24 虹子とカレーライス
華とは積もる話もあるが、翌日の練習参加に備えて体調を整える必要がある。土日の二日間、浜名ウンディーネ・クライネのトレーニングに参加して、認められたら加入が内定する。その後は一通りの身体検査、監督やスタッフとの面談、浜名学芸館高校の学力審査だ。
高校の編入は後期課程の始まる9月になりそうだが、チームには夏休みの活動から参加できる見込みだ。とにかく自分が今持っているベストを出すしかない。新宿中央公園での凌駕たち5人とのプレーで掴んだ感触を虹子は思い返していた。
華は何かと用意がよく、虹子がすぐにお風呂に入れるようにお湯をためてくれていた。「少し時間が経ってるから、適当にお湯を足して調整して」と気の利いたことを言ってくれる。
姉の蕾はお店を閉めてからも1階で後片付けや売り上げの計算があるらしく、午後9時を過ぎないと2階には上がってこないという。土日はお店を休みにして、友達のところに遊びに行くそうだ。
「友達って言ってるけど、たぶんカレシだよ♪」
華は普通に話しても下の階まで聞こえそうにないのに、ヒソヒソ話してきた。虹子は晩ご飯のことを華に確認しておらず、コンビニでも良いかなと思っていたが、華がカレーを作ってくれていた。玄関に入った時にスパイシーな香りが漂ってきたのはそのためだ。
虹子がお風呂に浸かっている間に、カレーを温めてくれていたようだ。上がってパジャマ姿でタオルを頭に巻いて居間に戻る。
すると華が「虹子、右手をこうしてみて」と手のひらを上にしてたので「こ、こう?」とポーズを取りながら聞き返す。華は「そうそう」と言いながら、カレーが盛られたお皿を手のひらの上に乗せてきた。
華「インド人の女の人みたい」
虹子「えっ・・・」
華「もうちょっと角度をこう、かな。オッケー」
虹子「華、それって外国人の偏見じゃないの?」
華「でもインド人のお友達いるから」
虹子「え、まじっ!?」
華「浜松にあるインド料理店のマンスーラさん。美味しいカレー教えてくれたの彼女だもん」
虹子「リア友かよ」
華「お姉ちゃんと同じく10歳ぐらい上だけど、素敵な人だよ。今度食べに行こうよ。はい、こっち向いて」
カシャっとスマホ撮影の音がした。虹子が膨れっ面で文句を言おうとすると「冷めないうちに食べて」と言ってテーブルの前に座るように勧め、自分の分をよそいに行った。
華が向かいに座ると「いただきます!」と二人で両手を合わせて、カレーを口に運ぶ。
虹子「うまっ」
華「ほんとっ?」
虹子「うん。何だこの舌触りは・・・生姜?」
華「そっ、生姜と擦ったリンゴ、ココナッツミルクも少し入れてるんだ」
虹子「だからピリッとして、それでいてマイルドなんだ」
華「虹ちゃん、辛いの苦手だったでしょ」
虹子「小学生の頃はね。もう克服はしたけど、ありがとう」
華「うふふ、どういたしまして〜」
華はニヤニヤしながらスマホを操作している。これは良からぬことを企んでる時のやつ・・・虹子は阻止しようとしたが、時すでに遅かった。スマホの画像をこちらに向けて、悪そうな顔をしている。
そこに貼られた画像はタオルをターバンのように頭に巻いて、カレーを持った虹子だった。華が「クライネのUNITYグループに送っちゃった♪」と悪びれもせずに言ってきた。
虹子「こいつめ」
華「うふふ。何ごとも掴みが肝心だから」
虹子「メッセージ何て書いたの?」
華「インドから来た謎の練習生ニジコ・アサオカール3世です」
虹子「インドから来てないし、別に謎じゃないし、何だよアサオカールって。3世は余計」
華「あ、さっそくメンバーからリアクション来た」
華は虹子の隣に座り、スマホのUNITY画像を虹子にも見えるように、テーブルの二人のちょうど間にスマホを置いてリロードしていく。すると次々とリアクションが来た。
あかり:なにっ、インドから謎の練習生だと!
さら:インド代表が助っ人で来るって?
ひなぎく:カレーどうまそうだに。
みれい:質問、カレーはどうして辛いんですか1?
みこ:どんな奴のシュートも私は止めてみせる。守護神の名にかけて!
ともえ:奇遇だな。私もカレーを食べていた。
ひなぎく:ずっこいな。
怒涛の返信に虹子は「はあ〜」呆れながらも、さらに続くおかしなメッセージやスタンプを眺めて、笑うのをこらえる。その反応を見て、華もニコニコしている。
「こんな連中だから。明日は気を楽にして良いよ〜」と言って、残りのカレーを口に運んだ。華のおかげでなんとなく「クライネ」の雰囲気は虹子にも伝わった。少なくとも「暗いね」ではなさそうだ。
華「マンスーラさんにも写真送るね。はいっと♪」
虹子「こら、やめろっ!」
和気藹々としたチームを虹子はイメージした。ただ、華によるとチームを預かる室崎かぐら監督は、毎日の厳しい練習メニューで選手たちをひいひい言わせているという。
サッカーを再開して1ヶ月たらず、しかも帰宅部生活が続いた。体力面が一番の不安要素だ。それでも2日間、合わせて4時間という限られた時間で、しっかりとアピールしなければいけない。




