異世界にて4
「王命である。勇者たちよ、魔王の征伐に向け出立せよ!」
城の奥で王が無月たち勇者へ命を下したのとちょうど同じ頃、僕は衛兵に蹴られて城門の外へ放り出されていた。
「殺されないだけありがたいと思え。この無能が」
衛兵は吐き捨てるように言うと、さっさと城内へ戻っていった。
「……まいったな」
両手で土埃を払いながら立ち上がり、城を見上げる。
その外観は、テレビで見たノイシュヴァンシュタイン城によく似ていた。
……さて。
これから、どうしよう。
顎に手を当て、ここに至るまでを順番に思い返す。
──まず、沢田石が消えた。
全員で手分けして捜したが、遮蔽物一つない草原にもかかわらず沢田石を見つけることはできなかった。
異様な状況に嵯峨さんは「気持ち悪い!」と、またプチパニックを起こしていたが、沢田石の代わりに無月が草原を横切る街道のような道を見つけた。
他に手掛かりもない僕たちは、選ぶ余地もなくその道を進むことにし、一時間ほど歩いた後、城壁に囲まれた街に到着した。
最初こそようやく人のいる場所へ辿り着いたと思ったが、近づくにつれて見えてきた街の外観は中世ヨーロッパ風だった。
街は厚いレンガの城壁に囲まれ、門扉は太い丸太で組まれている。
その威圧感に足を止めていると、門の内側から槍を持った兵士たちが現れた。
兵士の一人が僕たちの制服姿を見回し、右手人差し指の銀色のリングへ目を落とす。
「……勇者だ」
その一言で周囲の兵士たちの顔つきが変わり、事情を聞かれる間もなく槍に囲まれ有無を言わせず城へ連れていかれることになった。
その際、御法川は兵士へ食ってかかったが四方田さんが必死に説得しどうにかその場を収めていた。
そうして連行された先、城の謁見の間にはいかにも偉そうな老人が鎮座していた。
「静粛に! 王の御前であるぞ!」
横に立っていた、モーツァルトみたいな髪型の男性が怒鳴るように吠えた。
「これよりお言葉を賜るは、夢神の巫子の血を引きし王、レミュナス=フォルセティア=ディ=セラフィム=ルクレア陛下であられる!」
偉そうな老人はしかして本当に偉かった。
王は厳かにこの国と世界について語り始めたが、回りくどくて途中から真面目に聞くのをやめた。
話半分に聞いた限りでは、宗教と王権ががっちり手を組んだ絵に描いたような神権封建制らしい。
冗長な説明にちょっとトイレに行きたいなと思った頃、ようやく王から僕たちの状況について説明が行われた。
──曰く。
この世界において、僕たちは勇者と呼ばれる存在らしい。
誰が、どうやって召喚しているのかは王たちこの世界の人間にも分からない。
ただ、勇者がこの世界に現れるのは、決まって世界が危機に陥った時だという。
危機とは、魔王の復活。
王の話によれば、復活した魔王はこの世界のあらゆる力の源である『マナ』を吸収し、独占するらしい。
放置すれば世界中のマナが枯渇し、あらゆる生命が滅びる──という話だった。
その危機から世界を救うために現れるのが僕たち異世界から来た勇者というわけだ。
……それならもう少し丁重に扱ってほしい、と思ったが、どうやら現れる勇者の数はかなり多いらしく、この国以外でもいたるところに同時に現れているということだった。
その中の誰か一人が魔王を倒せばそれで問題は解決する。
つまり僕らは数打ちゃ当たるの一発に過ぎない。
しかも、この世界はこれまでも同じような危機を何度も同じ方法で乗り越えてきたらしく、勇者へのありがたみも世界への危機感も随分と希薄になっている。
ただし、それでも各国が勇者を必要とすることにはきちんとした意味がある。
どうやら魔王を倒した勇者を「支援していた国」は国際的な名誉と発言権を得られるらしい。
だから各国は、躍起になって勇者の囲い込みを国家規模で行っているのだそうだ。
──要するに、僕たちは世界の危機を救う英雄なんかじゃない。
いや、世界にとっては勇者かもしれないが、国にとっては使い勝手のいい持ち駒。
そういう説明を一通り聞き終えた頃、御法川がブチギレた。




