22 おかえり、虹ちゃん
「次は〜浜松、浜松です。お降りの方はお忘れ物ございませんように」
新幹線のアナウンスが流れてきた。虹子は隣の女性に「すみません」と断って、リュックを上の棚から下ろすと通路に出た。
やはり名古屋や新大阪まで行く人が多いのか、虹子の車両では二人ほどしか立ち上がっていなかった。停車時間も分からないので、虹子は早めに降り口へと移動する。電車の速度が落ちて、前方に浜松駅のホームが見えてきた。
浜名ウンディーネが提携する浜名学芸館は浜松駅から徒歩圏にあるらしい。ただ、静岡県外や静岡東部に実家がある過半数の選手たちは、1つ先の高塚駅に近い寮で生活しており、そこから自転車で通学する子も多いと橙山華から聞いた。
雨の心配が無い日は自転車で高校に行き、そのまま浜名ウンディーネ・クライネの練習に行く子が多いらしい。華が姉の蕾さんと暮らす自宅はさらに1つ先の舞阪駅だが、体力強化もかねて自転車で通学しているそうだ。
新幹線から降りて「東海道線の乗り換え」と表示されたエスカレータで改札階に下る。虹子はスマホで時間を確認すると、午後6時32分になっていた。あたりも暗くなり出している。
東海道本線の豊橋行きは46分発なので、少し余裕がある。虹子はUNITYのアプリをタップして、華に「浜松着いた。46分発の電車に乗る」と簡単なメッセージを送り、ホームでの自撮り画像も貼った。
橙色ジャージの虹子と駅構内の写真を見ながら、ちょっと見栄えしないかなと首をひねる。新幹線から降りて、すぐに撮れば良かったかと少しだけ後悔したが、すぐに華から負けず劣らず、あまり見栄えのしない背景の自撮りが送られてきて安心した。
「しっかし、美人に成長してるな華は」
そうこうするうちに時間が迫ってきたので、虹子は乗り換え口から東海道本線のホームに移動して、豊橋行きの電車が到着するのを待った。プーっと音を立てながらホームに入って来ると、ホームの椅子に座っていた客も立ち上がった。
帰宅ラッシュの夕方とあって席は空いていなかったので、虹子は反対側のドアの脇に寄りかかって、リュックを下ろした。華からメッセージが来ている。
「舞阪駅に着いたよ」
すぐに行くと返事をしたが、乗車からの10分間が虹子にはすごく長く感じた。寮があると言う高塚駅までが6分で、そこから4分で舞阪駅に着く。高鳴る鼓動を抑えられない。ジュニアの時には一緒に全国を制覇した仲間。そして大切なのに、ちょっとした行き違いから疎遠になってしまった友達。でも忘れずに待っていてくれた。
「もうすぐ華に会える」
この数日間、電話であれだけ話したのに、メッセージもたくさんやりとりしたのに、なんでこんなにドキドキするんだろう。舞阪駅のホームが迫って来る。大きくはないが綺麗なガラス張りの駅舎が見えた。
虹子はリュックを背負い、ホーム側のドアに移動する。電車が速度を緩めてホームに入っていくと、橙色のパーカーを羽織った髪の長い女子が前方に見えた。
「色、かぶったわ」
そう独り言を呟きながらも、密かに期待していた自分がいることに気付いて、思わずほくそ笑んでしまった。
虹子を乗せた車両はその少し手前で止まる。ドアが開くなり、虹子はホームに駆け出た。車掌さんからの「危ないですよ」という声が聞こえても、虹子は振り返りもしない。そして目の前の華に夢中で抱きつこうとした。
ゴツンッ!
華「痛った〜」
虹子「あたたっ」
その場で倒れ込む二人を電車の乗客、そして次の駅に向け、まさに出発の号令をかけようとしていた車掌さんも心配そうに見たが、次の瞬間、二人は「あはは」「うふふ」と笑い出した。
虹子「顔当たんないように、左にズラしたのに」
華「こっちだって当たらないように、右にズラしたんだよ」
虹子「いきなり噛み合わねえ〜」
華「全少の最強コンビ、完全復活には時間が必要ですな」
ようやく電車は弁天島駅に向けて動き出した。虹子が車掌さんに手を振ると、笑顔で手を振り返してくれた。深呼吸して、もう一度目の前を見ると、そこには確かに華がいた。
再会して第一声が「あたたっ」になってしまったが、おかげで少し前の緊張がどこかに吹き飛んでいた。今なら素直に言える。華に伝えたかった言葉・・・
虹子「華、ただいま」
華「おかえり、虹ちゃん」
ついに虹子と華が再会を果たしました。でも、二人のストーリーは始まったばかり。ここから浜名湖を舞台にサッカー少女たちの破天荒な物語が加速していきます。
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