表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/65

13 浜名ウンディーネ

 とりあえず帰宅して、落ち着いたら凌駕や類にメッセージを送ろうと切り替える。駅から10分ほどの自宅に着こうかというタイミングでスマホをみると、UNITYに受信マークが付いている。アプリを開くと風見類かざみるいだった。


 類:合格したよ。

 虹子:おめでとう!やったね〜


 既読から少し間があり、類から「虹子は?」というメッセージの直後に、まるで類をモデルにしたような『風に踊る妖精』のキャラクターが「?」マークで首を傾げているスタンプを送ってきた。目の前に類がいるかのような気まずさを頭の中で握り潰す。


 どっちにしても伝えなければいけない。時間が経てば経つほど言いにくくなる。虹子はできるだけ簡潔に伝えられるメッセージを思い巡らした。


 虹子:ダメだったよ。ショボン( ´△`)

 類:そっか。


 無意味な顔文字を付けたメッセージに類はすぐにそう返してきたが、そこからしばらく会話が止まってしまった。


 それでも自宅に帰ると、陽子には割とあっさり伝えることができた。なんだかんだ、素直になれるのはたった一人の母親の前だ。


「残念だったわね。じゃあ虹子が好きなもの作るわ」


 陽子はそう言うと、そさくさとスーパーの買い出しに行ってしまった。


 いつも自分の選択に賛同して、支えてくれた陽子は虹子に「勉強だけはちゃんとやっておきなさいよ」と言うぐらいだ。


 それだけに、東京ヤングシスターズのセレクションを受けると伝えた時の喜び様は記憶にないほどだった。図らずもそんな期待を裏切る結果となったのだ。それでも明るさを装ってくれた母親は実際どういう思いでスーパーに向かったのだろうか。


「はぁ・・・」


 虹子はまた深くため息を付くと、お風呂のお湯を出し、二階の寝室で青色のジャージに着替えた。1階のリビングに戻り、凌駕にメッセージを打とうとスマホを片手にしたタイミングで新しい受信マークがついた。類だ・・・


 類:ごめん、なかなか言葉が見つからなくて。放置プレーになってた?

 虹子:ぜんぜん問題ないよ。

 類:通話していいかな?

 虹子:ありがとう。でも今はごめん。少し落ち着いたら、あたしから連絡する。

 類:分かった。待ってるよ。


 UNITYのアドレスを交換してから、何度か類とはやりとりをしているが、彼女との会話にスタンプやアイコンが全く使われなかったのは初めてだ。通話で伝えたいことは何なのだろう。


 虹子は意地を張ってしまったことを少し後悔した。ただ、類のメッセージによって、ようやく凌駕に報告にする背中を押された気がした。


 しかし、虹子が凌駕に連絡しようと思いながら、お風呂場で髪を乾かしている時に凌駕から着信が入る。リビングのテーブルにスマホを置いていたが、すでに買い物から帰ってきた陽子が「虹ちゃん、着信だよ〜」と言って持ってきてくれた。


 虹子「はい」

 凌駕「虹ねえ・・・あのさ、たぶんそっちから報告しにくいかと思って」

 虹子「へ、何のこと?」

 凌駕「セレクションの結果。ユキ、あっ星野さんから聞いたから」

 虹子「やっぱり、そう言う関係なんだね」

 凌駕「そんなんじゃねえよ」


 必死に反論してくる凌駕に「どう言う関係を想像してるんだか」と言って、1つ気になったことを聞いた。


 虹子「なんで彼女が結果を知ってるの?」

 凌駕「ああ。ヤングシスターズの選手たちはスタッフとして参加したから、合格者の名前は聞かされたらしくて。まだ内定だから、公表はしちゃいけないらしんだけど」

 虹子「でもリョウくんには伝えたんだ・・・あたしのこと話してたの?」

 凌駕「合否の前からね。虹ねえが参加してたって」

 虹子「あ、そうか・・・」

 凌駕「その時は俺の記憶に無いぐらい喜んでたけど」


 あの星野夕輝ほしのゆきが虹子のセレクション参加を喜んでいた?とてもそんな態度には見えなかったが・・・虹子はそう思いながらも、凌駕との会話を続ける。


 凌駕「ただ、たぶんダメじゃないかって、実は結果が出る前から言ってて」

 虹子「彼女がそんなことを・・・理由は?」

 凌駕「そこまでは・・・あのさ、このタイミングでおかしいかもしれないけど」

 虹子「なに?」

 凌駕「もう1回、一緒にボール蹴らない?俺もちょっと思ったことがあって」

 虹子「え・・・」

 凌駕「セレクションの前まで俺も気付いてなかったんだけどさ。夕輝がダメじゃないかと言った理由が、今はちょっと分かるんだよ」

 虹子「夕輝がね」

 凌駕「あっ」

 虹子「もう、無理しないでいいよ」


 セレクションの結果を見た虹子は正直、どうして良いか分からなくなっていた。だけど凌駕は虹子がサッカーを続ける前提で考えているようだ。虹子はまたしても自分の弱さ、甘さが恥ずかしくなった。それでも確かなのは虹子の中で、サッカーの火がまだ消えていないと言うことだ。


 とりあえず虹子は凌駕にOKという返事をした。「スケジュールを調整するから、ちょっと待って」と凌駕に言われて1時間ほど、陽子が虹子のために作ってくれた大好きなミートパイに舌鼓を打ちながら、橙山華のCommenterをチェックしていた。


 最初あまり意識していなかったが、静岡に引っ越してから、藤枝清心ふじえだせいしん女子という学校の部活でサッカーをしていたらしい。そこから中学卒業とともに、県内のクラブチーム所属を移している。


 藤枝清心は中高一貫の学校だ。華が所属チームの変更に伴い転校までしたかは分からないが、Commenterのプロフィールに浜名ウンディーネ・クライネという現在の所属チームが書かれていた。


 浜名ウンディーネ・・・


 虹子は少し気になって、そのチーム名で検索にかけてみた。浜名ウンディーネはその名の通り、浜松市と浜名湖周辺エリアをホームタウンとする女子サッカークラブだ。


「浜名湖って、あの弁天島・・・」


 虹子は旅行雑誌で気に入った場所を思い浮かべた。浜名右ウンディーネはフラワーリーグに所属していたが、9月に開幕する新シーズンからプロクラブとしてWOリーグに参入するらしい。


「WOリーグ・・・東京シスターズと一緒か」


 思わず独り言を発した虹子に陽子が「どうしたの?」と声をかけると「なんでもな〜い」と返したが、頭の中では城北ウイングで華と一緒にプレーしていたことを思い出していた。


 浜名ウンディーネ・・・虹子が頭の中でその名前を言いながら、華のプロフィールを見て「えっ」と再び声を出してしまった。陽子が無言でこっちを見るので、虹子は無言で首を横にふる。


「虹色棋士」が橙山華にフォロバされてる・・・


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ