アルベールvs赤い竜 インターミッション
アルベールが目覚めると、そこは豪奢な客間でした。
どうやら質の良いベッドに寝かされているようでした。
「ここは……痛ッ!?」
清潔なシーツを押しのけて身を起せば、全身に激痛が走ります。
体がバラバラになりそうな痛みをこらえて、呼吸を整えていると扉が開きました。
「おう、起きたか」
入ってきたのは、筋骨隆々の体からほとばしる活力が目に見えるような、髭面の大きな男でした。
男はアルベールのすぐ隣に座って快活に笑いました。
三十歳は超えているようですが、その朗らかさはどこか少年っぽさを残して見えました。
「誰じゃという顔よな。ゼヌじゃ」
「貴公が……!」
身構えるために力を入れようとして、再びアルベールに激痛が襲います。
「ああ、よせよせ。まだ寝ておれ。貴様、本当に死ぬぞ」
ゼヌが呆れたように言いました。
「弱いくせに無理をしおって。貴様、まさかあのように破損した騎士鎧で突っ込んだのか?」
「私は……確か……」
アルベールが頭を抱えて記憶を探ります。
そうです、最後に見たのはアルマースから身を放り投げて、赤い竜騎士に突っ込んだ広く広い蒼穹という光景でした。
あの超高々度から落ちたのです。
死を辞さない覚悟ではありましたが、今確かに生きているではありませんか!
「お得意の騎士道というやつか。わしでなければ、落下の衝撃でふたり諸共であったぞ!」
「……では貴公が助けてくれたというわけか?」
「まぁ、そうとも言えるな」
「……かたじけない」
アルベールが正々堂々と、真面目に礼を言いました。
それにゼヌはにっかりと、やさしい炎のように笑い返します。
「約束したではないか。あの船の誰もの命を奪わぬとな。わしは最強なのだ! この程度、茶飯事よ! むしろこのわしを相手によくぞあれだけ食い下がったものよ、アルベール! 特に守りだ。貴様の守りは大したものであった。フランク随一の騎士という名にそぐわぬ!」
ゼヌの言葉に、アルベールが難しい顔で唇を引き結びます。
そして観念したように溜息を吐き出しました。
「騎士として、悪魔教の騎士にこてんぱんにされた無念は拭いきれぬ。しかし男として、私より高みにいる貴公に評価される嬉しさはいやがおうにもこの胸を熱くする」
「正直な男め!」
ゼヌが水差しを掲げました。
「飲むか?」
「いただこう」
「よしきた」
「おいよせ、自分で飲む。貴公は絶対に私がむせてももがもがぶほっ!?」
水差しを口に突っ込まれて、アルベールがむせました。
むせいた拍子に全身に激痛が走り死ぬかと思いました。
「いやぁすまんすまん。こういうのは力加減が分からんでのう」
「ごほっ……それよりここはどこだ? 貴公が私を手当てしてくれたのか?」
「いや、手当は別の者だ。人の体をまさぐるのが好きな変態でな。貴様の体も隅々までまさぐり、息を荒げておったぞ」
「神よ!」
アルベールは主に祈りを捧げました。
「そしてここはだのう、」
ゼヌが顎のヒゲを撫でながら、歓迎の笑みをアルベールへとたたえました。
「新たなるゴモラである。冒涜の都へようこそ、敬虔なる騎士よ」




