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36 ”スーパー歴女”琥珀

スーパー歴女の秋野琥珀は「クライネ」のサブ組ですが、歴史をはじめとしたウンチク役として、主にオフザピッチで浜名湖エリアや全国の遠征先の歴史文化にまつわるいろんな情報をもたらしてくれます。無駄知識も多いと思いますが「未来の歴史アイドル」秋野琥珀を応援してあげてください。


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 自主練とダウンが終わると「クライネ」の全員がピッチに集められる。室崎むろさきかぐら監督が翌日の日曜日に、30分ハーフの紅白戦を行うと選手たちに改めて伝えた。


 荒木良子コーチからメンバー分けが提示される。紅白戦らしく赤チームと白チームに分けて名前が呼ばれたが、練習生の虹子も主力組vsサブ組と分かるメンバー編成だった。


 一本締めで、この日の練習が終了。荒木コーチが虹子に「明日はこっちの目は気にしないで、思い切り自分を出してね」と声をかけてくれた。


 練習後、選手は高塚駅の側にある城星じょうせい寮でお昼ご飯を食べられる。寮生でない選手もOKということで、姉のつぼみと自宅暮らしの橙山華とうやまはなも週末の練習後は寮で食事を採っているという。


 練習生の虹子も昼食に招待された。華が行くなら虹子も断る理由がない。虹子としても明日の紅白戦で味方になる選手をオフ・ザ・ピッチでも知っておきたかった。


 グラウンド横のプレハブ小屋にはシャワーも備えてあるが、2台しかない。本館まで行けば借りられるというが、ほとんどの選手は寮の風呂場で浴びるという。しかし、プレハブの更衣室に入るなり、二つの扉の向こうからシャワーの音がした。


 華「さくらね。彼女はその場で浴びないとダメなの」

 虹子「ああ、いかにもって感じ。もう一人は?」

 華「たぶんマゼンタ」

 虹子「えっ!?」

 華「こらこら。実は彼女すごい潔癖けっぺきで、サッカーしてる最中以外は常に清潔じゃないと気が済まないって」

 虹子「そ〜なんだ」


 虹子は華が分けてくれたウェットティッシュで簡単に首元や関節部分をいて、ひとまずみんなと寮に向かうことにした。


 城星寮は美浜公園のグラウンドから歩いて15分ほど。熊野神社のすぐ裏手にある。虹子は歩きながら、練習では直接絡めなかったメンバーを梨恵に紹介してもらう。


 梨恵「2年生の秋野琥珀あきのこはくちゃん」

 琥珀「琥珀で〜す!」

 虹子「あ、巴御前親衛隊の」

 琥珀「えっ、なんでそれを。梨恵さん、余計なこと吹き込んだでしょ」

 梨恵「吹き込まなくたって分かるでしょう」

 琥珀「えっ」

 虹子「『巴様から離れろ!』って」

 琥珀「あちゃっ、聞かれていたか」

 虹子「あの大声で、聞こえない方がおかしいよ」

 琥珀「てへっ」


 その紺野巴こんのともえの姿が見当たらない。3on3で一緒の組だった銀谷静かなやしずかの姿もなかった。


「そういえばダブル御前は?」


 虹子が聞くと、梨恵は「これからトップチームの試合見学だって」と答えた。


 梨恵「WOリーグの新シーズンが9月に開幕するから、プレシーズンマッチを観ておきなさいって。だから本館の方でシャワーを浴びて、そのまま室崎監督とタクシーで遠州灘シーパークに行くって」

 虹子「シーパーク?」

 梨恵「浜名ウンディーネのホームスタジアム。最近改修されて、すっごい綺麗よ」

 虹子「神子さんは?」

 梨恵「神子も二人と一緒だと思う。彼女はトップ昇格が内定していて、8月の大会を最後にクライネ卒業が決まってる。すでに二種登録で、カップ戦とかに出てるのよ」

 虹子「二種登録?」


 梨恵は虹子に二種登録について説明してくれた。つまりは高校やU−18のカテゴリーのチームに在籍したまま、NリーグやWOリーグなど、年齢制限の無いチームの公式戦に出場できる制度だ。巴と静も公式戦に出場はないものの二種登録はされている。


 ちなみに3年生の梨恵はトップ昇格を目指さず、磐田にある静岡産能大で、スポーツ科学の勉強をしながらサッカーを続けるという。


 梨恵の仲介で、寮に着くまでの時間でキーパーの与謝野楓よさのかえで、さらに黒木千尋くろきちひろ千草沙織ちぐささおりにも自己紹介できた。


 華は少し離れたところで仲間たちと雑談しながらも、様子をうかがってくれているのが分かる。そうこうするうちに、通りの先に赤い鳥居と奥にそびえる松が見えてきた。


「あれが熊野神社?」


 虹子が梨恵に尋ねると「そう」と返ってくる。


「高塚熊野神社は熊野本宮大社の神主さんが建立こんりゅうしたとされ・・・」


 突然声が聞こえたので振り返ると秋野琥珀だ。熊野って確か和歌山県だよな・・・それにしても細かすぎて、琥珀の語る情報が頭に入ってこない。


 虹子が苦笑いしながら梨恵の顔を見ると「琥珀は歴女れきじょだから」と小声で言ってきた。


 虹子「歴女?」

 梨恵「簡単に言うと、歴女は歴史通の女子のこと」

 虹子「ああ」

 梨恵「琥珀、そっちの世界では()()()()()()として、ちょっと有名なの」


 虹子も都内の名門進学校に合格するため、日本史の勉強はそれなりにやった。しかし、覚えているのは参考書レベルで、地方の寺社じしゃの由来とか言われてもさっぱりだ。


 困惑する虹子に琥珀が「虹子ちゃん。熊野三山は熊野本宮大社、熊野那智大社、もう1つは何大社でしょう?A勾玉、B速玉、C替玉」と早口で質問してきた。


「え、え〜」


 梅干しを口に入れた瞬間のような困り顔で返す虹子に向けて、琥珀が「30秒あげます。チッチッチッ」と大声で刻み出した。めんどくせ〜と虹子は正直に思いながらも考え込んでいると・・・


「ひなはお腹がぺこちゃんだ。寮までとんで行くら」


 ひなぎくがそう言うと、あっという間に前方のカーブを曲がって言えてしまった。


 沙羅「虹子、琥珀は放っておいていいから。寮行くよ」

 虹子「え、うん」

 桃香「あの松の木さんに、ちょうちょいるかな」


 仕方がないので、虹子は「Cは無いからB」と答えると、琥珀が「ピンポーン」と製薬会社のCMみたいな擬音ぎおん語で正解を告げた。


 琥珀「じゃあ、虹子ちゃんには食事中、特別に未来の歴史アイドル秋野琥珀の歴史講座を贈呈ぞうていしますぞ」

 虹子「ありがたく遠慮しておきます」


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