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神聖騎セフィロマキナ  作者: ローリング蕎麦ット
第五話 アルベールvs鋼のザクセン軍
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アルベールvs鋼のザクセン軍 第三節


 その日、クロヴィスは謁見の間で朝早くから裁決を多くこなしておりました。


 たくさんの異教徒の指導者や罪人や商人、外国の使者すらも謁見にやってきては都における権利の裁可を仰いだり、罪の裁きを下されたりしておりました。


 人の流れが途切れたある時、ひとりの衛兵が急いで入ってきてはクロヴィスに跪きました。


「陛下、騎士アルベールより謁見の申し出がございま」


「ほう?」


 居並ぶ黒騎士や宮宰が驚いたり訝しい顔をする中で、クロヴィスは鷹揚に頷きました。


「通すがよい」


 すぐに謁見の間にアルベールがやってきました。


 改修した騎士鎧に身を包み、すっかり傷も癒えた凛然たるたたずまいでした。


 その場にいた誰もが、一目でそんな騎士鎧では本来の出力にはまるで及ばないのは理解します。


 しかしその上でなお、異教の敵対者のただなかにあって怖気づかぬ気迫をみなぎらせているではありませんか!


 アルベールが騎士の礼をして、高らかに言葉を放ちます。


「魔窟の王よ、これより私はこの都を発つ。御身の打ち建てたこの都を認めるわけにはいかぬが、この都で傷を癒した事実は違えようがない。かたじけなく存じ上げる」


「その挨拶のためにここへ来たのか?」


「まさしく」


「殊勝な男だ。こそこそと宵闇にでも紛れて出てゆけばよいものを」


「それは騎士のふるまいではない」


 クロヴィスがふっと笑いました。


「余は弱者のためにこの都を指導している。故にこの都において弱者である君を、存命させた裁決になんら迷いはなかったが──最後まで己を強者たる騎士として胸を張り通した気概は見上げたものだ」


「恐れ入る」


「余の騎士たちは猟犬のように貴様を追いはすまい。しかし自由な権限を与えている、教会を恨む者たちは貴様が外に出るのを手ぐすね待っておるぞ。城壁を越えた瞬間にでも、射掛けられるであろう」


「まかり通り、帰還させていただこう」


「よろしい、その勇気を認める──そうだ、ひとつ君には言伝をくれてやろう」


「言伝と?」


「左様。シャルルに伝えるがよい。近くフランク王国を飲み込みながら会いにゆく、とな」


「……慎んで、御身の言葉を預かった」


 シャルルとはアルベールが忠誠を誓う王様の名前でした。


 これはもはや宣戦布告!


 これまでこそこそとフランク王国を食い物にしてきた新たなるゴモラの王が、侵略を宣言したのです!


 アルベールは颯爽と踵を返します。


「おさらばでござる」


「せいぜい健闘の報を届けて余を楽しませよ」


 謁見の間から出る前に、ロイを一瞥しました。


 黒騎士はふっと不敵に笑い、アルベールも精悍な顔で頷きました。


 外に出ればアルキダモスと、そしてアディラが待っておりました。


「はぁい、アルベールちゃん」


「なんと、見送りであるか?」


「そうよぉ、医者として患者がちゃーんと治ったなら最後は笑顔でお別れってものでしょ?」


「世話になった」


「次に会う時は、お互い戦士としてかしらね」


「油断はせぬぞ」


「あたしもよ」


 アルキダモスが投げキスをしました。


 アルベールはそれを躱しました。


「アルベール様」


「アディラ殿」


「お達者で」


「……この都がなくなった時、そなたは人のために技術を活かすために動き出すだろうか?」


「きっとまた別の自由を探しますわ」


「そうか」


 アルベールが、深く息を吐きだしました。


「ではそなたの技術を、ただ技術を突き詰めるだけでは辿り着けぬ領域で破壊する」


「……なるほど、アルベール様との勝負ですね」


「そうだ。デュゲル博士が挑もうとしているように、直に力を比べる勝負ではない勝負である」


「それは少し……わくわくしてしまいます」


 アディラの宝石のような瞳に、不敵な火が生じるようでした。


 この都では誰もかれもが、その火を持っているのでしょう。


 人を温めるだけではない火を。


 それが絶対的な悪だとは、アルベールは思いませんでした。


 しかし律せずに燃やすだけでは悪です。


 それをフランク王国と教会が、この新たなるゴモラを打ち破ることで証さねばなりません!


「ゼヌ様もお別れをと誘ったのですが、頑なにいらっしゃいませんでした」


「そうであろうな。なに、またそう遠くない未来で会えるであろう」


 アルベールがコメーテスにまたがりふたりを熱い想いで見下ろしました。


「さらばだ。また会おう」


 そうして駆け去ってゆきます。


 万魔殿の整備された道、繁華街の馬車道、そして城門へと至ります。


 多くの馬車が入門の手続きをしており、衛兵たちも忙しそうに働いています。


 止まれ、と衛兵たちが槍を構えて立ち塞がります。


「急報を持って帰らねばならぬのだ。まかり通るぞ!」


 アルベールは改修した騎士鎧と盾の宝石炉を起動させます。


 本来なら安定して全身に循環するマナですが、宝石炉の数も少なくケーブルもどうにか繫ぎ合わせた有様です。


 装甲も足りていない状態では非常に不安定な出力でした。


 そこでアルベールは余った宝石炉のひとつを、右手甲にセットします。


「願わくば主が御顔を我らに向け、旅の平安を賜わるように──エィメン!」


 そしてその宝石炉にマナを集中させました。


 過剰に注がれたマナで、右手甲の宝石炉が限度を超えて励起してゆきます。


 このオーバーロードによって膨れ上がったマナが、一気にアルベールとコメーテスへと循環しました!


 即ちマナを横溢させて上限まで満たした状態ならば、最大を出力で横溢し続ける安定という力業!


 アルベールとコメーテスが蒼い光を纏い、爆発的な加速で城門を飛翔するように駆け抜けてゆきました。


 城門を通過した瞬間!


 アルベールに向けて剛弓の矢が雨あられと射掛けられます!


 上、左右、前方から!


 視界一杯に、矢!


 教会に恨みを持ち、騎士を嫌う新たなるゴモラの住人たちです!


 その矢の雨を、アルベールは蒼いマナの放出でことごとく逸らし尽くしてしまったではありませんか!


 さらに行く手には、騎士鎧や機鎧を纏った猛者たちが手に手に武器を構えて立ち塞がっています。


 最先端の騎士鎧のカスタム騎から、他国が正規軍で使っていた型落ち騎。


 異教の巨人や獣を象った機鎧もわんさかとアルベールへと殺到します!


「主なる神よ、善なる者を守りたまえ! エェェェィメェェェン!!!」


 アルベールが盾を前に構えれば、蒼い光が無作為に放出から流動してゆきました。


 まるで円錐の尖先が前方を指し、アルベールとコメーテスを護るように形を整えてゆきます


 まるでそれは、蒼い光で象られた巨大な槍の穂先!


 蒼い光の形は空気抵抗を極限まで殺す役割を負い、さらにコメーテスを加速させてゆきました。


 立ち塞がる戦士たちは、蒼い輝きを纏うアルベールたちにことごとく弾き飛ばされ害することがかないませんでした!


 分厚い包囲網を穿ち切ってしまえば、アルベールとコメーテスは晴れやかな空の下、荒涼たる山道へと躍り出ました!


 やがて右手甲の宝石炉が崩壊して、蒼い煌めきとなってアルベールの後方へと流れてゆきました。


 纏うほどのマナ出力が止みましたが、かなりの距離を稼いだと言えましょう。


 新たなるゴモラの外は山道でした。


 峻厳なるピレネー!


 とはいえ、新たなるゴモラへつながる道です。


 ある程度は広く整備がされているようでした。


 アルベールは山道をぐんぐん下ってゆきます。


 しばらくは立ち塞がる者もいませんでしたが、やがて空から重低音が聞こえてきました。


 まさかと思ったアルベールが空を見上げると、そこには空を飛ぶ鋼鉄の船が!


 黒い戦艦がアルベールの頭上に迫り高度をぎりぎりまで落としてくるではありませんか!


 そして下部ハッチが開くと、鋼の戦士たちが五騎降下してきたではありませんか!


「あれはベルセルクⅢ!」


 それはザクセン人たちが主戦力として使用する騎士鎧でした。


 およそ八十年前にザクセン人たちは、第零世代騎士鎧と呼べる兵装ベルセルクを開発してフランク王国に対抗しました。


 それから時代と共に開発が進み、現行での使用されている騎種がベルセルクⅢです。


 宝石炉も九つを搭載して完全鎧の形をしており、フランク王国の第三世代騎士鎧クルクスと戦えるだけの性能です。


 対してアルベールの騎士鎧は、なんとか使えるように改修した状態で、まさしく八十年前のベルセルク程度の性能と言えるでしょう。


「フランクの狗が! ようやく外に出てきたな!」


 五騎のベルセルクⅢを降下させた空中戦艦が、高度を上げながら胴間声を外部スピーカー越しに叩きつけてきたではありませんか!


 万魔殿の審判において、天秤の騎士と言い争っていた艦長と呼ばれる男の声でした。


「生かしては返さんぞ、やれい戦神のしもべたちよ!」


 艦長の号令と共にベルセルクⅢが五騎、一斉に襲い掛かって来ました。


 狼の意匠をした造形をしており、両手の爪はひとふりで人間を真っ二つにできるサイズです。


「フランクの騎士アルベール! 推して参る!」


 威勢のいい宣言でありながら、アルベールはコメーテスを急停止させます。


 ベルセルクⅢの爪が空を切り、一拍遅れでコメーテスが一騎へ突っ込みます。


 きちんと構えた状態ならば、馬の一頭を受け止められないはずはありませんでした。


 しかし爪を空振りしたベルセルクⅢの態勢ではいかんともしがたく。


 ぶちかましをくらったベルセルクⅢは大きくのけぞり、


「ぜぃ!」


 そこへアルベールが剣を一閃!


 狼の頭部めいた兜の、バイザーに剣の切っ先をねじ込んで一騎を沈黙させました!


「おおおおお!」


 そのまま両手で剣を握り、頭部を突き刺したベルセルクⅢそのものを振り回して周囲に叩きつけました。


 それで二騎が吹き飛ばされ、バイザー越しに貫かれた一騎も剣から落ちて転がってゆきました。


 しかし無事なベルセルクⅢが二騎、コメーテスの疾駆に苦も無く追いついてきます。


 そしてアルベールを挟み撃つように爪を突き付けてくるではありませんか!


「チ、ぃ!」


 アルベールが片方を盾で防ぎ、片方を剣で防ごうと動きます。


 ガギィン!


 アルベールの剣が圧し敗けて、右の手甲がざっくりと切り裂かれてしまいました!


 肉にまで達する手痛い爪撃!


「クッ!」


 本来ならば剣が爪を折る入り方でしたが、これは騎士鎧の性能差です。


 しかし宝石炉を積んでいる盾の方は、しっかりと爪を防いでむしろベルセルクⅢを押し返しました!


 盾だけならばむしろアルベールが上回っているのです!


「……ならば!」


 剣に圧し勝ったベルセルクⅢが立て続けに攻めてきました。


 その爪撃を、アルベールは再び剣で受けました。


 今度は叩き込ん爪を心臓まで貫いてやるぞ!というベルセルクⅢの気迫が伝わって来る攻撃でした。


 先程よりも強烈な爪の威力に、アルベールの剣が押されて、負けてしまう……その直前!


 アルベールが爪の力の芯を逸らしました!


 それでも腰部装甲を切り裂かれて、肉が裂かれましたが、


「エィメン!」


 アルベールは渾身の力で盾をベルセルクⅢの頭部へと叩きつけました!


 兜がひしゃげ、操者が一撃で昏倒したらしく地に転がり落ちて後方へとみるみる流れていきました。


 それを乗り越えてベルセルクⅢが一騎、追い付いてきますがアルベールは巧みに剣で受けて、盾で敵の胸部装甲をぶち割ってしまいました!


 胸から胴にかけてバキバキに破損したベルセルクⅢは地に落ちて転がっていきます。


 死体をぶつけて大きく後退していたベルセルクⅢが追いかけてくる距離を肩越しに計りながら、アルベールはコメーテスの首筋を撫でてやりました。


「勇敢な馬だ、お前は」


 コメーテスはその言葉を理解しているように、軽くいななきました。


 ベルセルクⅢが二騎、アルベールに追いつきそうになった時、


「下がりなさい、君たちでは無理でしょう」


 天より涼やかな声が降ってきました。


 見上げれば空中戦艦より美しい鎧を纏った一騎が降りてきました。


 美しい毛並みの白馬にまたがった、麗しいまでの白銀の騎士。


 豊満な胸部装甲と、優美な曲線を描く輪郭。


 どうやら操者は女性のようでした。


 両手で槍を構えた姿は、ザクセンに伝わる古の戦乙女!


 そう、この騎鎧の名は!


「ヴァルキュリャ!」


「我こそはザクセンの戦乙女ゲルダ。空中戦艦レーヴァテインが戦乙女最強の女である。フランクの騎士アルベールよ、その騎士鎧の状態でよくぞ戦う」


「嗤うか、戦乙女よ」


「否、見事な戦いぶりと感嘆していた」


「猛者ぞろいのザクセン人でも、指折りの戦士にしか務まらぬ戦乙女にそうも言われるとは。私も捨てたものではないらしい」


 そうです、ザクセン人の騎鎧の中でもヴァルキュリャは特に高い性能を有していました。


 その機構は非常に特殊で、女性しか操者になれないのです。


 ヴァルキュリャを操るための厳しい選定と訓練を経た特級の実力者たちは、戦乙女とたたえられているのでした。


「しかし君の騎士鎧が劣悪な整備状況と侮り、最初から私が出撃していななかった失態を悔やんでいる」


「高潔な戦乙女よ、その失態、この首で補わんと挑むがよい。だが貴公、さては今なお十全ではない私と相対する気おくれがあるな?」


 アルベールはコメーテスの上、堂々と剣を構えました。


「心せよ、戦乙女ゲルダ! 貴公が見た通り、私の戦いになんら不足はない。正々堂々と一騎討である!」


 ゲルダが少しうつむいたようでした。


 アルベールはそれが低く、くつりと笑ったのを一拍遅れで理解しました。


「見事な男だ、騎士アルベール」


「いざ参られよ! 戦乙女ゲルダよ!」


 細く鋭い風斬り音を奏で、ゲルダが槍を繰り出してきました。


 閃きは二条!


 アルベールは本能的に心臓を盾でかばい、必死に頭部を傾けました!


 盾に鋭い衝撃!


 しかしどばっ!とこめかみから派手に血が噴き出ました!


 心臓への槍は防ぎましたが、眉間狙いの槍を躱したはずが、その余波で側頭部を切り裂かれたのです!


 二連撃がほとんど同時にすら感じられる高速の槍!


「なんという速さだ……!」


「これを凌ぐか」


 コメーテスの手綱を引いて、大きく距離を取ろうとしました。


 しかしゲルダは二基の背部ノズルより、銀のマナジェットを吹いて急激な踏み込みで肉薄してきます。


 滑らかでしなやかな快速!


 ゲルダの白馬が瞬く間に距離が埋め尽くし、ゲルダが槍が突きつけました!


「クッ……!」


 これにアルベールは、なんとか盾を滑り込ませました。


 しかし角度が悪く、ゲルダは槍に白馬の体重もたいそう上手に乗せています!


 盾を押しのけて左肩の装甲が破られてしまったではありませんか!


 アルベールは肉が抉れる激痛に歯を食いしばります!


 その痛みをこらえながら、むしろもう一歩コメーテスを踏み込ませて、


「ぜい!」


 右手の剣を振り下ろしました!


 しかしアルベールの剣が切り裂いたのは銀の残影!


 ゲルダは既に、目にもとまらぬ速さでアルベールの背後を取っていました。


 アルベールが本能的に身を伏せれば、後頭部すれすれを銀閃が駆けてゆきました。


 この回避はぎりぎり過ぎて、背部の装甲が派手に削れてしまいました!


「この!」


 苦し紛れに剣を横薙ぎますが、ゲルダの影にも届きません!


 まばたきの間に、気づけばアルベールと並走しておりました。


「ふむ」


 ゲルダが感心気につぶやきながら、豊かに膨らんでいる胸部装甲を撫でました。


 そこには一筋の疵がついているではありませんか!


「鎧を疵をつけられたのは久方ぶりだ」


「様子見の力加減のままなれば、次は捉えるぞ戦乙女」


「君とてまだ全力を隠していよう、騎士アルベール」


「……一挙一動に全力である」


「ふっ」


 銀の戦乙女が槍を上段に構えます。


「もしも出し惜しみをされては勇者たちが集う天上の館へ送ってはやれぬ。力を尽くすがよい」


「悪いが私が赴くのはペテロの門だ」


 アルベールも剣を構え直します。


 このままでは槍に穿たれるのは時間の問題です。


 こうなれば宝石炉をオーバーロードさせて、出力を補うしかありません。


 そう決意をしたその時です!


 アルベールとゲルダがその場を飛びのきました!


 ドガァン! ドガァン! ドガァン!


 瞬間、一拍前にアルベールとゲルダがいた場所が爆裂しました!


 爆裂は連続して周囲を破壊していきます。


 その爆風のはるか向こう側から、


「見つけたぞ、お前がアルベールだな!」


 スピーカーを通した爆声がとどろきました。


 見れば鋼の獣が、猛烈なスピードでアルベールを追いかけてくるではありませんか!


 それは雄大な角を持つ、五メートルはあろう巨大な牡鹿の機鎧!


 両肩には煙を立ち昇らせる砲門を備えており、先ほどの爆裂はあの鋼の獣の砲撃だったのです!


「あれはケル・クラッシャー」


「ケル・クラッシャー?」


 アルベールはゲルダの言葉を反芻して小首をかしげました。


「ケルト人の特殊部隊が運用する一騎だ。どうやら君の首が目当てらしいが……」


 ゲルダが白馬の速度を落とし、鋼の牡鹿の進路を遮る位置取りで槍を突きつけました。


「止まるがいい。先の砲撃、私まで巻き込むつもりであったか?」


「悪ぃ悪ぃ! つい熱くなってな!」


「騎士アルベールとは私が槍を交えている。君が手を出すのならば、私が敗れてからにしてもらおう」


「まだるっこしいぜ戦乙女! こういうのはどっちが先か、早い者勝ちだろう! 行くぜぇぇぇ!」


 ゲルダの制止も聞かず、ケル・クラッシャーがむしろ速度を上げたではありませんか!


「クッ、この!」


 さしものゲルダもその猛突進に弾き飛ばされてしまい、道を譲りました。


 あっという間にアルベールに追いつけば、爆速の踏み込みで雄大なる角がアルベールへ突っ込んできました!


「ぐ、うおおお!!」


 何とか盾で受け止めましたが、かつてない衝撃がアルベールの全身を駆け巡ります!


 さらにケル・クラッシャーは大きく首を振って、アルベールを吹き飛ばしてしまいました!


 ズガァン!


 咄嗟に手綱から手を離したアルベールは、コメーテスから離れて岩に叩きつけられてめり込んでしまいました!


 体がバラバラになりそうな痛みに耐えながら、


「グ、ッオオ!」


 アルベールが大きく飛び退いて逃げると、そこに再びケル・クラッシャーが突っ込んできたのです!


 間一髪、アルベールは二撃目の角の攻撃を何とか回避しました。


 代わりにアルベールがめり込んでいた巨大な岩が、ケル・クラッシャーの角で粉砕されてしまったではありませんか!


「何者だ、ケル・クラッシャー!?」


 地を転がり、剣を突き付けてアルベールが叫びます。


「へっ、俺の名はマース! 悪を駆逐する正義の戦士だ! 教会野郎、俺とこのケル・クラッシャーで粉砕してやるぜ! くらえ、ケル・キャノン!」


 ガコン!


 ケル・クラッシャーの両肩の砲門が、再びアルベールを照準します。


 ドガン!!! ドガン!!!


 そして凝集したマナが破壊のエネルギーとなって砲門から発射されたのです!


「ぐうう!」


 本能的な身のこなしと歴戦の勘、そして盾のおかげで直撃をなんとか免れたアルベールですが、その余波ですら大人の男もバラバラになりかねない威力です!


「こいつで決まりだぜ!」


 再び砲門が火を噴く瞬間、疾駆するコメーテス飛び込んできました!


 間一髪、コメーテスにつかまったアルベールはマナキャノンの爆風からなんとか逃れました!


 そのまま全速力でコメーテスをケル・クラッシャーへと突っ込みます!


「ぜえい!」


 ケル・クラッシャーは一瞬、踏み込むか砲撃かの選択に止まってしまいました!


 その隙間を縫うように、アルベールの一手が先んじました!


 ガギィン!


 アルベールの剣尖が、ケル・クラッシャーの鼻面へ突き刺さりました!


 剣半ばまで深々と突き刺さりましたが、


「調子に乗るなよ、教会野郎!」


 ケル・クラッシャーが大きく首を振れば、それでアルベールとコメーテスは大きく空に放り投げられてしまいました!


 そしてケル・キャノンが火を噴きました!


 天空において身動きもままならぬ状態では果たして耐えきれるでしょうか!


 アルベールが全身に緊張をみなぎらせながら盾を構えたその時!


 ズガァン!!


 殺到するマナの砲撃が、後から駆け抜けてきた銀の閃光に追い付かれたではありませんか!


 結果、アルベールにたどり着く前にマナの砲撃が破裂して直撃には至りませんでした!


「なんだ……?」


 地に膝をつくコメーテスの馬上で、アルベールが顛末に目を白黒させてしまいました。


 すとんとすぐ近くの地面にゲルダの槍が突き刺さります。


 アルベールは確かに見ました。


 ケル・キャノンの嵐が、ゲルダの投擲した槍に込められたエネルギーで誘爆したのを!


 ゲルダは敵である己を助けてくれたというのでしょうか?


「なにしやがる戦乙女! せっかくキメられたってのに!」


「……悪いな、つい熱くなってしまった。早い者勝ちなので、焦ってしまってな」


 いつの間にか傍らにいたゲルダが、槍を引き抜いてアルベールへと振りかぶります!


「待ちやがれ! 教会野郎を倒すのは俺だ! 俺だ俺だ俺だ!! 取るんじゃねぇ!!!」


 ケル・クラッシャーがマナの砲撃を乱射しまくりながら突っ込んできます!


 アルベールもゲルダも関係のない無差別砲撃!


 ゲルダは槍を高速で回転させて前面に展開。


 アルベールをその背に守りに、マナの砲撃の嵐を凌ぎます。


 弾かれたマナの砲弾が、岩を砕き地をえぐる中でゲルダがアルベールへ叫びました。


「騎士アルベールよ、マースをどう思うか?」


「無粋な男である」


「我らの決闘はそのような男に煩わされれる程度のものか?」


「……否! 否であるぞ、戦乙女ゲルダ!」


 アルベールが闘志をみなぎらせて手綱を握りしめました。


 そして最後の宝石炉を右手甲にセット!


 循環するマナを集中させてオーバーロードさせれば、燃え盛る蒼い炎のような莫大なマナが騎士鎧から吹き出します!


 それに呼応してコメーテスも力強く立ち上がります!


 吹き荒れる蒼いマナにマナ・キャノンがことごとく逸らされて、晴れた視界の向こうからケル・クラッシャーが突っ込んできました!


 それを、二騎が左右に展開して躱します。


 そしてアルベールとゲルダが打ち合い始めました!


 ゲルダの高速槍術は本領を発揮し、もはや一振りで九条の銀の閃光が走るかのようです!


 アルベールはそのことごとくを盾で防ぎきり、槍の軌道を大きく外へ逸らしてしまいました。


 そして天を切り裂く剣勢の振り下ろし!


 しかしゲルダは非常に小さくまとまった所作で槍を引き戻し、寸前で石突で剣を受け、巧みな円運動で受け流してしまいました!


 剣が絶妙に逸らされる柔らかな曲線の妙技にアルベールも瞠目せざるをえませんでした!


 ゲルダもまた、技で受け切ったはずが左肩鎧が剣で切り裂かれ瞠目でした。


 槍の円運動は止まりません。


 剣を受け流した軌道が歪み、石突がアルベールの側頭部を狙います!


 アルベールが馬上で大きくのけぞれば、石突が額を傷つけて血の華がぱっと咲きました。


 気づけば左手側に回り込んでいたゲルダの槍が、横殴りの雨のように降り注ぎます!


 蒼いマナを纏った盾が致命傷に至る軌道を防ぎ続けますが、腰部装甲が、胸部装甲が、頬肉が、肩肉が銀の槍尖に抉られていきます。


 槍の威力は痛烈で、盾越しに左手甲がきしんで装甲にひびが入り始めました。


 それでもなお。


 防ぎながら堪え続け、むしろ距離を縮め……


「ぬがああ!」


 盾が槍を押し返し、ゲルダの完全兜を剣が横薙ぎに一撃!


 したはずが!


 切り裂いたのは、空!


 戦乙女の銀影は疾風のようにアルベールの周囲を飛び回り、右と思えば左、前と思えば後ろ、瞬きする間に上!


 四方八方から鋭く突きが繰り出されアルベールは神経を研ぎ澄ませてその槍を凌いでいきました。


 銀影の隙間、凛々し気な碧眼が笑っているのをアルベールは見ました。


 そう、ゲルダの碧眼が片方だけ見えたのです!


 先の横薙ぎは完全に躱されたわけではなく、バイザー部の片側に届いていたのです。


 届かないわけではない。


 その想いに奮い立ち、アルベールは強く盾を構えました!


「こ、この野郎! 俺を無視するんじゃねぇ!」


 そんな蒼と銀の高速の激闘に、ようやく追いついてきたケル・クラッシャーが怒り心頭にケル・キャノンを乱射してきます!


 そのマナの砲撃を、アルベールとゲルダは縫うように躱しながら剣と槍を交えます。


 むしろ機動力を強力な武器とするゲルダの足を引っ張り、アルベールの不利が埋まってしまっているではありませんか!


「ふざけるな教会野郎!? クソ! クソ! クソォ!」


 激怒のままにケル・クラッシャーが疾駆してきます。


 まさにそのタイミングで、ゲルダが渾身の槍をアルベールへと突き付けて、


 ギャリリリャリャリャリャ!!!


 アルベールが盾でその槍を、ほどんと直角に逸らしつくしてしまったではありませんか!


「んなぁにぃぃぃ!?」


 バギャーン!


 その結果、ケル・クラッシャーの片方の角とゲルダの槍がぶつかり合い、なんと槍が角をへし折ってしまいました!


 槍の威力に、さらに盾の威力を上乗せした衝撃に突進のバランスが崩れて、ケル・クラッシャーが盛大に転倒!


 巻き込まれないように跳躍した二騎は、天空で打ち合いを続けます。


「ヂクショウ……ヂクショウヂクショウヂクショウ! お前ら! お前ら絶対に許さねぇ!!!」


 アルベールとゲルダの乗馬が着地して、再びぶつかり合う直前のことでした。


 立ち上がり、狂ったように走り寄るケル・クラッシャーが鋼の顎を大きく開きます。


 その喉奥には大きな宝珠が鎮座しており、膨大なマナが収束していくではありませんか!


「まとめて吹き飛ばしてやる! 食らいやがれクソ野郎ども! 必殺!!!」


 これの収束したマナを照射する一撃こそ、ケル・クラッシャー最大の必殺技!


「ケル・ブラスト!!!」


「……チッ!」


 ゲルダが白馬から飛び降りて、アルベールを突き飛ばして、前に出ました!


 超至近距離!


 ゲルダを爆心地とした、膨大なマナが吹き荒れるエネルギー砲撃が発射されました!


「ゲルダ!」


 余波ですら人を焼滅せしめるに十分なエネルギーの奔流が荒れ狂う中……


 ズガンッ!!


 熱と光を突っ切って、ケル・クラッシャーの喉奥へとゲルダの槍が突き刺さります!


 エネルギーの収束を担っていた宝珠が砕けて、ケル・ブラストが途切れました。


「マースよ、」


 間髪入れずコメーテスの跳躍!


 天空よりケル・クラッシャーへと突っ込んだアルベールは、槍の石突を盾で盛大に打撃しました!


「邪魔だァ!」


 ゴギャアアアン!!!


 まるで釘が槌で打たれるように、突き刺さった槍が盾の一撃でより深刻に突き刺さり!


 ケル・クラッシャーの口腔から小規模の爆発を繰り返して後退!


 ボガァァァン!!!


 そしてついには頭部が盛大に爆発して倒れてしまいました!

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