19 スリー・オン・スリー
多目的広場の中央あたりで6人は輪を作り、1つのボールを回す。男子3人はU−16代表だというし、星野夕輝も女子の代表経験者だが、虹子が誰よりも驚かされたのが風見類だ。ボールを扱う技術は凌駕にも引けを取らないどころか、むしろ上回っている感すらあった。
雄斗「風見さん、うますぎるんだけど」
類「ルイでいいよ」
雄斗「お、おう」
凌駕「ハギユウは反応が分かりやすいな」
慣れて来たところで、6人のうちの二人が鬼になって鳥籠を行う。遊びとは思えない早いテンポに虹子は付いていくのがやっとで、何度も引っかけられた。しばらくボールも触ってなかったブランクが、こうしたシンプルなボール回しにも出てしまう。
しかしながら、このメンバーとボールを蹴っていたら、どんどんうまくなって行きそうな感覚もある。それにしても鬼になった志田賢太のボール奪取力は凄まじかった。
虹子「シダケン、ボール奪うのうますぎない?」
賢太「そ、そんなこと」
凌駕「良かったな〜シダケン、虹ねえに良いところ見せられて」
賢太「んだと、コラー!!」
凌駕「うわ、あっぶねー」
凌駕と同学年の賢太は小学生の時から体は大きかったが弱虫で、ボールが当たったりするとすぐに泣き出した。あるチームメイトにいじめられそうになったのを虹子が助けたこともあった。城北ウイングのエースで、喧嘩も強く、親分肌の虹子が叱りつけたことで、彼らは二度と賢太に悪さをしようとはしなかった。
虹子が卒業するまで、賢太が対外試合に出たのを見たことがない。下手と言うよりはとにかく臆病で、ゲーム形式の練習では一緒に組んだ仲間たちの足を引っ張った。監督やコーチも扱いに困っていたようだ。
この何年かで、どんなきっかけがあればこんなに変わるのか。虹子は知るよしもないが、見違えるほど成長したことは確かだ。
凌駕「よし、じゃあそろそろやろうか。3対3」
夕輝「どう汲み分けるの?」
凌駕「男子チームvs女子チームに決まってるでしょ」
夕輝「ちょっとリョウくん。さすがにそれはひどいでしょ」
ゴムボールの草サッカーであっても、やはり男女の体力差は明らかだ。夕輝は中学まで男子と一緒にやっていた虹子でも目を見張るものがあり、類のテクニックは驚異的だ。それでもボール回しとゲームでは違う。無謀すぎる凌駕の提案に、夕輝がムキになる気持ちは虹子にも分かる。
虹子「夕輝さんの言う通りだと思うけど」
夕輝「そ、そうよね。朝丘さん」
虹子「虹子でいいって」
夕輝「それなら、あなたも”さん”を取りなさいよ」
虹子「えっユ、ユキ」
夕輝「ほらっ!言えないじゃないの」
類「わたしなんて最初からユキだよ〜」
夕輝「あなたは厚かましすぎるのよ」
凌駕は「まあまあ」と両手で女性陣を落ち着かせると、ゲームのルールを説明した。基本的に女子チームが攻めて、男子チームはディフェンス。コンタクトプレーでボールを奪うのは禁止だ。凌駕の提案で、ボディタッチしたら1年間「すけべ野郎」と言う別名を背負うことも付け加えられた。
虹子「それ、あんたがやっちゃったらどうするの・・・」
凌駕「いいよ。俺もともと、すけべ野郎だから」
夕輝「ちょっとリョウくん。はしたないわね」
膨れながら凌駕に注意する夕輝の意外な可愛さに、虹子は内心びっくりしたが、凌駕のニヤケ面を見て、軽蔑の視線を送ってやった。このすけべ野郎!
男子チームはボールを奪ったら、一本のパスとドリブルだけで目標の位置を目指す。もし行けなかったらノーポイント。必ず女性陣から攻撃が始まり、いくらでもパスをつないでも良い。多目的広場なので、ロングキックや浮き球のパスは両チームとも禁止だ。
類「へえ面白そう。りょうちんが考えたの?」
凌駕「ま、まあね・・・」
夕輝「何よ、りょうちんて。馴れ馴れしいわね」
類「いいじゃん。親友の彼氏なんだから❤️」
夕輝「あなたを親友にした覚えはないわ」
類「ええ〜」
夕輝「知り合って5日でしょ。直接会ったのも今日で3度目よ」
類「いっぱい話したでしょ〜恋話とかさ」
夕輝「ちょ、ちょっと、何言ってるの!」
そう言い返しながら、夕輝は凌駕の方をチラチラ見る。その姿が虹子には微笑ましかった。それっと同時に、思ったほど複雑でもない自分の気持ちに気付いた。”親友”の二人がやりとりしている間に、虹子は目を細めながら凌駕に近寄る。
虹子「やっぱりそうなのね」
凌が「いや、そんなんじゃ・・・」
虹子「まさか、遊びじゃないでしょうね」
凌駕「あ、いや・・・」
虹子「肝心な時に男らしくないなあ」
凌駕「虹ねえ、いつも男女は関係ないとか言ってるじゃん」
虹子「それとこれとは別よ!」
見るに見かねた雄斗が「ほら、早くやろうぜ。もたもたしてると暗くなるからさ」と制した。さすがは代表チームのキャプテンだ。ゲームの時間は15分×2本ということになった。
お互いの目標になる木と木の感覚が20メートルほど。横幅も目分量で、だいたい正方形になるぐらいということになった。こういう遊びのサッカーは大枠と要所をしっかり決めたら、細かいことは縛りすぎないのがうまく行くコツだ。
虹子はできるだけ二人のお荷物にならないように意識していたが、類からパスをもらって、いきなり凌駕が寄せて来た。強引にボールを運びながらキープしようとしたら、あっさり奪われてしまった。
「チャ〜ンス。ハギ!」と叫んだ凌駕の縦パスに賢太が走ったが。わずかにボールが合わずに、そのまま木の横を抜けて行った。
夕輝「虹子、何やってるのよ」
類「ドンマイ、ドンマイ」
虹子「ごめ〜ん」
夕輝「別に、謝らなくていいわよ!」
それから何度も虹子のところでボールロストが続いた。凌駕だけでなく、雄斗にも賢太にもボールを奪われてしまった。そのうち二度のカウンターが繋がり、始まって5分ほどで男子チームが2−0とリードした。虹子は気持ちばかりが焦って、周りが見えなくなってくる。
夕輝が「はあ〜」とため息をついてから「リョウくん、ちょっとタイム」と凌駕に呼びかけた。「ああ。手短にな」と凌駕は返したが、男子二人に「トイレでも行こうぜ。ごめんな、男は近いんだ」と誘いをかけた。
「ちょっと、何言ってるのよ」と夕輝は腕を組んで、プイっと凌駕に背中を向ける。いちいち仕草が可愛い。しかし、今の虹子にはそのやりとりを微笑ましく眺める余裕も無かった。
凌駕「我ら三人、生まれた時と場所は違えど、行くトイレは同じ」
雄斗「三国志か!」
凌駕「桃園の誓いだけに、トイレも近い」
賢太「誰だよ、俺のこと張飛って思ったやつ」
雄斗「誰も思ってねえよ」
劉備、関羽、張飛ならぬ凌駕、雄斗、賢太の野郎三人が、馬鹿話に花を咲かせながら去っていく。夕輝は虹子に「あなた、なんでこうなってるか理解してるの?」と語気強く問いかけた。さすがの類も心配そうに二人のやりとりを見ている。
虹子「あたしが、下手だから」
夕輝「違うわよ!あなた、私たちのこと全然見てないでしょ」
類「そうだよ、虹子」
虹子「あっ・・・」
虹子はハンマーか何かで頭を叩かれたような感覚になった。
東京編クライマックスです。次の「20 サッカーが好きだ!」を最後に、メインステージは静岡に移っていきますが、その後も東京はいろんな形で物語に関わっていきます。
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