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神聖騎セフィロマキナ  作者: ローリング蕎麦ット
第五話 アルベールvs鋼のザクセン軍
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アルベールvs鋼のザクセン軍 第四節


 倒れ伏したケル・クラッシャーの傍ら。


 ゲルダが槍を拾い上げて一振りすると、土煙が晴れてその姿をあらわしました。


 その姿の痛ましいこと!


 完全兜もはじけ飛び、銀の装甲も破れてずたずたで、いくつもの亀裂が奥でスパークを繰り返した有様です。


 特にケル・ブラストの奔流に反逆して槍を突き付けた右腕の装甲が著しい損傷でした。


「気になっていたことがあった」


 長い金髪、凛々しい碧眼。


 流血にまみれながらなお美しさを損なわない、戦乙女の素顔がアルベールを見据えました。


 ちょうど右手甲にセットしていた宝石炉がオーバーロードに耐え切れなくなり、砕け散って吹き出すようなマナの出力も収まりました。


「君の騎士鎧の性能が気になっていた。だがこれで互角だ」


「貴公──」


 ケル・ブラストの直撃からゲルダが逃した白馬も戻ってきて、それにまたがり槍を構えます。


「──佳い女だな」


「なんだ、今更か」


 互いが勇ましく微笑みあいました。


 そして、


「さぁ、決着だ」


「応!」


 同時に馬を走らせて、アルベールとゲルダが再び剣と槍を交えました!


 お互いの動きはもはや鎧が足枷となっているレベルでした。


 出力は一切安定せず、不規則に機能が停止する瞬間すら多発する有様です。


 それでもなお。


 それでもなお、アルベールとゲルダの攻防は精彩を欠くことがなく、むしろ互いに研磨しあうように鋭さを増していきました。


 アルベールは動かなくなった右肩鎧を動かして剣を振るいます。


 ゲルダは動かなくなった腰部装甲をひねって槍を繰り出します。


 各部の機能がダウンしていく中で、純粋な戦士の技量がぶつかり合い、二騎が駆け去る後に血風が吹き流れてゆきました。


 荒れ果てた呼吸の果て、アルベールとゲルダと、そして二騎の乗騎すら含めた総てが高まりあい、嚙み合った瞬間が生まれました。


 まさにこの一瞬。


 至上の一撃を剣と槍に乗せることができるまさにこの一瞬。


 ゲルダが流麗なる軌道で銀の槍を突き入れてきました。


 対するアルベールの剣も、切っ先を差し向けた突き。


 槍の穂先と剣尖が触れ合い、きれいにきれいに、剣が縦に穿たれてゆき、


「しまっ」


 ゲルダは己の敗北を悟りました。


 剣を縦に穿ち破る抵抗が、槍がアルベールに到着する時間をかすかに、かすかに引き延ばしたのです。


 そのあるかないか生み出された刹那の瞬間を使い、アルベールが手首をひねり……ついに極限の槍閃が逸らされました。


 アルベールの剣持つ右腕が、手の甲、手首、肘にかけてぱっくりと咲けて鮮血が咲き狂います。


「エィメン!」


 そしてアルベールが祈りなる咆哮で猛り、盾の一撃をゲルダに見舞ったのです!


 バギャアン!!


 痛烈な破砕音と共に戦乙女の騎鎧が砕け、ゲルダが落馬します。


 美しい金髪を広げ、仰向けに倒れたゲルダの顔は苦痛にまみれながら、どこか清々しいものをあらわしていました。


「とどめを刺せ」


 アルベールは馬上で首を振りました。


「戦乙女ゲルダよ、獣が出たな」


 そしてそう笑いかけるアルベールに、ゲルダは眉をひそめました。


「そう、獣が出たのだ。むろん、獣程度で我らの決闘を煩わすにはあたわぬ。しかし結着に疵がついたのは事実である」


「慈悲をかけるつもりか」


「これは貴公のための慈悲ではない。心得るがよい、私のための矜持である」


 アルベールはそうゲルダに笑いかけて、馬首を返しました。


「次は獣抜きで、宝石のような決着だ」


 無事なところなどどこにも見当たらないその身で、アルベールは颯爽と走り去ってゆきました。


 それを見送り……ゲルダは清々しいほどにやるせない晴れやかな顔で、


「……敗けたな」


 そうつぶやきを天へと零しました。


 それからそう時間を経ず、山道が終わりました。


 遥かなる原野をコメーテスが走ります。


 コメーテスにも疲労の色が濃く、荒い呼吸でした。


「もう少し、頑張ってくれ」


 アルベールが馬首を撫で、遠くに見える森に進路を取りました。


 身を隠して一休みをと考えていた……その時です!


 ごうんごうんと、上空から重低音と強烈なプレッシャー!


 日が陰ったのを見上げればそこには、ベルセルクⅢやゲルダを降下させた黒鉄の空中戦艦レーヴァテインが接近していました!


「クソッタレの教会野郎! 上手くゲルダとマースをぶつけて切り抜けやがったな! だがもうガタガタのはずだ、逃げられると思うなよ!」


 怒りに満ちた胴間声が外部スピーカーから響き渡ります。


 そして空中戦艦の下部にずらりと並んだ砲門がうごめいて、アルベールに照準します!


「クッ! 走れ、コメーテス! 流星のように!」


 ズガン! ズガン! ズガガァン!


 降り注ぐ砲撃の雨に、アルベール周辺の原野が次々と爆裂しては土煙をあげてゆきました。


 アルベールは薄氷を踏む思いでコメーテスの手綱を操り、砲撃の直撃を逃れ続けていきます。


 ドガァン!


 しかし、嗚呼なんということでしょう!


 コメーテスが爆風にあおられてついに横転、アルベールが落馬してしまいました!


 地を転がるアルベールは、素早く膝立ちになり盾を構えますが……


 ズガン! ズガン!!


 砲撃に耐え切れずに吹き飛ばされてしまいました!


 もはや盾は耐えられても、アルベールが耐えられないという状況。


 地に伏すアルベールは……しかし砲撃を凌がんと懸命に立ち上がりました。


「これで仕舞だ!」


 最後の砲撃が敢行されようとした、まさにその時です!


「そうは、させませんわ!」


 清廉なる声が天に響き渡り、空を引き裂いて蒼き光を束ねた閃きがレーヴァテインへと殺到します!


 緊急回避をした黒鉄の空中戦艦は、舷側をいくらか融解させながらなんとか直撃を免れました!


 アルベールが見上げる空に、蒼穹に純白の十字架が!


 快速の急接近で突貫してくるのは空中戦艦アルマース!


 アルベール上空を通り過ぎるその瞬間、騎乗した騎士ハヴェルがアルベールの側へと降下しました。


「騎士ハヴェル!」


「無事かアルベールよ」


「主の御許へと召される寸前であった」


「まだ働けと主が仰せなのであろう。だが今は私たちに任せておけ」


 天空で高速の艦砲戦を繰り広げる二隻の艦は、アルマースが有利に立ち振る舞っているようでした。


 初撃でレーヴァテインの舷側を焼き削ったのが大きいようです。


 弱ってなお萎えていない足取りでコメーテスがアルベールへと歩み寄ります。


「コメーテスよ、心強い仲間が来てくれたのだ。我らも、もうひとつ力を出し切るぞ」


「良い馬だな」


「勇敢な馬である」


 アルベールがコメーテスにまたがった頃合い。


 最初に振り切った新たなるゴモラの戦士たち一団が、アルベールを追って山道を下ってくるのが見えました。


 さらにレーヴァテインからベルセルクⅢやヴァルキュリャが何騎も降下しているではありませんか!


 騎士ハヴェルが弓を準備しながら馬を走らせ、アルベールもそれに並走します。


 まだまだ敵との距離は遠いですが、ハヴェルは厄介な機動力を持っている者を矢で的確に射抜いて牽制を開始しました。


 それでも満身創痍のアルベールの速度では、じわじわと新たなるゴモラの戦士たちに追い上げられてしまいます。


「厄介な奴がいるな」


 さらにハヴェルが冷静な中に焦りを交えてつぶやきました。


 アルベールが新たなるゴモラの軍勢を振り返れば、先頭を走る獅子の騎鎧がハヴェルの矢をことごとく叩き落しているではありませんか!


 まるで獣頭の騎士。


 アルベールはあれこそが獅子の騎士なのだと直感しました!


「先にゆけ」


 ハヴェルが馬を止めて、騎士鎧を変形させてゆきました。


 身の丈を超える弓へと変じた騎士鎧にマナを充填してゆけば、エネルギーで結ばれた弓弦が出現。


 それをつま弾けば、


 どう!!


 高エネルギーの蒼いマナが一条の閃光となってほとばしりました!


 狙いは先頭を走る獅子の騎鎧!


「ぬうううがあああああ!!」


 獅子の騎鎧が五爪に目に見えるほどに強固なマナを纏い、蒼いマナの一条を切り裂いてしまいました!


 その余波だけで、周囲のゴモラの戦士たちがなぎ倒される中、獅子の騎鎧は前進を緩めません!


「ひと薙ぎで凌がれるとは!」


 ハヴェルが瞠目しながら馬を走らせました。


 走らせながら、獅子の騎士へと出力を落としながらも連射を繰り返してそのスピードをなんとか殺してゆきます。


 片手間、突出しそうな戦士を射抜き、逃げるフランクの騎士と追うゴモラの戦士たちの構図が拮抗します。


 しかしこのままではじり貧。


 アルマースを見上げれば、まだレーヴァテインを抑えきれずにいるようでした。


 そんな状況で、


「教会野郎ォォォォォ!!!」


 猛スピードで追い上げてくる鋼の獣がやってきます!


 それは頭部が見るも無残に損壊している鋼鉄の牡鹿ケル・クラッシャー!


 各所が破損して繰り返しスパークしているのをさらしながら、なお抜きんでたスピードで駆け抜けてくるではありませんか!


「クッ……!」


 ハヴェルがケル・クラッシャーへとマナの矢を射かければ、もともと大きなダメージを受けている手前、大きく減速させることができたではありませんか!


 しかしその隙に、獅子の騎士がついにハヴェルに追いつきました!


 ガギィン!


 弓に変じた騎士鎧そのもので防御しましたが、その爪の威力たるやハヴェルが圧し敗けてしまいます!


 どうにか落馬は免れましたが、獅子の騎士が息もつかせぬ連続攻撃!


 ハヴェルは騎士鎧の弓を盾に、その猛攻を捌きます。


 獅子の騎士の攻撃のかすかな隙を突き弓を寝かせ、弓で弾き、弓で払い、矢筈で突く。


 極めてわずかな攻撃の隙を突き、むしろ何手かの攻撃を弓で繰り出して見せました!


「驚ぉいたぞぉ、フランクの騎士めぃ! 俺の爪とここまで張り合える弓兵がおるとはなぁ!」


「フランクの騎士ハヴェル。フランク随一の弓と自負している」


「獅子の騎士ディオゲネぇス! その弓をへし折った上でぇ、貴様の喉笛を裂いてくれようぉぉぉ!」


 むき出しの野性で、ディオゲネスが再び飛び掛かってきました!


 ハヴェルは騎士鎧の弓を駆使し、さらには剣も抜いて痛烈な爪を捌いていきます。


 しかしなんということでしょう!


 ハヴェルがディオゲネスに手を取られている隙に、ずたぼろのケル・クラッシャーがアルベールへと追い付いてしまいました!


「死ね! 死ね死ね死ね死ね死ね! 教会野郎!! てめェは絶対ェ! 許さねェェェェェ!!」


 ケル・クラッシャーがひび割れた前脚でアルベールを薙ぎ払いました!


 もはや騎士鎧が機能しているかどうかも怪しいアルベールは、コメーテスの走りと盾の性能を頼りにそれを受けてこらえきります。


「クッ!」


 ハヴェルがそちらに気を取られれば、ディオゲネスの爪がハヴェルの肩鎧を切り裂き肉を抉ります!


「グハハ! 騎士ぃハヴェルぅ! 同胞を想えばぁ自らが傷つくぞぉぉぉ! さぁ死地ぞ、死地ぞフランクの騎士ぃ! どうする、どぉぉぉうするぅぅぅ!!」


 肩の爪傷は深く、ハヴェルの動きにいくらか鈍ってしまいました。


 そのいくらかが、この獅子の騎士には致命的!


 ガンガンとハヴェルが押し込まれてゆき、アルベールもまた崩壊寸前のケル・クラッシャーに追い詰められているではありませんか!


 さらに新たなるゴモラの戦士たちも、分厚い壁が迫るがごとくもう目の前です!


 絶体絶命のその時!


「チィィィ!」


 突如ディオゲネスが飛び上がり、天空でその両爪を閃かせました!


 ドガァン! ドガァン! ドガァン!


 天空で爆裂!


 そう、ディオゲネスが切り裂いたのはアルマースの砲撃だったのです!


「お待たせしましたわ騎士ハヴェル、騎士アルベール! どうかご帰艦の準備を!」


 外部スピーカーから降るクレメンティナの声には焦りがあります。


 見れば、遠い空で黒鉄の空中戦艦レーヴァテインが黒煙を噴き上げて不安定な飛行で立て直しを図ろうとしています。


 その立て直しが整うまでの、今の瞬間こそがアルベールたちを回収する好機なのです!


 蒼き空中戦艦がどんどん高度を落としながら、砲撃を繰り返します。


 満身創痍の騎士をもう少しでいたぶれると思っていた新たなるゴモラの戦士たちは、さしもの空中戦艦の砲撃に逃げまどいます。


 しかしただひとり、獅子の騎士だけは驚異的な跳躍と爪の威力で、艦砲に立ち向かっているではありませんか!


「嘘でしょ、あの方おひとりでアルマースの砲撃防いでるんですの!?」


「グフぁハハハハぁ! 仲間を想えばぁ傷つくのはぁまさか俺の方でもあったかぁ!!」


 天空で艦砲を迎撃してなお、両手を広げてハヴェルの矢をも受け取る覚悟を示すディオゲネスと視線がかち合います。


 その戦士のまなざしに、ハヴェルは構えようとした弓を下しました。


「情けをぉかけるかぁ、騎士ハヴェルうぅぅ!!」


「違う。貴公は今、アルマースと男の一騎討を演じておる。その見事な戦いぶりに手を出すなど、騎士たる身ではできかねるだけである」


「グぁハハハハハ!! 今日、射止めておけばよかったとぉ、後悔するぞ騎士ハぁぁぁヴェルぅぅぅ!!」


 怒りとも楽しさともつかぬ獅子の咆哮を背に、ハヴェルがケル・クラッシャーへと矢を連射します。


 それでケル・クラッシャーはいよいよ大破へと突き進みますが……


「止まらない!?」


 満身創痍のケル・クラッシャーだというのに、脚でアルベールを押しつぶそうとする攻勢が止まりません!


 ハヴェルが馬の足を止め、騎士鎧の弓にケル・クラッシャーを一撃で粉砕するマナを充填し始めたのと、


 ドバァン!!


 しかしマナの充填よりも先に、大地が裂けて新たなる機影が飛び出したではありませんか!


「なに!?」


 それは巨大なる鋼鉄の大蛇!


 鎌首をもたげて爛と光るアイセンサーが、周辺状況をさっと読み取りました。


 アルベールは直感的に、それがケル・クラッシャーと同系統の機鎧と理解しました。


 つまり敵!


「ケル・ウィップ!? 何しにきやがった!? この教会野郎は俺が……!!」


 ケル・クラッシャーの壊れかけのスピーカーから、困惑が漏れ出しています。


 やはり仲間か!


 そう意識的に考えるよりも先に大出力のマナの矢がケル・クラッシャーへと解き放たれました!


 しかしなんということでしょう!


 鋼鉄の大蛇はさっとケル・クラッシャーを取り巻いて壁となり、矢を防いでしまったではありませんか!


 装甲こそ貫通したのですが、蛇体を活かして何重にも装甲をとぐろ巻いて重ねた巧みの防御です!


「この馬鹿! あんたが死ぬのはどうでもいいが、ケル・クラッシャーを巻き添えにするんじゃないよ!」


 ケル・ウィップと呼ばれた鋼の大蛇から、威勢のいい女の声がほとばしりました。


 そしてケル・クラッシャーに巻き付く力を強めて、地に沈んでいくではありませんか!


「おい! 何しやがるおい! 止めろギナ! 俺はまだ戦える! もう少しであの教会野郎を……」


「黙りな!!」


 どうやら撤退のようです。


 ハヴェルは矢を充填こそしながら、それを見送る構えでいました。


「この声は……」


 ただアルベールだけは、大地へと還ってゆく呆然と鋼鉄の大蛇を見上げています。


 なんとなく、ケル・ウィップからためらうような空気が醸し出されました。


 しかし次の瞬間、頭部のコックピットハッチが開いて、中から赤髪の美女が顔を出したではありませんか!


 そう、緑の巨人ネメトンに搭乗していたあの美女です!


「貴公は!」


「……久しぶりだね騎士アルベール。今日はこの馬鹿のお守りだが……次こそはあんたに借りを返すよ」


 ぷいと赤髪の美女がそっぽ向いて、コックピットハッチを閉ざします。


 そうしてケル・クラッシャーともども地に沈んで消えてゆきました。


 そこに限界ギリギリまで高度を下げたアルマースが、二騎への頭上に近づいてきます。


 圧倒的な質量が大気を押しつぶす乱流に、アルベールはコメーテスにしがみついて耐えながら、下部ハッチが開くのを見上げました。


「ハヴェル様! アルベール様! 今です、今ですわおふたりとも!」


 レーヴァテインは空の遠くでなんとか立て直しをして、ようやくこちらへ向かおうとしている状況。


 獅子の騎士ディオゲネスも、艦砲射撃の雨に圧されてずいぶんと遠くで態勢を整えているところでした。


 新たなるゴモラの戦士たちはアルマースに恐れをなして後退。


 まさに、今!


 アルベールはハヴェルの助けを借りて、コメーテスを大きく大きく跳躍させました!


 艦内に転がり込めば、即座にハッチが閉められて高度が上がってゆく感覚。


 レーヴァテインからのやけっぱちの砲撃を横目に、アルマースは全速の撤退に蒼穹を駆け抜けて戦闘空域からの脱出を成功させました。


 アルベールには、怒りのまま喚き散らすレーヴァテイン艦長の胴間声や、ケル・クラッシャーの中で呪詛と罵倒を繰り返すマースの声が聞こえたような気がしました。


「助かったぞ騎士ハヴェル」


 下馬をしたハヴェルへと、アルベールが十字を切りました。


「よくぞあの場所が分かったな」


「捜査と分析はずっと続けていた故、急行の命令が下ったのだ。陛下はずっと、貴公が死んだはずがないと確信しておいであったからな」


「陛下が」


 アルベールの胸には、自分を信じ続けてくれた王様に対する熱い想いがじんと広がりました。


「修道女ドロシーがあらゆる情報を精査して、ピレネー山脈のどこかに遭難している可能性があると結論付けた。そこで救助のため、ピレネー山脈にアルマースを飛ばす手続きはずっとしていたのだ」


「修道女ドロシーが?」


「そうだ。今回ほど彼女の知恵に舌を巻いたことはない。もろもろの決議がようやく通って、何度か飛んでくる計画は立っていたのだが……まさか初回で貴公のあの大立ち回りに出くわすとは、奇縁よな」


 ハヴェルが笑いかけますが、アルベールはいぶかしい顔でこう尋ねました。


「……本当に奇縁かな?」


「主の思し召しであろうな」


 ハヴェルが十字を切りますが、アルベールはもうひとつ踏み込みます。


「今日の飛行を決定したのは陛下であるか?」


「それはそうだ。だがそうだな……修道女ドロシーと熱心に相談をしておられた」


「なるほどな」


「もう安心して休むがよい。そして貴公の冒険をゆっくりと聞かせてくれ」


「ああ、きっと貴公も平静ではいられぬ話を聞かせよう」


 こうしてアルベールは、王都までひとときの安らぎを得たのでした。



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