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神聖騎セフィロマキナ  作者: ローリング蕎麦ット
第五話 アルベールvs鋼のザクセン軍
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アルベールvs鋼のザクセン軍 第二節


 アカデミアの中は、広々としたは石造りでした。


 騎士鎧の整備に関わっていそうな作業服の者や、学者のような者が忙しく行きかっています。


 すれ違う者たちも、アルベールを気にしているように見遣ってきます。


 その視線も気にせず、アルベールが小首をかしげます。


「悪魔博士デュゲルよ、いかなる風の吹き回しか? 教会の信徒を向かえるなど」


「ふん、貴様は気に食わぬが聞きたいことができた。盾の話じゃ」


「盾だと?」


 アルベールにデュゲルが答えるよりも先に、アディラがある扉の前で車椅子を止めました。


 アルキダモスが心得たように、その先にある扉を開きます。


 その向こうに広がっていたのは、たくさんの武器でした。


「わしの研究室のひとつじゃ」


 武器庫ではなく、武器をひとつひとつ研究している広い部屋のようでした。


 アディラが車椅子を押して進んでいく先には、ズタズタの騎士鎧が寝かされておりました。


 騎士鎧の原型をなんとか保っているものの、剣も完全兜も失せて右半分は壊滅状態です。


 そしてその隣に、傷ひとつ負っていない盾が立てかけられています。


「私の装備か、これは」


 あの高度から落ちて、完全にバラバラになっていないと感心してしまいました。


 そして己を守ってくれた騎士鎧と神に感謝をして、十字を切りました。


「騎士アルベールよ、この盾を設計したのは誰じゃ?」


 そんなアルベールの隣から、デュゲルが燃えるような瞳で問いかけます。


「とあるシスターだが」


「修道女じゃと? ……髪の色はなんじゃ? 長さは? 名前は?」


 アルベールはひどく興奮気味のデュゲルに困惑しました。


「髪の色は黒い。前髪が顔を隠すほどに長いのだ。修道女ドロシーという」


「ドロシー!」


 デュゲルが、謁見の間でゼヌと言い争っていた時以上の激昂を見せました。


「やはりあの魔女か! よもや騎士どもにに組しておるとはな!」


 がつんがつんと杖で石畳を叩く様子は、怒りに満ち満ちています。


「デュゲル様、落ち着いてください」


「黙れ、わしは落ち着いておるわ!」


「デュゲル博士、貴公は修道女ドロシーを知っているのか?」


 アルベールが息を切らせるデュゲルに尋ねると、憎しみの炎をたたえた双眸が睨みつけてきます。


「修道女じゃと? 片腹痛い! あの魔女こそ、アカデミアを創った女よ! 好き放題に勝手な研究をしくさり、わしの研究をいつも悠々と超えていったあばずれめ! 追放されてどこかへ消え失せたと思えば、修道女! 修道女とはな! 馬鹿にするでないわ!」


「修道女ドロシーがここにいたというのか」


 アルベールは目を丸くして、ドロシーを思い返します。


 想像上のドロシーが、アルベールに向かってダブルピースをしました。


 確かに得体のしれない人物でしたが、まさかこの悪徳の都からやってきていたとは!


 ふとアディラが思い出したように言葉を零します。


「デュゲル様、以前におっしゃっていた、どうしても勝てなかった相手というのは……」


「そうよ、わしが唯一届かなんだ最悪の頭脳。それが魔女ドロシーよ。野垂れ死になどはせぬと思っておったが、こんな形でまたわしに立ちふさがるか!」


 狂乱したような状態で、デュゲルは杖でアルベールの盾を叩きます。


 虚しい打音が研究室に響きました。


「おい貴様、あの赤蜥蜴の攻撃もこの盾で防いだらしいな」


「この盾でしか、防げなかった」


「当然じゃ、性能に任せた赤蜥蜴の攻撃など、この盾を使いこなせればな。だが正気ではない設計よ。宝石炉の接続を、戦闘中に切り替えおるな?」


「まさしく。流石に見抜くか、悪魔博士」


「馬鹿にするでないわ。現物があるのじゃ。分析できぬはずがなかろう」


 デュゲルが鼻を鳴らしました。


「その分析ももう終わった。持って帰れ。もはや邪魔じゃ」


 その言葉には、みんなが驚いた顔になります。


「おじいちゃまったら、アルベールちゃんに味方しちゃうの?」


「違う。わしはな、魔女ドロシーに勝たねばならぬのじゃ。さもなくばわしがやってきた技術の研究になんの意味があろうか。ならばこそ騎士アルベールの盾を戦場で打ち破らねばならぬ。魔女ドロシーの造った盾が性能を発揮した上で勝たねばならぬのじゃ。これは矜持の問題よ」


 デュゲルの憎々し気ながらまっすぐな言葉に、アルベールは胸に響くものを感じました。


「デュゲル博士よ、貴公のその正々堂々たる意気に敬意を表する」


「黙れ。疾く戦場に出て、わしの兵器に貫かれよ」


 額のしわをいっそう深く刻んでデュゲルが吐き捨てるように言えば、顎で外を示しました。


 それに応じてアディラが、アルベールたちに一礼をして車椅子を押して出て行きます。


 残されたアルベールが騎士鎧の残骸に触れてゆきます。


 盾はよいとして、騎士鎧は再び装備できる状態ではありません。


 軽く調べてみると、九つあった宝石炉も使い物になるのは四つくらいです。


 上等なサファイアを加工して精製された、高いマナ出力と安定性を兼ねそろえた上品です。


「残り四つか」


「宝石炉だけ回収して、適当な騎士鎧に積んじゃう?」


「……いや、この騎士鎧を使う」


 例えばこの都で他に宝石炉を仕入れて組み合わせても、むしろ出力が安定しないのは目に見えています。


 しかしもはや残骸ともいえるアルベールの騎士鎧です。


 アルキダモスが使えるのかと小首をかしげました。


「ベルセルクという第一世代の騎士鎧……いや、第零世代の騎士鎧を知っているか?」


「ザクセン人の装備でしょ? 確か、いーっちばん最初の宝石炉搭載兵装」


「そうだ。当時のものは完全に身を覆い尽くす鎧の形状ではなく、身体の要所を装う程度のものだがな。その水準まで落とし込む」


「なるほどねん。宝石炉四つで足りちゃうの?」


「当時のベルセルクは宝石炉が三つだったと聞く。似た具合で纏められるであろう」


「出力、とっても下がっちゃうわねぇ」


「仕方あるまい。アルキダモスよ、騎士鎧を整備できる場所はないだろうか?」


 アルキダモが人差し指を下唇につけてん~と悩んだ顔になります。


「ここにもあるわ。万魔殿にもね。けどフランク王国のアルベールちゃんがそこをしれっと使うのは、ねぇ?」


「正論である」


「あ!」


 しかしアルキダモスは、閃いたように指を鳴らしました。


「あるわ。ゼヌの館なら、整備できる場所あるかも」


「奴の館か」


 ズタズタの騎士鎧をひとまとめにして運び出せば、


 ふたりが並んで外に出ると、三十人ほどの衛兵たちがのされて倒れてゼヌが暇そうにしておりました。


「おう、戻ったか」


「うむ。それよりもなんだこのありさまは」


「もしかして常駐してる衛兵全員のしちゃったのかしら?」


 のびている衛兵たちの数をかぞえていたアルキダモスが呆れたように言いました。


「これでも手加減しておったんじゃがな。結局みんなのしてしもうてのう、流石にやりすぎたと思ってな代わりに衛兵をしておったわけよ」


「馬鹿ねぇ」


 アルキダモスがひとり、またひとりと気付けをして回ります。


 五人ほどを起せば、指示をして他の者たちの気付けを任せました。


「ゼヌよ、貴公の館には騎士鎧を整備する設備があると聞いた。使わせてくれぬか?」


「おお! よいとも。金が腐るほど余っておる故、とにかくでかくなんでもそろった館を建ててのう。結局は自分でさっぱり使っておらなんだ故、好きにするがよい」


「かたじけない」


 ほどほどの人数が起き上がれば、三人は来た道を戻ってゆきます。


「ゼヌよ、もうふたつ必要なものがある」


「馬と剣じゃな」


「まさしく。これで都合できるか?」


 アルベールがサファイアの宝石炉をひとつ、ゼヌへと差し出しました。


 騎士鎧の残骸から回収したものでした。


 それをゼヌは、手を振って豪快に笑いました。


「要らん。わしの屋敷に山とある適当なのを持ってゆけ!」


「ゼヌよ、貴公の豪傑ぶりは理解しておるが私としても施されても据わりが悪い。これを受け取るだけのことはしてくれぬか」


「遠慮しなくていいわよ、アルベールちゃん。こいつったら褒賞とかぜーんぶため込んだり、手当たり次第にばらまくのが趣味なんだから。だからぶっちゃけ、こいつの屋敷ってそういう金品をため込む倉庫みたいになってるんだから」


「そういうことじゃ。貴様が国に帰ろうとこの都を出た瞬間、わっと襲撃されるのは目に見えておる。持てるだけ強い武器を持ってゆくがよい」


 再三、ゼヌから勧められアルベールも最後には有難く受け取ることにしました。


 やがてゼヌの館が見えてきました。


 フランク王国でもそうそう見ない、たいそう立派な屋敷でした。


「おかえりなさいませ」


 門番が巨大で立派な門を開けば、館に続く道行きに庭師たちも恭しくゼヌの帰りに挨拶をします。


 豪奢な館の門を開けば、使用人たちが列を作ってゼヌを迎えました。


「おかえりなさいませ旦那様、アルキダモス様。それに……」


「おう、客じゃ。ほれ、前に話したじゃろう、アルベールじゃ。騎士鎧の整備をしたいらしい」


「では格納庫へ?」


「うむ」


 老境の執事らしい男が、アルベールからひとまとめにした騎士鎧を預かれば三人を先導して歩きました。


 館の裏手にある大きな格納庫へと足を踏み入れると、そこには数多の武器や騎士鎧が綺麗に整列しておりました。


「陛下から賜ったものや、敵兵の研究にそろえたものじゃ。好きに使え。その騎士鎧を使ってもよいのだぞ」


 見れば武器は上質なものばかりで、騎士鎧も各国が配備しているものをそろえています。


 フランク王国の騎士鎧もあり、再現したものかあるいははぎ取ったものか。


 はぎ取ったにしては傷もなにもなく、考えたくはありませんが横流しされた可能性があります。


「それぞれの騎士鎧は、それぞれ微細な調整がされているのは知っていよう。私は私を積み重ねて来た、この騎士鎧で戦う」


「ふっふっふっ、貴様の武具も果報者よ。もう万魔殿に戻るまでもなかろう、この館で寝泊まりしてゆけ、騎士アルベールよ。存分に帰還に準備をするがよいわ!」


 こうしてアルベールは、残骸のような騎士鎧を改修していきました。


 改修と呼ぶにはおこがましい、残骸のリサイクルです。


 肩鎧と胸部装甲は右が欠けており、完全兜もありません。


 比較的マシな状態のは腕甲と脚甲もリペイントが必要で、腰部装甲もいくらか手入れが必要でした。


 これらにマナを乗せて循環させるケーブルをつなげてゆきます。


 本来ならば装甲の内側で保護されるべきケーブルですが、むき出しで接続されてなんともワイルドな趣きです。


 胸部と腰部にひとつずつ宝石炉を積んで改修は完了です。


 このふたつと、盾のひとつ。


 それがこの騎士鎧で出力できる宝石炉の限界でしょう。


 本来のスペックからすれば1/5といったところです。


 アルベールはこの作業を五日ほどで終わらせて伸びをします。


 集中して作業をすれば二日で終わったかもしれませんが、何かと邪魔が入りました。


 というのも、ゼヌが毎夜のように開く宴に引っ張り出されたり。


 そこで教会に興味を持つ異教の者が話を聞きにきたり。


 アルベールも友好的な、せめて中立の立場をとる他宗派の者をないがしろにはせずに丁寧に応じました。


 他にも教会の信徒を憎む者に夜な夜な暗殺を仕掛けられたり、淫魔の体術を使う美女たちが貞操が狙ってくるのを返り討ちにしたり。


 新たなるゴモラを出歩いてトラブルに巻き込まれたり。


 なにかと忙しい五日だったのです。


「終わったか」


 酒瓶をかっくらいながらゼヌがやってきました。


 そしてハンガーされた騎士鎧と、その隣に転がる余剰の宝石炉ふたつを眺めてゼヌが眉をしかめます。


「なんじゃ、みすぼらしいのう。宝石炉もふたつ余っておるではないか」


「今の私ができる上限である。ただ剣ばかりは、拝借させてもらう」


 アルベールが、ひとふりの剣をゼヌへ掲げます。


 実に朴訥で変哲の無い剣でした。


 しかし上等な鉄を使って打たれた逸品です。


 ゼヌがにやりと笑いました。


「良い目利きだ」


「返しに来るぞ」


「要らんわい。天秤の騎士が言うておったであろう、互いに命を助けあったがわしの方が価値ありと。その価値の差分じゃ、取っておけ」


「納得できるものか」


「ふん、ならばもっと納得できなくなるぞ、貴様」


 ゼヌが顎で外を指しました。


 共に外に出ると、ゼヌの執事が艶やかな黒毛の見事な馬の手綱を握って立っておりました。


 黒々とした体毛ですが、額に白い小星を備えた馬でした。


 馬はじっとアルベールを見つめてきます。


 アルベールはその澄んだ瞳から目が離せなくなりました。


 馬と、通じ合うものを感じた気がしたのです。


「こちらの馬は戦利品として連れて来られたと聞いております。強い騎士の乗馬だったとか。故に体躯は立派で気性も強いのですが、黒騎士団の誰にも従いませんでした。おそらくこの都において、アルベール様になら心を開くのではないかと引き取って参りました」


 ゼヌの執事が微笑みながら手綱をアルベールへ預けました。


 手綱を引いて、アルベールが馬の頬に触れました。


 馬は頭を垂れて、静かにそれを受け入れます。


「ゴラスが馬を選ぶ目は一級じゃ。どうやら思った通りの相性じゃな。使うがよい、どうせこの都におっても役に立たぬ馬なればな」


 ゼヌの執事ゴラスが頭を下げました。


 アルベールが嘆息します。


「貴公、やはり宝石炉を受け取ってくれぬか。これほどの友誼に対して、何もせず帰還せよと言うのか」


「わしへの返礼など簡単じゃ。戦場にてまみえ、存分に戦え。これぞ我らの応報よ」


「戦士め」


「貴様もそうじゃ」


 互いに笑いあえば、アルベールが颯爽と黒馬にまたがりました。


 馬の皮膚の下で脈動する筋肉ははち切れんばかりの張りです。


「名は?」


「コメーテスと」


「コメーテス! なるほど、見事な夜の色に閃く彗星を額に宿す、貴公はコメーテスであるか!」


 アルベールの声に、コメーテスはいなないて応じました。


 こうしてアルベールは新たなるゴモラを出る準備を整えたのでした。


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