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56 富士宮と鉄板焼き

 富士宮の駅前で自撮りタイムした後に、朋美は「ここから浅間あさま大社に寄って、お店に行く。あんまり長居はできないけど」と言ってきた。虹子は「うん」と答えて、早足の朋美に付いて行く。


 とにかく朋美の歩調は男子顔負けなぐらいに速い。しかも、それなりに重そうなリュックを背負ってだ。


 虹子も早歩きは苦手ではないので良いが、朋美の友達はこのペースしんどいだろうなと感じながらも、導かれるがままに進んで行く。


 用水路のある道の先に巨大な赤い鳥居が見えた。


「浅間大社だ!」


 思わず叫んだ虹子も「ぶるる」の静岡版を読んだ時に載っていたぐらい有名な観光スポットだが、虹子が提案するまでもなく、朋美が予定に入れてくれていた。とりあえず鳥居の目の前まで歩いて行く。


 左手の観光案内所にはキャンプをテーマにした有名なアニメキャラのボードが出ていた。漫画アニメ好きな朋美がはしゃいでいるのを虹子は無視して、目の前の鳥居を見上げる。


 虹子「おっきい。弁天島の鳥居みたい」

 朋美「まあ・・・鳥居ってどれも見た目は変わらない気がするけど」

 虹子「迫力だよ。しかも富士山が鳥居の横にバッチリ見える」

 朋美「写真で見たけど、生は迫力が違うね」

 虹子「そりゃそうだよ」

 朋美「最近まで旅行雑誌で行った気になってた奴が、よく言うわ」


 鳥居の前で景色を撮り、ピン撮り、ペア撮りと、気が付いたら虹子のスマホのギャラリーには10枚以上も鳥居と富士山が映った画像が並んでいた。


 さらに境内を進んで、浅間大社の名物である狛犬や流鏑馬やぶさめ像の前で写真を撮り、手水舎で両手と口を清めて楼門をくぐった。


 虹子「そういえば浅間大社ってどういう神社?」

 朋美「おっほん。富士山本宮浅間大社と言って、言って・・・」

 虹子「ん?ん?」

 朋美「自分でモグれよ」

 虹子「だっさ」

 朋美「あんたもな」


 浅間大社は駿河するが国の一宮、つまり最も格の高い神社で、全国各地にある浅間神社の総本社である。美の女神が宿るとされ、安産や縁結びにもご利益がある。


 MOOGLEでその情報を目の当たりにするなり、虹子と朋美は顔を見合わせた。


 朋美「結ばれる縁がにゃい」

 虹子「あたしもにゃいな」

 朋美「虹子、何度も断ってたじゃん、男子からの告白」

 虹子「弟子入りのな」

 朋美「恋愛以外にも、ご利益はあるらしいから」

 虹子「そもそも、目の前でスマホ検索してる女子にご利益くれるのかな」

 朋美「神様、そんなせこくないって」


 そうは言いつつも、二人は改めてスマホ検索で汚してしまった手を再び手水舎で清めて、本殿まで進む。


 小銭を賽銭さいせん箱に投げ入れると、書かれている説明通りに二拝、二拍手、お祈り、最後にお辞儀をした。


 本殿ほんでんから背を向けて門を出ると、朋美は「何お願いしたの?」と聞いてきた。


「そんなの言ったら叶わないでしょ」


 そう反論する虹子に、朋美が「じゃあ絵馬を買うか」と提案した。


 虹子「どうせ、それで何願ったか知ろうという魂胆こんたんでしょ」

 朋美「バレたか。まあ願い事なんて心の中にしまっておけばいいのよ」

 虹子「それを吐かせようとしたのあんただろ」

 朋美「そうだ。あっちに池があって、モメンタ映えスポットだって」

 虹子「行こう行こう。あたし、モメンタやってないけど」


 神社の右奥にある池に行くと、たくさんのカルガモが水面に浮かんだり、木陰の水辺にたたずんでいる。


「かわいい〜」


 動物好きの朋美が珍しく女の子っぽい声で叫ぶ。カルガモを横目に見ながら池の端まで歩いて行くと、脇の用水路が伸びる先に大きな富士山が見えた。


 ここでも虹子と朋美は何枚撮ったか数え切れないほど風景の撮影と自撮りに興じた。通りの向こう側には見慣れたカフェのロゴが目に入る。


 虹子「ここにもマリーズコーヒーあるじゃん」

 朋美「うん。MOOGLE先生で調査済だけど、焼きそば食う時間が無くなるぞ」

 虹子「確かに、お腹が減ってきた」

 朋美「レッツゴー三匹ならぬレッツゴー二匹だ!」

 虹子「意味不明」

 朋美「YOUMOVEで見た昔のお笑いトリオだよ」

 虹子「朋美ってほんと、昭和の番組とか好きだよね」

 朋美「おばあちゃん子だから。平成生まれの昭和育ちってね。レッツゴー!」


 浅間大社からわずか3分のところに、唐銅からかねあかりの実家が営む鉄板焼き屋「あかり」があった。


 二階と三階が住居らしく、脇から見えるベランダに洗濯物がかけてあって、生活感がある。お店の正面は老舗しにせらしい古そうな作りだが、引き戸を開けると、中はぎっしりだった。


 地元客と観光客が入り混じって、長テーブルの巨大な鉄板を囲んでいる。左手の奥に畳の席もあり、家族客で占められていた。


「いらっしゃい。あかりのお友達?」


 エプロンをした女性が話しかけてきた。


「はい。朝丘虹子です。こちらは香月朋美です」


 虹子はそう答える。あかりと友達と言うほどの関係ではないが、あえて訂正しないでおいた。


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