異世界にて5
「ざけんな! んなもん、てめぇらの都合じゃねえか! 俺はそんなもんやらねぇぞ!」
御法川の怒声が、謁見の間の高い天井に反響する。
言葉は乱暴でも、言っていることは真っ当だった。
珍しく、四方田さんも御法川を止めない。
代わりに、彼の隣へ一歩進み出る。
「私も、協力する気にはなれません。……第一、私たちはまだ高校生です。魔王を倒せと言われても、戦うことすらできません」
毅然とした声に、王の隣で神経質そうに目を細めていた男──モーツァルト髪が即座に反応した。
「無礼者! 異世界人風情が何を言うか! これは本来、大変名誉ある役割で──」
「カッツェよ、構わん」
王が左手をすっと掲げ、男の怒声を遮る。
「戦わぬというのなら、それもまた一つの選択だろう。……だが、そうなると元いた世界には戻れぬかもしれんがな」
御法川の眉が跳ねた。
「はァ!? どういう意味だ、クソジジイ!」
「言葉どおりだ。お前たちを誰が、どうやって召喚したのか……我々にも分からん。ならば、どうやって戻すかも当然分からぬ」
王は御法川を見もせず、淡々と続ける。
「だが、過去の勇者たちは魔王を討伐した直後、例外なく姿を消した。光に包まれ、この世界から忽然と──」
そこで初めて、王の視線が僕たちへ向いた。
「使命を果たしたことにより、元の世界へ返されたのではないかと我々は考えている」
王の口の端が、わずかに持ち上がった。
「黙って聞いてりゃ、人をデリヘルみてぇに……! ふざけんなよ、マジで!」
御法川が前へ一歩踏み出す。
石床を踏み鳴らす音が重なり、周囲の衛兵たちが一斉に槍を構えた。
無数の穂先が御法川へ向けられる。
「お待ちください」
静かな声に、衛兵たちの足が止まった。
王の反対側から、一人の少女が進み出る。
腰まで流れる白銀の髪に、淡い蒼色の瞳。
白と金を基調とした衣装に包まれた身体は華奢で、見た目だけなら僕たちより幾つか幼く見えた。
「突然、異界へ連れて来られたのです。戸惑いも、怒りも、不安も、当然のことです」
少女は僕たちの前で足を止め、深く頭を下げた。
「私はこの国の王女、ティアレスタ=ノエリィア=アナ=ルクレア。どうぞティアラとお呼びください。まずは数々の非礼、心よりお詫び申し上げます」
「姫! 王族たる者が頭など──!」
「世界を救っていただく立場にある我々が、礼も尽くさず何を願いましょう」
カッツェは口を開きかけたまま黙り、御法川へ向けられていた槍がわずかに下がった。
ティアラは頭を上げると、柔らかな声のまま続ける。
「……とはいえ、王が申し上げたこともまた事実です。我々は、皆様を召喚した者を知りません」
淡い蒼色の瞳が、僕たちを順に見ていく。
「ただ、過去の勇者が魔王を倒した直後、現れた時と同じ光に包まれ、姿を消したことは記録に残されています」
「それが元の世界への帰還であったと、断言することはできません。ですが、それ以外の方法で元の世界へ戻ったという記録もありません」
御法川の拳が震える。
けれど、その拳を振り上げることはしなかった。
「つまり……」
無月が一歩前へ出る。
いつもの爽やかな笑みは消えていた。
「帰りたければ戦うしかない。そういうことですね」
ティアラは目を伏せる。
「……はい」
短い返事だった。
「王女様」
無月の声は静かだった。
「僕たちは今、ようやく人として接していただけた気がします」
ティアラはふわりと笑った。
柔らかく、美しい笑みだった。
そのまま彼女の瞳は僕たち五人を順に巡り、最後に僕の右手人差し指で止まった。




