学校・リビングデッド
その瞬間、全員の動きが止まった。
……あれ。何か変なことを言っただろうか。
「……王都で噂を聞いた時、魔王を倒すのは無月たちのパーティだって、みんな言ってた。でも、アナウンスで流れた名前は深谷無月だった。無月の苗字って、上遠野……だよね?」
視線が一斉に無月へ集まる。
当の本人は瞬きもせず、わずかに唇を開いたまま僕を見ていた。
長い付き合いの中でも、こんな顔を見るのは初めてだった。
「そうだ……深谷無月。あいつ……!」
御法川が何かを思い出したように唸り、顔を強く歪める。
「おい、無月! あいつは何なんだよ!? お前、知ってんだろ!」
御法川は無月の机へ手をつき、顔を寄せた。
……さっき、御法川があそこまで取り乱していた理由は、これだったのか。
「俺たちで魔王を倒せるはずだったのに、あいつが突然現れて、最後だけ横から持っていきやがった!」
無月は何も答えなかった。
表情の消えた顔から、さらに血の気が引いていく。
「奴はお前に話しかけてたじゃねぇか! 俺らには見向きもしなかったくせによぉ!」
「ちょ、ちょっと実里、やめてよ……無月が困ってるじゃない」
四方田さんが慌てて御法川の腕を掴む。
それでも、御法川の興奮は収まらなかった。
ようやく、無月の唇が動く。
「……ち、違うんだ。あいつは……無月じゃない……」
掠れた声だった。
焦点の合わない瞳が宙を彷徨い、浅い呼吸を繰り返している。
「何だよ、それ。意味分かんねぇぞ。お前──」
言葉を探す無月へ、御法川がさらに食ってかかろうとした、その時だった。
無月の唇が、もう一度だけ動く。
喉の奥で、言いかけた音がほどける。
「……お、俺、いや、僕は──」
「ひ、ひぃっ……! みんな、グラウンド! グラウンド見て!」
無月の声を叩き割るように、窓際の女生徒が叫んだ。
尋常ではないその声に、全員が窓へ振り向く。
女生徒の震える指は、グラウンドの中央を指していた。
青々とした木々に囲まれたグラウンドで、赤が異様に鮮やかだった。
「こ、小玉先生……?」
誰かが呟く。
三、四十メートルは離れている。
それでも、何をしているのかはっきりと見えた。
グラウンドの中央で、白衣の女性に数人の生徒が群がっていた。
一人が肩へ噛みつき、別の一人が腹へ顔を埋めている。
白衣が赤く染まり、裂けた腹から赤黒いものが芝の上へこぼれ落ちた。




