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神聖騎セフィロマキナ  作者: ローリング蕎麦ット
第三話 アルベールvs赤い竜
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アルベールvs赤い竜 後編


 ゼヌの大剣が聖剣アルマースを防ぎます。


 が、両手で柄を握りしめ、力をこめて踏ん張っているではありませんか!


 その足元の甲板はひしゃげてめり込み、凄絶なほどの威力のほどが伺えました!


 華奢な少女であるクレメンティナがここまでの超パワーを出力できる秘密は、聖剣アルマースにありました。


 聖剣と呼ばれる伝説の武器には、それ単体でマナを出力する動力機関としての特性がありました。


 選ばれた使い手はこのマナを上手く取り入れて運行させることができ、騎士鎧を装備した者のように超人的なパワーを発揮することができるのです。


 いえ、そもそも騎士鎧が聖剣の使い手たちを模倣・再現しようとしたものであり、未だにその域に達していません。


 つまり聖剣アルマースを握っているクレメンティナは今、アルベールたちよりも強力な存在なのです!


「この船は聖剣のマナで動いておろう? 貴様が手にしてしまっているのならば、落ちるのではないか?」


「落ちるまでに討ち滅ぼせばよろしくてよ!!!」


「道理である。が、道を通す力があるかな、クレメンティナ!」


 実際、艦橋は切迫詰まった状態でした。


 メインの動力が切れた状態で艦を運用するために、あらゆるやりくりがなされ、副艦長のグレゴリウスが艦長席で艦を維持しているのです。


 その焦燥ごと燃えるような気迫でクレメンティナがゼヌを攻めたてます。


 人智を超越した動きでした。


 蒼い残影がちかちかと瞬くたび、聖剣が必殺の角度で閃くのです。


 一秒で万全のアルベールを十回殺せる剣の乱舞を、しかしゼヌは大剣で凌ぎ続けます。


 クレメンティナの剣は蒼く煌めく星光。


 一方のゼヌは燎原のように一切合切を飲み込まん炎勢の如き剣でした。


「ぐはは! やるではないかクレメンティナよ! 殺さぬ誓いを破りそうになるわい!」


 激烈の攻防も最中、ゼヌの笑い声が響きます。


「誓い? 何をおっしゃって……」


「わしを解放してくれた恩ゆえの誓いである! わしをあの赤い竜から解き放ってくれたこの船の乗組員全ての命を、長らえさせるという恩寵だ!」

 

「恩寵と!? 恩寵と抜かしあそばしたか!? この……痴れ者!!」


 クレメンティナの怒りに呼応するかのように、アルマースから蒼いマナが噴き上がりました。


 それを束ねて撃ち出せば、空中戦艦アルマースの主砲そっくりの一閃がゼヌへと殺到しました!


「ぬぅぅううおおおおああああ!!!」


 この一撃には、さしもの赤い竜騎士も大剣を盾に構え翼で身を護る完全なる防御態勢です。


 地獄から噴き上がる炎のように、真紅のマナを放出して蒼いマナの奔流に抗します。


 天を裂く一閃が止めば、翼を焼失させ、騎士鎧のあちこちを損傷させながらも、なんとゼヌは堪え切ったではありませんか!

 

「珠玉の一撃、生身でこれほどの一撃を放てるとは感服仕ったァ!!! この翼を手折った一事、聖剣アルマース最後の輝きとして語り継いでやろう!」


 ゼヌが爆速の踏み込みで大剣を大上段から振り下ろしました!


 真紅のマナを轟々と噴き上げる大剣に比べて、アルマースは一時的にマナを放出しきっている状態です。


 すぐに充填されますがそれにも数秒を要する状態でした。


 この瞬間、ゼヌであれば聖剣を砕ける確実なる一瞬!


 ガギャーン!


 しかし大剣がぶつかったのは聖剣ではありませんでした。


 そうです、アルベールがゼヌの前に立ち塞がり、その盾で大剣を受け止めたのです!


 煌々と輝く蒼いマナの防御障壁はすっかり小さくなり、衝撃に膝をつきながら、アルベールはクレメンティナを護り切ったのです!


「がはっ!」


 代償にずたずただった騎士鎧がさらに破損して、宝石炉が六つ機能不全を起こし、完全兜も半分が砕けて素顔が覗いています。


「アルベール様!」


「私ではなく!」


「ッ……はい!」


 アルベールの献身に、クレメンティナの心が怒りという名の曇りを払拭しつくしました。


 聖少女と呼ばれるに相応しい精神が聖剣アルマースをゼヌに突きつければ、冴え渡る剣技は赤い竜騎士を圧倒しているではありませんか!


「なんと強くなっておる!?」


 そもそもこの場においてクレメンティナとゼヌを比べれば、ほぼ互角であると言えました。


 義憤で平静を欠いたクレメンティナは優勢を許しましたが、精神を持ち直した今、ダメージを重ねたゼヌに負ける道理はありません。


 静かに下段に構え、猛炎のように荒れ狂う大剣をことごとく鎮火してはゼヌの騎士鎧にダメージを刻みます。


「クレメンティナ! クレメンティナ!! このわしとこうも斬り結べるとは!!」


「何を喜ぶ」


「存分に力を振るう楽しみに!」


「剣を取る者は皆、剣で滅びるぞ」


「本懐である!!!」


 ダメージを蓄積すればするほどに勢いを増す火のように、ゼヌの大剣は激しさを増していきました。


 瞑想の精神状態でそれを封殺し続け、クレメンティナは冷静に計算します。


 このままでは艦が落ちるまでに仕留め切れない、と。


 せめてアルベールかハヴェルが動いてくれればと思った時、クレメンティナは背後で騎士が立ち上がる気配を感じとりました。


「クレメンティナよ、貴様はその強大な力を振るえる特別感、優越感、全能感、快感はないか!」


「ありません。全ては主なる神が与えたもうた恩寵であり、わたくしのものではありません」


「否、否、否!!! クレメンティナよ、それは貴様だけのものである! 認めよ、貴様は特別で、優位にあり、それを謳歌できる力があるのだ! 開放せよ、己を! クレメンティナよ、わしは貴様を――」


 ゼヌが加熱する想いと共に、大剣を渾身の力で振り下ろしました。


「くどい」


 しかしそれをクレメンティナは、するりとすげなく躱してしまったではありませんか!


 もう語ることもない、と言わんばかりに。


「赤い竜よ、見るに耐えんから教えてやる」 


 クレメンティナが身を躱し、ゼヌの視界に飛び込んできたのはハヴェルの姿でした。


 しかもその手には巨大な巨大な弓を構えているではありませんか。


 その弓は、騎士鎧でした。


 ハヴェルの騎士鎧は特別なもので、手甲と脚甲を除くパーツが身の丈ほどの弓へと変形するのです。


 今、手甲と脚甲のみを装ったハヴェルが、騎士鎧が変形した弓を引き絞り、蒼いマナの矢を解き放ちました。


「女性を砕き口説きたければ剣ではなく花を用意したまえ」


 渾身の蒼いマナの矢はゼヌの胴を射抜き、大きく大きく吹き飛ばし天空へと追放してしまいました!


「ぐぬ、おおおおお!!! クレメンティナアアアアアア!!!!」

 

 同時、弓に変形した騎士鎧がバチバチとショートを繰り返し、沈黙してしまいました。


 ハヴェルの騎士鎧は変形機構のためやや強度に難があり、ゼヌの攻撃に稼働が怪しくなっていたのですが、最後の仕事はまっとうしてくれたようです。


「やった……か」


 ハヴェルが大きく息をつき、膝を突きました。


「ハヴェル様!」


 駆け寄るクレメンティナへ、ハヴェルが掌を突き付けます。


「クレメンティナ殿、私ではなくこの船を……」


 ハヴェルが言葉にする途中、甲板が揺さぶられました。


 そしてどんどん船の高度が下がっているのです。


 聖剣を外した状態でのアルマースの運用は限界でした。


 クレメンティナはもどかしそうな顔を一瞬だけ覗かせて、ハヴェルに十字を切って踵を返します。


「船を立て直し次第、すぐに戻って参りますわ。どうかしばしご辛抱くださいまし」


 そそと駆け去るクレメンティナをハヴェルが見送ります。


「アルベールよ、動けるか?」


「二十秒動けば機能が完全に停止するであろう」


 ハヴェルが声をかければ、少し遠くで倒れたままのアルベールが疲労を滲ませた声で応じました。


「貴公、最後に良いところを持っていったな」


「最後に至るまで気絶していたのだ。情けない男だと笑うがよい」


「だが目醒めた。我らふたり、クレメンティナ殿を守り切れたのだ。共に誇ろうぞ」


「……そうだな」


 やがて不安定だったアルマースが、円滑に航空し始めました。


 そして落ちていた高度が徐々に持ち上がっていく感覚に安心し始めた時。


 その声が聞こえてきたのです。


「クレメンティナアアアアアア!!!!!」


「馬鹿な!?」


 ハヴェルがよろめく体で欄干から身を乗り出せば、翼を失ってなお背部ノズルによるマナジェットだけでアルマースを追いかけるゼヌの姿がありました!


「奴め、化け物か!」


「ハヴェルよ、ゼヌが来るのだな!」


「これは……いかん、逃げ切れん!」


「……分かった」


 次の行動に迷っていたハヴェルの横を、アルベールが迷いなく駆け抜けました。


「アルベール!」


 天空へとアルベールが身を躍らせて、


「赤き竜の騎士よ! 聖少女の船にはもう指一本触れさせぬぞ!」


「貴様、アルベール!!!」


「もってくれよ、私の騎士鎧!!」

 

 天空でアルベールとゼヌがぶつかり合いました!


 さしものゼヌも、ダメージが蓄積した状態で二騎分の重量を抱えるのは難しく、天空でよれてゆらぎ……

 

 そして諸共にピレネー山脈へと堕ちて行きました。

 

 「アルベール! アルベーーーーール!!!!!」


 天にハヴェルの声が虚しく響きました。


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