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25 華とモーニングコーヒー

 話が落ち着いて部屋が静かになると、外で小雨が降っていることに気付いた。6月に雨が降りやすいのは東京も静岡も一緒だ。


「せっかくだし、晴れるといいね」


 そう言いながら窓の外の様子を見ていた華が「あのさ、明日の練習前だけど。雨が止んでたら」と虹子が語りかけた。


 虹子「ん?」

 華「ちょっとランニングしない?」

 虹子「うん、いいけど」

 華「見せたい場所があるんだよね」

 虹子「・・・もしかして弁天島?」

 華「も〜簡単に当てるなよ」

 虹子「だって、あたしも相談しようと思ってたから」

 華「そうか。うふふ」


 虹子はもともと弁天島に行きたいと考えていたのだ。これまで旅行雑誌やウェブサイトでしか見たことがなかった。あと30分ほどで、蕾さんも二階に上がってくるはず。それまで起きて待っていようとも思ったが「姉のことは気にしないで、早く寝たほうがいいよ」と華に言われた。


 ワクワクする気持ちをどう抑えて眠りにつこうか、虹子はちょっと心配になっていた。それでも食後に少し話してから歯を磨き、布団に入ると旅の疲れからか、いつの間にか虹子は寝息を立てていた。そんな虹子の顔を見て、華はニッコリ笑うと居間の電気を消して、自分の寝室に入って行った。


 目が覚めると、居間から見えるキッチンに華が立って、何やら煙を立たせていた。「あ、おはよう虹ちゃん」と笑顔で華が言ってくる。


 虹子「ふあぁ〜早朝から悪いね」

 華「これ私の分、虹ちゃんは自分で作って」

 虹子「なっ」

 華「うふふ。冗談よ。もうすぐできるから待っててね」


 虹子も料理は苦手ではない。帰宅部になってから帰りが早いので、母の陽子から料理を習い、早い時間に虹子が陽子の分まで作って帰りを待つこともあった。しかし、朝は苦手で料理をするのは夕飯、休日でも早くて昼ごはんだった。


「ごめんね〜華」と虹子は声をかけて、お風呂場の手前にある洗面器で顔をバシャバシャと濡らし、うがいをする。鏡を見ると少し寝癖が付いている。


 虹子「華、シャワー浴びるよ」

 華「うん。味噌汁あっためておくね〜」

 虹子「ありがとう

 華「あ、その前に寝癖の写真撮らないと」

 虹子「いらんわ!」


 やや熱めのシャワーを顔に当てて目を覚まし、寝癖のついた髪も思い切り湿らせる。昨晩と同じくターバンのようにタオルを巻いた虹子が居間に姿を現すと、「うふふ」と声を漏らしながら、懸命に笑いを堪えるような顔をした華がいた。


 華の顔を見ながら、またもや東京にいる笑上戸の友達を思い出した。


 あの風見類かざみるいは東京ヤングシスターズにすんなり溶け込めているだろうか・・・虹子も浜名ウンディーネの合格を勝ち取って、類や夕輝、そして凌駕、賢太、雄斗にも良い結果を報告しないといけない。


 そしてもう一人の親友である香月朋美かづきともみ。合格したら朋美にはどう伝えようかと虹子は思い巡らす。朋美にはサッカーを再開したことすら、虹子はまだ伝えていない。


 特に隠す気はなかったが、東京ヤングシスターズのセレクションに落ち、すぐに浜名ウンディーネの練習参加が決まった流れで、伝えるタイミングを失ってしまったのだ。


 味噌汁のにおいで我に返ると、カレーを食べた時と同じ配置で味噌汁、卵、焼鮭、ご飯というクラシカルな日本の朝ごはんを堪能した。


 そしてテーブルの隅に、サランラップで覆われた皿におにぎりが二個乗っているのに気付いた。きっとまだ寝室で横になっている姉の蕾のために華が握ったのだろう。


 虹子はごはん1杯目をシャケと一緒に食べて、そして二杯目は卵かけご飯にしてかっこんだ。


 虹子「あ〜美味しかった。もうあんたの嫁になるしかないよ」

 華「うふふ。夫が専業主婦のパターンね」

 虹子「その分、あたしが稼ぐから」

 華「ちゃんと家事を手伝いなさい」

 虹子「へいへい、皿洗いしま〜す」


 虹子は華の分まで食器をシンクに運び、水で洗い始めると「うふふ。冗談だよ」と言って、華もキッチンで一緒に洗った。虹子は小学校の卒業から4年以上も会っていなかったことが不思議になった。


 もし、あの記事を見付けなかったら・・・今思うとゾッとする。そして一緒のチームでプレーできるチャンスが目の前にあるのだ。


 食器を洗い終わると、華が「ちょっとそっちで休んでて」と言って、ハンドドリップでモーニングコーヒーをれてくれた。これがまた本当に美味しかった。


「これ、すっごく良い香りだけど、どこのコーヒー豆なの?」と虹子が聞くと「ビーンズツリーっていうお店。あ、弁天島の近くだよ」と華が答えた。


 虹子「静岡っていうと緑茶のイメージしかなかったけど」

 華「私だって来る前はそうだよ。でも、色々とあるよ」

 虹子「そっか、楽しみだな。だけど、その前に」

 華「合格を勝ち取らないとね」


 気が付くと壁の時計は7時を回っていた。夜間に降っていた雨はすっかり止んで、陽の光が部屋に注ぎ込まれている。10時半の練習開始までは3時間半。「クライネ」が週末の練習に使用している美浜公園のグラウンドは舞阪からバスで30分弱だと言う。


 華「さてと、じゃあ行きますか」

 虹子「うん」

 華「いざ弁天島へ!そこの者、付いて参れ」

 虹子「鬼ヶ島に誘うみたいに言うなよ」

 華「はい、きびだんご」

 虹子「それ、苺大福や!」

いよいよ虹子の憧れた弁天島に向かいます。そして「クライネ」で虹子は合格を勝ち取れるのか。


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