共にデカログスをハーフドライブに引き上げて、マナジェットを噴かします。


 さかしまに天へと墜落する蒼い流星と化し、アルベールがガルグイユへと飛翔して一撃!


 翼を狙った突貫でしたが、敵もさるもの。


 鋼鉄の竜は身をよじってその胴でアルベールを受け止めます。


 もはや爆発とすら聞き違える盛大な音を立て、アルベールとガルグイユは空中でぶつかり、そして反発するように吹き飛び合いました。


 アルベールは天空でなお愛馬トニトゥルスを巧みに操り、背の高い建物の屋上に着地。


 ガルグイユもざっくりと裂けた胴をねじって姿勢を制御して、大いなる空からアルベールを見下ろします。


 そして連続して火炎を発射!


 アルベールへと炎の弾幕が殺到します。


 一発の火力こそ赤い竜に劣りますが、その連射性はガルグイユがはるかに勝っておりました。


「ぬるい!」


 しかしその火炎の連射を、アルベールは剣だけで打ち払います!


 そして炎を切り開いた先、ガルグイユへと再び蒼い流星となって突撃するのです。


 再びあの爆発音めいた衝突──をするかと思いきや!


 なんとガルグイユは翼を小さくまとめて、非常にコンパクトな螺旋軌道の飛翔でこれを躱してしまいました。


 すっ飛んだ先で必死に旋回するアルベールへと火炎の偏差射撃!


 剣で迎撃するアルベールですが、何発かを食らってデカログスの中で大きく揺さぶられました。


「クッ……! この!」


 ずしんと余裕なく着地するアルベールは、我が物顔で空を飛ぶガルグイユを睨みつけます。


 いかに強力なマナジェットで推進したとて、それはやはり飛行とは別物。


 翼を駆使したマニューバがある分、ガルグイユが有利なのは明白でした。


 ならばもっと早く、もっと強く。


 フルドライブで推進してしまえばと思い、アルベールは首を振ります。


 自身を圧殺してくるような膨大なマナは、いまだに御しきれません。


 確かに戦場からオルレアンまでフルドライブで急行しました。


 しかしそれはただ一直線に、ただ駆けるだけに全力を注げたが故の制御ともいえぬ制御。


 三次元を器用に機動するガルグイユに、ただ直線で挑むのは愚かなこと──


 そこではたと思い至りました。


 動きを制御できぬならば。


 動かねばいい。


 ならば──


「トニトゥルスよ、もう一度だ! きちんと着地をするのだぞ!」


 優しくその首を撫で、アルベールは愛馬トニトゥルスへと拍車をかけます。


 ハーフドライブのマナジェットによる推進!


 果たしてこれを見切れる者がこの国にどれほどいるか。


 そんなスピードでありながら、やはりガルグイユの鮮やかな回避運動によりやり過ごされ……


「はっ!!」


 そして天空でアルベールがトニトゥルスの背を蹴り、ガルグイユへと逆手に構えた剣をその背に突き立てました!


 一度目の直線がやり過ごされたなら、そこから飛び移る二度目の直線!


 これによりガルグイユの背に張り付いたアルベールは、


「宝石炉、全基解放……!」


 デカログスをフルドライブに励起し尽くしたではありませんか!


 アルベールを圧殺せしめんほどに横溢するマナ!


 その出力を死に物狂いで背部ノズルへと回せば、莫大なマナジェットがオルレアンを覆わんばかりに噴き荒れます。


 まるでそれは蒼く輝く巨大な翼。


 この時、アルベールはノズルの偏向を天に向けておりました。


 つまり地に向けた大推力が、ガルグイユにのしかかっているのです!


 いまだにアルベールはデカログスのフルドライブを制御できません。


 しかし制御できないパワーで上手く動けないならば、その制御できないパワーで敵を押さえつけて、制御できないパワーを制御できないまま叩きつける。


 これが今のアルベールの回答でした。


 鋼鉄の竜はもがくようにその推進力から逃れようとしますが、あまりの圧力に抜け出せません。


 さらにアルベールは、突き刺した剣を通して、デカログスに横溢するマナをガルグイユの内部へと送り込みます。


「おおおおおおおおおお!!」


 分厚い装甲が内部から突き上げられ、割れて蒼い輝きが各部から勢いよく噴出していきます。


 それに伴い、ガルグイユの内部から悲鳴が聞こえた気がしました。


 デカログスの内側でアルベールが圧殺されそうになったように、きっとガルグイユの操者も雪崩れ込むマナに押しつぶされていることでしょう。


「操者よ! このままガルグイユを墜落させて叩き砕く! もしも自らの罪を悔い改めて、神妙に縛につくと誓うならば戒めを解く!」


 うめくような恭順の悲鳴が、何度も何度もガルグイユの奥から上がります。


 アルベールが剣を抜き放てば、ガルグイユの内部を蹂躙するマナが途絶えます。


 それと同時に、喉元に設置されていたコックピットからひょろりとした顔色の悪い男が転がり落ちていきました。


 それを確認したアルベールは、剣に回していたマナも背部ノズルから推進力に変換していきます。


 もはや空中で翼が千切れ、脚が砕けて分解してゆくガルグイユは──


 ズガァァァンッッッ!!


 ついに大地に突き刺さり、跡形もなく粉砕されたのでした。


 爆炎と蒼いマナの残滓が吹雪く土煙の向こうより、悠然たる歩み出でる騎士。


 鋼鉄の飛竜を完膚なきまでに粉砕したアルベールの勇姿でした。


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