表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/291

異世界にて5

「ざけんな! んなもん、てめぇらの都合じゃねえか! 俺はそんなもんやらねぇぞ!」


御法川の怒声が、謁見の間の高い天井に反響する。


言葉は乱暴でも、言っていることは真っ当だった。


珍しく、四方田さんも御法川を止めない。


代わりに、彼の隣へ一歩進み出る。


「私も、協力する気にはなれません。……第一、私たちはまだ高校生です。魔王を倒せと言われても、戦うことすらできません」


毅然とした声に、王の隣で神経質そうに目を細めていた男──モーツァルト髪が即座に反応した。


「無礼者! 異世界人風情が何を言うか! これは本来、大変名誉ある役割で──」


「カッツェよ、構わん」


王が左手をすっと掲げ、男の怒声を遮る。


「戦わぬというのなら、それもまた一つの選択だろう。……だが、そうなると元いた世界には戻れぬかもしれんがな」


御法川の眉が跳ねた。


「はァ!? どういう意味だ、クソジジイ!」


「言葉どおりだ。お前たちを誰が、どうやって召喚したのか……我々にも分からん。ならば、どうやって戻すかも当然分からぬ」


王は御法川を見もせず、淡々と続ける。


「だが、過去の勇者たちは魔王を討伐した直後、例外なく姿を消した。光に包まれ、この世界から忽然と──」


そこで初めて、王の視線が僕たちへ向いた。


「使命を果たしたことにより、元の世界へ返されたのではないかと我々は考えている」


王の口の端が、わずかに持ち上がった。


「黙って聞いてりゃ、人をデリヘルみてぇに……! ふざけんなよ、マジで!」


御法川が前へ一歩踏み出す。


石床を踏み鳴らす音が重なり、周囲の衛兵たちが一斉に槍を構えた。


無数の穂先が御法川へ向けられる。


「お待ちください」


静かな声に、衛兵たちの足が止まった。


王の反対側から、一人の少女が進み出る。


腰まで流れる白銀の髪に、淡い蒼色の瞳。


白と金を基調とした衣装に包まれた身体は華奢で、見た目だけなら僕たちより幾つか幼く見えた。


「突然、異界へ連れて来られたのです。戸惑いも、怒りも、不安も、当然のことです」


少女は僕たちの前で足を止め、深く頭を下げた。


「私はこの国の王女、ティアレスタ=ノエリィア=アナ=ルクレア。どうぞティアラとお呼びください。まずは数々の非礼、心よりお詫び申し上げます」


「姫! 王族たる者が頭など──!」


「世界を救っていただく立場にある我々が、礼も尽くさず何を願いましょう」


カッツェは口を開きかけたまま黙り、御法川へ向けられていた槍がわずかに下がった。


ティアラは頭を上げると、柔らかな声のまま続ける。


「……とはいえ、王が申し上げたこともまた事実です。我々は、皆様を召喚した者を知りません」


淡い蒼色の瞳が、僕たちを順に見ていく。


「ただ、過去の勇者が魔王を倒した直後、現れた時と同じ光に包まれ、姿を消したことは記録に残されています」


「それが元の世界への帰還であったと、断言することはできません。ですが、それ以外の方法で元の世界へ戻ったという記録もありません」


御法川の拳が震える。


けれど、その拳を振り上げることはしなかった。


「つまり……」


無月が一歩前へ出る。


いつもの爽やかな笑みは消えていた。


「帰りたければ戦うしかない。そういうことですね」


ティアラは目を伏せる。


「……はい」


短い返事だった。


「王女様」


無月の声は静かだった。


「僕たちは今、ようやく人として接していただけた気がします」


ティアラはふわりと笑った。


柔らかく、美しい笑みだった。


そのまま彼女の瞳は僕たち五人を順に巡り、最後に僕の右手人差し指で止まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ