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神聖騎セフィロマキナ  作者: ローリング蕎麦ット
アルベールvs極彩色のオルレアン猛襲軍
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アルベールvs極彩色のオルレアン猛襲軍 第三節


 まるでそびえたつような、ギリシア風の鎧兜を象った造形の恐ろしい巨人です。


 ぞろりと赤く光る巨大な独眼が右翼を見渡せば、鋼の体表がバチバチと帯電。


 グウウオオオオオオオ!!!


 雄たけびのような駆動音を不気味に響かせて、あまたの蛇がのたうち回るがごとき雷電がアルベールたちに降り注ぎました!


 左翼をまるごと飲み込まんとする稲妻の嵐に対して、アルベールは前に出て盾を構えました。


「お、おおおおお!!!」


 宝石炉の出力を……ハーフドライブ!


 先ほどの暴走を恐れてつい出力を全開にできずに、抑えてしまった五十パーセントのマナを盾へと注ぎ込みました!


 するとどうしたことでしょう!


 蒼に輝く強固かつ広域の障壁が展開され、悪意の雷をことごとく弾き飛ばしてしまいました!


 盾はすなわち、新たなるゴモラから脱出した際、唯一破損を免れた装備。


 クルクスでも十分な防御力を誇ったのですから、デカログスで運用した防御力は計り知れないものです。


 それがまさかよもやハーフドライブであの雷撃を凌ぎきれるとは!


「大した騎士鎧だ」


 アルベールの後ろで、いつの間にか追い付いていたハヴェルが騎士鎧の形状を変化させて剛弓としながら感心ぎみにつぶやきます。


 すでにマナの矢をつがえ、十全にチャージをした状態。


 稲妻の嵐が止み、アルベールの蒼に輝く障壁を解いた瞬間。


 矢を象ったマナが流星のように独眼の巨人の顔面へと射られました。


 赤い竜にも通用した一射は、命中すれば独眼の巨人とてただではすまない威力です。


 しかし随伴する兵たちから猛々しく跳躍し、凄絶なる五爪によってハヴェルの矢を切り裂く野性が現れたではありませんか!


「騎ぃぃぃ士ハぁぁぁヴェルぅぅ!!! そう簡単にこのキュクロぉぉプスはぁ射抜かせぬぞぉぉぉ!!」


 それは獅子の騎士ディオゲネス!


「またしても我が矢を凌ぐか、獅子の騎士!」


「さぁぁぁ、ピレネーのぉふもとでのぉ、続きじゃぁあ!」


 そのままキュクロプスや、随伴の兵たちから踊りだしてディオゲネスはハヴェルへと突っ込んできました。


「貴公らはそのままザクセンの巨人たちへ」


 ハヴェルがディオゲネスへと剛弓を射る横で、アルベールが左翼の兵たちへと指示を飛ばしました。


「独眼の巨人は我らが討つ!」


 こうしてアルベールも、クォータードライブの出力で駆けだしました。


 するとディオゲネスと同じように、突出してアルベールへと馬を走らせる者がおりました。


 それは節足動物の丸みを意匠とした鎧をまとった騎士。


 たすき掛けのように節だった尾と合わせて、まるで蠍を鎧ったようではありませんか!


 手の中にある突きに特化した細剣を指すように構え、


「しゃァッ!」


 接敵と共にアルベールへと鋭い刺突を仕掛けてきました!


 その技の冴えたるや!


 寸前で剣閃の軌跡へと自らの剣を滑り込ませることに成功しましたが……


「なに!?」


 なんとアルベールの剣の腹を貫き、細剣の切っ先がアルベールを覗いているではありませんか!


 剣で防御をしていながら、それを突破するとはなんたる貫通力でしょうか!


 馬が交錯して細剣はすぽっと抜けてしまいましたが、すれ違いざまに完全兜の中で相手の騎士が笑ったようでした。


 しかし何故でしょうか。


 アルベールは今の刺突に既視感を覚えたのです。


 その既視感が防御を成功させてくれた言っても過言ではありません。


 既視感へと思考がたどり着いた瞬間、ひとりの男の顔がアルベールの脳裏に浮かびあがります!


「貴公まさか……」


「はぁい、お元気にしてた? アルベールちゃんでしょ、その盾。新しい騎士鎧、カッコイイじゃな~い」


「やはりアルキダモス!」


「うふ、早い再会だったわね。今日はお医者さんとしてじゃなくって──天蝎の騎士として、イっちゃうわよぉん!」


 アルキダモスが馬腹を蹴り、アルベールへと突っ込んできます。


 その踏み込みの速さと正確さ、迷いのなさはどれをとっても一流の騎士もかくやという呼吸でした。


「しゃあ!」


 そして刺突!


 その恐るべき高速の突き技に、アルベールは盾で受けました。


「いやん、やっぱりその盾かったいわねぇ」


 細剣は弾性に富んでいるようで、構えなおすのに引いた時に小気味よくぷるんと震えました。


「じゃあ、こういうのはどうかしら? イクわよぉ! せいせいせいせぇい!」


 乱舞のような刺突の連撃がアルベールへと降り注ぎます。


 瞬きをする間に十を数えかねない速度で繰り出される剣尖の雨は、しかしその正確さこそが真価でした。


 なんとアルキダモスの突きが、アルベールの盾を貫いてデカログスの装甲に届いたではありませんか!


「馬鹿な!? まさか!」


 そうです、アルキダモスの細剣は乱舞のように見えて、総てただの一点を突いた攻撃だったのです!


 ピンポイントに重なった負荷は、さしものアルベールの盾をも貫くに至ったのです!


 アルベールもアルキダモスも動きながらの攻防でそれを成功させるなど、なんたる技量!


「いやん、その新しい騎士鎧、とってもカチカチじゃない! やんなっちゃうわ」


 もしもアルベールが装備している騎士鎧がクルクスであれば、装甲にも穴が開いてアルベールに届いていたのは明白です。


 アルベールも何度か反撃を試みますが、しかしどうしても攻め切れません。


 というのもアルベールの攻めに対して、アルキダモスは恐ろしいまでの精密と機敏さで細剣を突きつけてきます。


 突きつけるだけ、です。


 しかし人が攻撃を繰り出す時、どこかに隙ができるものです。


 アルキダモスはその隙を一瞬で見抜き、盾を避けてデカログスをも貫けるポイントに狙いを定めるのでした。


 いいえ、場合によっては刺し込むどころか、剣の切っ先を「置く」だけで済ませます。


 その「置かれた」切っ先に突っ込めば、取り返しのつかない致命傷が確約されるという技量。


 そんな精密極まりない剣術に翻弄され、アルベールはアルキダモスを突破できません。


「ならば……!」


 何度目かの交錯の後、馬首を返す時分。


 アルベールはデカログスの出力を五十パーセントに引き上げました。


 溢れるパワーに、アルベールが肉体を締め付けられるような苦痛を感じます。


 たまらずに背部に備わった二基のノズルよりマナジェットを噴き散らせば、轟とアルベールが爆速で踏み込みます!


「ひっ!?」


 その豪速にアルキダモスも危険を感じました。


 技を超えるパワー。


 例えば先ほどと同じようなカウンターでは、細剣が刺さったとて止まらずに轢殺される確信!


 とっさに馬から脱して、地に転がりました。


 転がりながらアルキダモスが見上げたのは、自身の馬がアルベールのぶちかましで粉々になった惨状です。


 もはや横殴りの隕星と化した加速のまま、アルベールはキュクロプスへと飛翔・突撃!


 ズガァン!!


 それを叩き落そうとしたキュクロプスの右腕と正面衝突した結果、なんとアルベールが圧し勝ってしまいました!


 右腕が完全に使い物にならなくなるレベルでへし折られたキュクロプスが大きくのけぞります。


「ぐ、うううう!」

 

 しかしアルベールはその加速を制御しきれず、キュクロプスの遥か後方に飛び出してからようやく旋回を効かせ始めます。


 吹き荒れるデカログスのマナジェットの圧力はすさまじく、アルベールは歯を食いしばって軌道を修正してゆきます。


 豪快な爆速ですが大振り過ぎるその機動では、随伴の兵たちが介入するのに十分な猶予を与えてしまいました。


 キュクロプスを守るように、兵たちがアルベールの前に立ちふさがります。


「どけ、どけえええ!」


 アルベールの爆走は、一騎ずつ何百kgとある騎鎧をまとった兵たちを紙くずのように轢殺していきます。


 そこまでしてようやく、キュクロプスへと進路を修正できたまさにその時。


 一騎の騎士がその正面に割り込んできました。


 スリムで無骨なフォルムは非常にそっけないデザインですが、円を象った両肩鎧の造形が特徴的な騎士でした。


 まるでそれは鎧の形に落とし込んだ天秤を纏っているかのようではありませんか。


 アルベールは直感します。


 アルキダモスが語った、故国を出奔したギリシアの守護者たち。


 すなわち天蝎の騎士、獅子の騎士、そして天秤の騎士。


 この男こそ……天秤の騎士!


 静かなたたずまいだった天秤の騎士が、静かに構えた剣を、静かに振り下ろしました。


 速度のない、頼りない一撃に見えました。


 しかしなんということでしょう!


 その剣が尋常ではないスピードで突っ込んでくるアルベールと的確に触れ合った瞬間!


 ズガァァァン!!!


 とてもつもない勢いでアルベールが落馬し、めり込む勢いで地面に叩きつけられてしまったではありませんか!


 いいえ、実際に半分めり込んで巨大なクレーターが生まれて地を揺らします!


 デカログスの重装甲に包まれながらも、その衝撃は全身が砕けたかと感じるほどにすさまじいものでした。


 前後不覚に陥りながら、しかしアルベールはとっさに盾を掲げました。


 ただただ体が動くままに任せた一挙です。


 するとどうでしょう!


 チュギャアン!!


 盾の表面をすべるように軽い、しかし鋭すぎる剣圧が手に返ってきます。


 方向感覚が狂っている中で必死にマナジェットを噴かせれば、地面を削るように推進、なんとか姿勢を取り戻します。


 離れていく景色に、アルキダモスが刺突した細剣を引き戻しているところでした。


 たっぷりと距離を作り膝を突いた体勢から剣を支えに、アルベールがなんとか立ち上がります。


 よく見ると、アルキダモスは天秤の騎士を守るように立っていました。


 天秤の騎士もまた、膝を突いてなんとか立ち上がろうとしているところです。


「あなたが攻撃を返し切れないなんて珍しいじゃない」


「見誤った」


 笑いかけるアルキダモスに、天秤の騎士が静かに首を振りました。


「次は返す」


「うふ、次があるかしら」


 肩をすくめるアルキダモスが上を見上げました。


 アルベールがつられて見上げれば、


「くっ……!?」


 キュクロプスが電力をチャージし終えたところでした。


 あまたの蛇が広範囲をのたうつように、右翼の兵へと降らせたようにではなく。


 アルマースへと放射したように稲妻を束ねた如き、雷霆の照射!


「う、おおおおお!!」


 デカログスに循環するマナをその盾に収束させ、蒼に輝く障壁を生み出します。


 聖剣式空中戦艦アルマースをすら引き裂いた雷霆です。


 いち騎士であるアルベールなど、一瞬で消し炭になるはず。


 ──そのはずが……


「……まさかこれも防いじゃうなんてね」


 照射される雷霆の中、輝蒼の障壁は確かにアルベールを守り尽くしていました。


 出力はハーフドライブ。


 左翼の兵を守りつくした範囲を個人に凝集した至純の守り。


 もしもこの出力をマナジェットや攻撃に乗せると、難しい制御です。


 しかしただ一心に守りに全力を注いだ時。


 アルベールはデカログスを上手くコントロールできている事実に気づきます!


 これをきっかけにすれば、より巧みにこのデカログスを操れる……そう思った時です。


 ビギリ!


 おぞましい音が盾から響きました。


 音源はアルキダモスに開けられた穴。


 穴を中心にして、微細なひびが走ったではありませんか!


 いまだ照射され続ける雷霆の中で、アルベールを守る蒼き輝きが不安定になります。


「く、ぐ……おおおおお!!」


 この状態では出力を増せばむしろ盾の自壊を早めかねません!


 アルベールは絶妙な出力の調整を試みて、蒼に輝く障壁を保ちます。


 するとどうしても強度が低下して、突破してくる雷電をいくらか受けねばなりませんでした。


 障壁を超えて漏れてくるような雷電でありながら、それは一条で常人を必殺するに十分な威力!


 それが、ばぢん、ばぢんと何度かデカログスを叩きアルベールを焼くのです!


 やがて、先に収束したのは雷霆の方でした。

 

 ぶすぶすと煙を上げながらも、驚くことにデカログスは健在でした。


 しかし中のアルベールのダメージは著しいものがあったのです!


 盾もまた、これ以上の負荷をかけるのは非常に難しいでしょう。


(早々に決着をつけねば……!)


 気力を振り絞り、傷む体を奮起させたクォータードライブ!


 デカログスの背部ノズルよりマナジェットを噴かせて飛翔します。


 しかしアルベールは、再び天秤の騎士の妨害を受けることとなりました。


 天空で爆速のアルベールと、静謐な天秤の騎士の剣が交わった時!


 今度こそ、天秤の騎士は完璧にアルベールを地に叩き落しました!


「ぐ、が……!」


 五十パーセントの出力による衝突で不完全ながら力を返されてしまったのです。


 二十五パーセントの出力ではこうもなろうというもの。


 地を叩きつけられ、明滅する視界でアルベールは鋭利な剣の煌めきを認めます。


 アルキダモスの細剣。


「残念だわ、アルベールちゃん。医者として治療した患者と、こんなお別れはね」


 アルベールにはそれが心からの言葉なのがはっきりと伝わりました。


 そしてそれ故に、細剣に乗った殺気の確かさもよく分かりました。


 盾を掲げながらアルベールは悟ります。


 この自壊寸前の盾では、アルキダモスの剣尖を防ぎきれない!


 盾を破壊し、デカログスの傷んだ個所を正確に見抜いてアルベールを貫く確信。


 鋭く細い風切音が聞こえ……それが天空から舞い降りる、蒼き清廉なる斬空音にかき消されました。


 ズガァァァン!!!


 大地を斬り砕く音は、細剣を半ばで叩き斬った音をかき消して重く鋭く高らかに戦場に響き渡りました。


「修道女クレメンティナ!」


 裾を焦がした修道衣をはためかせ、蒼い流星となってアルベールを守るように立ちふさがったのは聖女クレメンティナ!


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